カテゴリ:essay
イワタエイヤの詩「わたしの好きなもの」―アンソロジー2007 福間塾 所収・これは充実した詩が密集しているすばらしい作品集―を読んでいたら、久しぶりにビル・エバンスのピアノが聴きたくなった。タイトルの曲はスタン・ゲッツのサックスとの共演のもの。
「まだ私の心は立っていた」と訳すのか。あるいは「静かに私の心は」とでもいうのか。いずれにせよ「こころ」が生きているということは、言うにはやさしいが、この日常のなかではどうなのか。それが生きていたって、何になる?とでもいうような場面に瞬間ごとに引き出されているのが実情だ。 「わたしの好きなもの」としてイワタエイヤは列挙する。 ― …(略) トーマス・マン 関口存男のドイツ語文法書 真鍋先生 白川静の字統 サンスクリット文法要綱 若い恋人たちを眺めやること 乾いた空気 緑、その色 洗い晒しのワイシャツをそのまま着て自然 乾燥すること マチスの絵 ビル・エバンスのピアノ …(略) 午睡(やはり夏の) 緑陰に腰をおろして飲む白葡萄酒の一口 沈黙 静かな時間 …(略) ― これらは、すべてぼく自身にとっても「わたしの好きなもの」だ。知らない人も、ものも、あげられているけど、イワタエイヤの奥深い沈黙が紡ぎだすものに自然に惹かれてしまう。それはエバンスのピアニズムのように清潔で知的で、でもどこかで被ったダメージを一身に背負いながらもmy heart stood stillと歌っている人の詩である。 「こころ・heart」と「肉身・flesh」を持ったひとりの人間として生きてゆくこと。統制や同一化の誘惑に滑落しないこと、そこであくまでも「わたしの好きなもの」に固執することで、未知の「わたし」たちと・「わたし」たちへ・ネットワークを開き、開いていくこと、そう思うときに、心は励起する。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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