詩人たちの島

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• Woman of Mass Destruction（続き）

  10月22日のNYTのOp-Ed ColumnistのMaureen DowdはJudith Millerを完膚なきまで批判する。その結論は「もし彼女の願う通りに、彼女がカムバックするようなことがあるなら、もっとも危険にさらされている公共的なものは、すなわちあなたの手の中にある新聞ということになろう」というものだ。Judyの不正直さをいろんな例を引きながら、Maureenはもっとひどいことを平気で言っている。Judyは80日間余り収容されたのだが、その期間は「彼女にとっては更なる活動に移るためのリハビリの日々であった」というものである。この間にいたるタイムズの支援を皮肉まじりで次のように批判している。― I admire Arthur Sulzberger Jr. and Bill Keller for aggressively backing reporters in the cross hairs of a prosecutor. But before turning Judy’s case into a First Amendment battle, they should have nailed her to a chair and extracted the entire story of her escapade.―以下勉強のつもりで、オンライン辞書「英辞郎」で調べたことをそのまま引用しておく。（First Amendment rights 米憲法修正第｛べい けんぽう しゅうせい だい｝1条で保障｛ほしょう｝された権利｛けんり｝、表現｛ひょうげん｝や宗教｛しゅうきょう｝の自由｛じゆう｝◆アメリカ憲法の修正第1条は表現や宗教の自由を保障しているが、アメリカでは、これらの基本的人権を指して First Amendment rights と言うことがある。amendment とは「修正」「訂正」のことで、法規やルールなどの改正を意味することが多いが、大文字で始まるときは米憲法の修正条項のこと。）これを踏まえて拙訳するなら、「私はArthur Sulzberger Jr.（この人については何も知らないが、いずれタイムズ関係の大物だろう）やビル・ケラーが検察官の照準から記者たちを積極的に支援することに対して称賛する。しかし、Judyのケースが憲法修正一条をめぐる戦いに移るまえに、彼らはJudyを椅子に釘付けにして、彼女の脱線のすべての物語を訊きだすべきだったのだ」。ロイター通信によれば、これらの批判に対して、彼女の弁護士は批判の中止を求め、彼女が公平に扱われていないと言って異議を申し立ているという。Maureenはとにかくうまい文章を書く人だ。冒頭、「私はいつでもJudy　Millerのことが好きだった。ウォーやサッカレーなどはこのジャーナリズムのベッキー・シャープをなんと判断するかしらとよく思った」と始まるのだが、これを解説することは止めておく。まあ、こういうペダンテイックな部分と、鈍い刀のような率直さが、この人の文章の魅力であるとでも言っておこうか。どうもこのJudyという人は、Maureenの文からわかるところでは、「権力を持った男が好きで、逆上したような強さを持ち、ハードワークと傲慢さが混合」したような人物だったらしい。Maureenがブッシュ政権の最初のブリーフィングを聞くためにホワイトハウスの会見場に行ったときの話。Maureenはタイムズの指定席に腰かけていた。Judyは壁に寄りかかって聞いていた。話は国家の保安に関することだったらしい。そのとき、彼女はその仕事からははずれていたのだが、このブリーフィングには姿を見せたということだ。壁に寄りかかっていたJudyが何かに興奮しているらしいとMは気づいた。話の途中で、JはMのところに来て次のようにささやいた。―この席には私が坐るべきなんだわ―　こういう常軌を逸した行動に笑うことしかできなかったMaureenは席を譲り、部屋の後ろに立った、一方ではJudyが「正しい権力の止まり木と彼女が思うことを主張していた」というような皮肉なスケッチ。昨日私が書きたかったのは、この二人の女性の間になにかニューヨーク・タイムズという大メディアのなかでの互いの位置をめぐっての確執のようなものが水面下であったのではないかというようなことだった。一方は記者、一方は社外の定期的な寄稿家ではあるにせよ。これはあまりにも平野謙的なかんぐりではあろうが、勢いにまかせてここまで書いてしまった。お粗末！

