詩人たちの島

水島先生、

合併、統合、買収、株式公開、債券発行．．．．砂漠を渡る風のように、欲と野望が世界経済の地形を絶えず変えていきます。テルアビブ、ヨハネスブルグ、ベルリン、パリ、ロンドン、ニューヨーク、トロント、カルガリー、ロサンジェルス、東京．．．．キャピタリズムは眠ることを知りません。

昨年の十月から、私は仕事に追われて過しました。夜中過ぎのマジソン街の暗いショーウィンドウ、その中にオートクチュールを身につけて立つマネキンの影を、車の後の座席の隅に身を沈めて、ぼんやりと眺めながら家に戻る毎日でした。ニューヨークを訪れた友達と、オフィス内のカフェで３０分ほど話をするのが精一杯でしたし、ニューヨークフィルハーモニックの定期演奏会もたびたび逃す有様でした。

ところが、この木曜日の午後、四ヶ月ぶりに静穏が戻ってきました。嵐と嵐の間の凪。私はその夜、カーネギーホールでCharles Dutoitの指揮するフィラデルフィアオーケストラを聴きました。金曜日、静寂が続きます。私は、私のオフィスの扉を閉めて、久し振りに本を読みました。そして週末、暖かい陽の光を顔に受けながら、私は町を歩きました。春の気配に他のニューヨーカーもいつになくゆったりと町を歩きます。レストランはいっせいに歩道にテーブルを並べました。白いテーブルクロスにワイングラスが光ります。

月曜日には、また寒気がニューヨークを覆うそうです。仕事も忙しくなるはずです。何億ドルという大きなお金を動かす、複雑な取引にかかわる仕事はスリルがありますし、長時間働くのも苦痛ではありません。でも、この一時の平和、この春の日差し、この開放感！

草野球、空に春あり二月尽　（セントラルパークにて）

ましほ



（メモ）

久しぶりに、ましほさんから次のような英文のメールとともに、上記の文章が送られて来た。うれしかった。

Dear Mizushima-sensei,

I hope this message will find you well. Attached is a little message
in Japanese that is long overdue.

My thoughts in English do not translate very well into Japanese. I
sympathize with translators who must often find that easy, natural and
beautifully original English sentences become tense, pretentious and
contrived in Japanese. That's one of my excuses for not writing
earlier. You will find another excuse in the attached message.

Best regards,

Mashiho

ましほさん、これからは英文でもどうぞ。ぼくはきみの英語をもっと読みたい、勉強したい。

あなたの忙しさに比べたら、ものの数にもはいらぬぼくなのに、どうしてこう最近は元気がないのだろうか。お返事のかわりに、愚痴をここに書いておきます。

忙しいとは思いますが、もっとたくさん、書いてください。