詩人たちの島

「当今、もっと政治的な論議を呼び起こしたバンド」The Dixie Chicksの三人娘が今年のグラミー賞（第４９回目）を受賞した。ベストカントリーアルバム賞とSong of the yearの部門だ、もっと、あったかもしれない。彼女たちはブッシュ政権を批判して、イラク戦争を始めた当時は、総スカンをくらったバンドだった。アメリカの芸能界のブッシュ離れもこれで明白になったということだろう。プレゼンターとして環境問題で活躍しているアル・ゴアも選ばれ、満面これ笑みという恰好で華やかなステージに立っていた。アメリカという国の一筋縄では捉えきれない懐の深大さというものを改めて感じた。

今日は久しぶりに湯殿川を散歩した。昼間の暖かさにくらべて次第に寒くなってきて、風邪を引いたような感じがする。散歩のときの調子を持続できなくなっている。

英語の勉強も久しぶりにした。ただ英語のコラムを辞書を片手に読むだけだが。Slavoj Zizekのもので、「インターネットの革命的な可能性は自己確証とはなんの関係もない」というようなタイトルで、サイバー空間上で出現しつつあるようなデジタル・デモクラシーを批判したものである。要するに、みんながそれぞれ自己のスクリーン上のイメージを見ているだけで、そこには他者とのリアルなコミュニケートなどはないということ。

バイナリー・システムの祖であるライプニッツの「モナド」のモデルが当今の典型的なウエッブ・サーファーであるという指摘、「窓なき」精神の王国としてのモナドがすぐさまに外部のリアリティを開く、という一種の独我論の世界としてジジェクはサイバースペースを批判する。まあ、それなりに納得することもあるけど、ジジェクにしては期待はずれでもあった。次のような指摘は彼でなくてもだれでもやることだ。

What Virtual Reality provides is reality itself deprived of its substance. In the same way decaffeinated coffee smells and tastes like real coffee without being the real thing, my screen persona, the “you” that I see there, is always already a decaffeinated Self.

ここで「you」としているのは、恒例のTime誌のカバーが人物ではなくて、youとされ、鏡つきの白いキーボードであったことによる。まず、ここから彼の批判が始まるのだが、それは省略する。こういうメッセージが隠蔽しているのは何か？

The message--the new cyber-democracy allows millions to directly communicate and self-organize, bypassing centralized state control--masks a series of disturbing gaps and tensions.

集権的な国家の支配は確かに依然として続いているだろう。コンピューターの白いスクリーンと白いボードはサイバーネット上で、「あなた」が「市民」であると同時に「王」でもあるという奇妙なデモクラシーを創造する舞台であるというわけだ。かき乱すようなリアルさとのギャップと生の緊張はそこから消去されてしまう。

私は、しかし、この空間からなかなか離れることができずにいる。なぜだろうか？