  October 24, 2005

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• Woman of Mass Destruction

  All the three branches of government will fear the fourth estate.三権はどこもジャーナリズムを恐れる、という言葉があるが、今ニューヨーク・タイムズも大変なようである。Judith Millerという女性記者のスキャンダルで揺れている。彼女はイラクの大量破壊兵器（WMD）に関してブッシュ政権よりの報道をした人だが、それに関係して、政府高官やイラクの亡命者、シャラビなどとの関係が疑われている。またこれが大きな話題なのだが、イラクの大量破壊兵器の存在が政府によってねじ曲げられた報道であったことを暴露した外交官（どこかの大使だったはず）Joseph Wilsonの妻Valerie Plameが実はCIAの工作員であることを、Dick Cheneyのチーフ・スタッフであったScooter Libbyから漏らされた、そのことを隠し通して、ということは情報源を言わないという記者魂からだろうが、大陪審で有罪となり、何ヶ月か臭い飯を食ってきた人である。このリーク事件に関しては、どういう意味があるのか。ここら辺のことを日本の新聞はうまく伝えてくれないからよくわからない。おそらく、Libbyという男はタイムズの有名辣腕の女性記者に、あんなことを旦那は言っているが、あの奥さんはCIAの工作員であり、その妻から情報を得たのだよ、そしてそれをあたかも自分が見てきたように発表した、こういうことが許されていいのか？というような意味をこめてJudith Millerに話したのかもしれない。つまり、政府の捏造を告発した男、こいつの妻はCIAだということで、批判の矛先を、機密を最重要とするCIAの妻とその夫の謀議などというような方向に捻じ曲げようとしたのだろう。私が不思議に思うのは、このLibbyなる男が告発されていないということなのだが、そのうちされるのだろう。こういうことをJudyはとくとくとして書いたのだろう。噂がひろまり、CIAの工作員がだれかなどと特定することは、たぶんアメリカではタブーの最たるものだろうから、Judyは告発され、有罪になり何ヶ月か監獄にぶちこまれた。しかし、その間、タイムズは彼女を支援してきた。ところがタイムズは先週の金曜日に、executive editor であるBill Kellerのスッタフに当てたメモを公表する形で、Judith Millerを批判したのである。その要点は彼女が大量破壊兵器に関しての自社の報道姿勢をmisleadしたということである。それから彼女の政府高官たちとの癒着（entanglement）についてである。とくに根拠のない大量破壊兵器の存在の記事はほとんどJudyが書いた、そのことによってタイムズはクリーンになることの遅延を招来し、いたく傷ついたというのである。大新聞はどこも同じか？一人の記者を責めることで、生き延びようとする。私が書きたいのは、これからだ。ＮＹＴきっての有名美人コラムニスト、Maureen Dowdに痛烈なJudith Miller批判を書かせている。そればかりではない、当然この歯に衣着せない批判が売り物の女史は編集主幹のKellerたちも批判するのである。そこまで見越して書かせたのならエライとしか言いようがない。しかし、率直に言って、このコラムは私にはMaureenがJudyに対して、ある意味で、私怨を晴らして快哉を叫んでいる文章のような気がしないでもないのである。Maureenの文章のタイトルがまず目を驚かす、Woman of Mass Destructionというのだ。まさにWeapon of Mass Destructionのもじりである。以下は明日。

  October 23, 2005

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• 秋空のように

  Accu Radioというのを見つけて、ずっと聴いているのだが、今ラベルのバイオリンとチェロのためのソナタのlentをやっている。このラジオはクラッシク、ジャズなどなんでも分類されていて、しかも時代別、楽器別、作曲家などの分類もあるから、とても便利である。アマゾンと直結していて、気に入ったものは買えというのが少しくどいのだが。また、時々接続が悪くなる、わざとという感じで。さっきまで仕事をしていて、やっと目途がついたので、一服というところです。拓也のblogにここ最近ずいぶん刺激を受けている。そこで引用の形でだが、掲載されていたベケットの言葉に興味を持ったので、八王子に出て、本屋で探したが、ベケットはついにどの棚からも現われなかった。名のみ知っていて、読んだことはなかったわけだ。「ゴドーを待ちながら」ぐらいしか知らなかった。おなじくオーウェルのヘンリー・ミラー論も読み返してみた。これは依然としてぼくには面白かった。時間が今の２倍ぼくにあったらなあ。それにしても膨大な時間を無為のうちに費消してきた事か。悔いてもしかたがないが。朝、福間さんと電話で話して、楽になったところもあるが、この秋空のように心は定かではない。足をつけて、やれることをやろう。

