詩人たちの島

もののけ
平安の
のけものたちのうらみ
平成の
日常をいきるものの気は病んでいるが
もののけになれない
深く思って、さめざめと泣く暇がないからだ

「寸断されている。イキスダマになるには
つながりが必要だ。寸断される、寸断する、
イキスダマになって、飛び交いたいのだが、もう忘れている」

生きようではないか
イキスダマになる必然性も蓋然性も奪われているのだから
死霊になるまで
生きよう
手に手をとって

96年、生きている人
その人は優しく笑う、その人は自分の娘を
お母さんと呼ぶ
次第にもうろくして、次第に明るく、次第に暗くなる
生きるということは、それだけで大きな大きな事業である
ヘッジファウンドやサミットなどにも匹敵する

そこにはもののけがたしかにいる
生というもののけが立っている、ひょろひょろと
夜中に娘を起こし、ションベンする
夜中に泣いて、わしは死んだのか、などと訊ねる
そこに行けずに、もののけにならずに、生臭く泣いている死者もいる

まだ若い、まだ生きているのに死んでいる
優しくなれない、憤りとうらみにまみれている
だれも相手にしない、相手にされないように生きている
ウイルスのように見えない
すぐに相手と自分の関係を壊す
自分と自分も壊す
内部と外部などないと哲学で負け惜しみをいう

もののけになりたい
しかし
イキスダマになれない
今のところ死霊にもなれない
しかし
だれかにタタル気持が本当にあるわけでもない
しかし
もののけになりたい
樹木になりたい
桜や
欅ではない
木そのものになりたい、のだ

「それは大丈夫、それはきみには恰好の変身だ、神になりたいということだろう、
それは容易いことだ、しかし、そんな逃走線を描いても、欅の葉の落ちる頃には、
土と紅葉のつくる色合いになりたい、などと言うに決まっているからね、
ほら織物のなかに織られた一本の糸の美しさより美しいものがどこにある？」

もう時間がない
あり余っているのに
泣く時間がない
すぐ忘れてしまう
人であるということを

忘れたいのだ