秋の婚姻
Now go, the will within us being one:
you be my guide, lord, master from this day,
I said to him; and when he, moved, led on
I entered on the steep wild-wooded way.
Dante, Inferno, Canto 2
(いざゆけ、導者よ、主《きみ》よ、師よ、兩者《ふたり》に一の思ひあるのみ、我斯く彼にいひ、かれ歩めるとき 艱き廢れし路に進みぬ)山川丙三郎訳・ダンテ、「神曲」・地獄編・第二曲
秋の気色
秋の気配
季節の外でのみ言葉が語られ
なかは空虚だが、滴る音がする
「金木犀の香がします」
現在は野沢ですが、高石って大学の医局の先生は呼びます
全然昔と変わらない姿で、医者になったばかりの子が言う
「時間は金木犀の香だね」
気がついたら匂っていたもの
ディキンソンの詩を教え子の結婚式で読み
嵐の夜でもきみのなかに停泊できたらなどと
心にもない愛の倫理でみんなを脅迫する
秋の気配
秋の色
カメラマンが窓から大声で
「できるだけ馬鹿なことをしてください」
美しい庭の集合写真
花嫁と花婿を囲んで飛び跳ねている
まぶしい目で
ぼくはカメラを仰ぎ見る
跳躍した足は秋の陽射しとともに落ちて
馬鹿なことが金木犀の茂みに隠れる
戻れない子どもたちのための
「愛の地図」のインデックス
「行きましょう。先生と私の意志は一つです。
私を導いてください」
逡巡のあとに、時間という迷路に導かれて
言葉から始まり
言葉のない香に至る巡礼の旅
「人生として我々が知っている不可能なもののなかに」
やさしく香ることで可能を夢見させるもの
滴るもの
ぼくは秋と婚姻する、秋がぼくと契る