  October 22, 2005

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• 連詩・秋風秋雨（その１）

  1（英己）秋風秋雨人を愁殺す連詩は初めから「殺す」を使える連句はだめだ今日ぼくは死について考えていた満月に向う月は生きていた金木犀は香っていた　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2（豊美）　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　濡れたススキの穂が銀色に光った　　　　　　　　 一輌だけの小さな列車に乗っていった内陸へ、内陸へと消えがての駅名をつなぎ山襞の眠りの底をくぐって目覚めと忘却を繰り返す幸せとも不幸せともいえない水源へのながい帰路だった　　　　　　　　　　　　　　　3（健二）　　　　　　　　　　　枝も葉も香りもある物語のならぶ秋へとどうやって帰ろうか「わたし、絶対あやまらない」百年前の機械が動いている愛すべきごみ箱である市場でいつまでも夏を生きる娘たちの露出する夢と議論する

  October 21, 2005

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• Pointless Provocation in Tokyo

  「無意味な挑発」と題するNYTの社説を読む。17日、月曜日の小泉の靖国参拝について書かれたものである。靖国について「その神社と付随する記念館は20世紀の最初の数十年に朝鮮や中国ではもっと、東南アジアなどで日本が犯した残虐行為に対して謝罪しない見解を促進している」と規定している。「神として記念され、崇拝されているそこに祀られているもののなかには14種類の戦犯がいて、それらは裁判にかけられ、有罪とされ、処刑されたものもいるのだが、その神社の例大祭が今週から始まった」というわけで、あとはぼくらがすべてテレビで見て知っていることである。これに対する隣国の反論は、NYTの見解もそれに同調しているのだが、きびしいものであった。社説は簡潔に述べる。「中国、台湾、韓国、シンガポールの指導者がすぐさまはっきりさせたように、この参拝（The shrine visit）は日本の戦争で犠牲になった人々の子孫・末裔(descendants)に対する計算された侮辱である」。これに対して、「戦争で亡くなった人々の霊前で平和を誓い、その人々をしのぶことに対して他国があれこれ言う筋あいではない」という一つ覚えを繰り返している小泉とその一党はなんと応えるであろうか。戦争で亡くなった人ではなく、戦争を起こし、atrocityを英雄的行為として繰り返した人々もそこに祀られているのである。これも計算された「トボケ」であろう。でも、この社説は寛大である。大人が何もわからない悪ガキに、こんなことを言ってもだめだろうが、しかしまあ言っておかなければ、もっとおかしくなるかもしれないからという調子である。「だれも実際には日本が帝国としての征服の道に再び乗り出すなんて心配はしていない。しかし、アジアのなかで最も豊かで、経済的・技術的な大国である日本は戦後60年にわたって守ってきた軍事的・外交的な抑制された政策をここで脱ぎ捨てつつある。隣国のなかに悪夢の記憶をかき回すにしては、これはまさに悪いタイミングである。経済的な活況にわきたつ中国、日本のもっとも脅威的な経済上のパートナーにしてそのもっとも強大な地政学的挑戦の時代において、こんな挑発はとくに余計なことである」。これはよく考えてみるに値する見解であると、私は思うがいかが？要するに、もっと賢い付き合い方があるだろうと言っているのだ。社説の最後はもっとも教訓的である。「小泉氏の神社訪問は自民党を構成する重要な右翼ナショナリストたちの称賛を引き出した。小泉氏に必要なのは、この連中を沈静化するかわりに、この連中を徹底的に屈服させることである。ちょうど郵政民営化に反対した党内の反動派を屈服させることに成功したように。20世紀に犯した歴史をまっすぐに認める時期である。そうしてはじめて見事に21世紀に移ることが可能になるのだ。」この社説、小泉さんは読んだのかしら？ずいぶん勉強になると思うけど。ナカソネ二世などに、とくにこれをよませたいものである。民営化の屈服者のくせに、党にとどまるという。その理由は言わずもがなの、教育基本法などの「改正」が自分の使命としてあるから、最大与党にしがみつくしかないというのだ。もし小泉がこの社説の教えどおりに、彼は世界でも有名な、そしてNYTも折り紙をつけているa modernizing reformerであるわけで、いつその主旨を劇的に変えるかわからないから、急におれはもう金輪際訪問はしないなどと言うかもしれないな。そうしたら、そのチルドレンたちはすぐに屈服するに決まっている。で、きみはどうする。また同じことか。

  October 21, 2005

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• つぶやき（粒焼ー吉増剛造言語）

  忙しすぎて、ものを考えられない。締め切りの原稿をやっと書いたが、どっと疲れが押し寄せる。でもすばらしい文章とエネルギーに満ちた行動力を毎日読めるサイトが誕生したので、もうぼくは何も書かなくてもよいのではないかなどと考えている。以上は「生きています」という報告にかえて。

  October 20, 2005

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• 文芸部の連中へ

  昨日、少し感傷的になり、前の職場の文芸部の生徒たちの名前を列挙したのだが、さっそく功一と祥子から返信があった。ぼくのこのblogへの祥子の書き込みは初めてだ。先日、功一はぼくらFARMの朗読会に来てくれて、酒も飲めないのに最後までいてくれた。ありがとう。拓のweb logのアドレスは http://plaza.rakuten.co.jp/gotakuya/です。この開設の言葉が拓らしくて素敵だから、彼には無断でだが、以下引用しておきます。「ああ、ボーヨー、ボーヨー」 大学の図書館にて。blogを作ろうとしたのは初めてではないが、最近思うところもあり、今度は少しまじめに続けてみようと考えている。大学に来るまでの電車の中で、急に思い出したのが、小林秀雄の「中原中也の思い出」というエッセーのことであった。高校の国語の授業で一度読んで（もう3年か4年前のことだが）、心のどこかに突き刺さっていた中原の言葉。それは、小林の回想の中に出てくる。　　彼は、ビールを一と口飲んでは「ああ、ボーヨー、ボーヨー」と喚いた。「ボーヨーって何んだ」「前途茫洋さ、ああ、ボーヨー、ボーヨー」と彼は眼を据え、悲しげな節を付けた。なぜこんなことを思い出したのかといえば、やはり前途ボーヨーだからか。ところで、前途芒洋とはどんな意味だろう。中原はここでは、先行きの見えない不安のような感情を表現しているのだろうが、「芒洋」とは辞書に「果てしなく、広々としているさま」とある。とすれば、果てしない前途の可能性のようなことも含意されているのではないか。言葉の由来は知らないが、そのようなアンビヴァレントな意を込めて、このblogのタイトルに用いることにした。さて、いつまで続くか。もう一度中原を引けば、「あゝ おまへはなにをして来たのだ」という問いに、少しでも答えたい。こうなれば、功一も祥子も自分のblogを作るべきだね。年とった昔の顧問のblogをもそこにまじえて、われわれは、ぼくの死ぬまで「あえて賢くあれ」というモットーのもとに相互の思いを交し合うことができるのではないか。拓は来年の９月からイギリスに留学するという。そこからも発信することを忘れないでほしい。功一と祥子と綾は大学生になって新しい雑誌を、大学横断的な人材を加えて作った、先日功一が持ってきてくれた、その雑誌の創刊号をぼくは読んだよ。功一は実にリアリステイックになったね。もしかしたらお前は直木賞を獲るかもしれない、そんなことを思いながらぼくは読んだね。「時間」というテーマで書いていたが、綾のは美しくミステリアスであり、祥子は変わらぬ強さに広がりをも獲得している。ぼくは元顧問として、みんなのことを誇りに思っているよ。

  October 17, 2005

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• Practice in Japanese writing 3: New York , October 17, 2005 (by Mashiho Yuasa)

  水島先生 霧雨とともに街に秋がやってきました。先週、地下鉄を狙うテロの警報が出されて以来、朝、オフィスに歩いて行ってみたりしています。十九世紀の末に建てられた、堂々と、または華麗な石造りの邸宅の並ぶ五番街に先ず出て、Metropolitan Museum of Artの南側を通ってセントラルパークに入ります。観光客も、東洋人や黒人の乳母に連れられた金髪の子供たちもいない朝の公園を、濡れた落ち葉を踏みながら歩きます。五番街の背の高い建物が木々の梢に隠れると、行き交う車の音も聞こえなくなります。公園の中の数々の銅像を道しるべに、池のほとりをゆっくりと廻り、木々の間を縫い、小さな丘を越える細い道を歩きます。きのこの上に静かに座った不思議の国のアリスを左に、醜いアヒルの子に話しかけるアンデルセンを右に歩き始めて、Robert Burns, Sir Walter Scott, Fitz-Greene Halleck, William Shakespeareと詩人たちに挨拶をしながら南に向かい、まだ氷の張っていないスケートリンクの横を通ると池の向こうにMidtownの高層建築が見え、街の喧騒が聴覚を襲います。コーヒーやベーコンという朝の匂いのなかを十ブロック程歩くとオフィスに着きます。 先月の手紙で、仕事の記録を六分単位ですると書きました。これは、顧客に正確な会計、請求を提出するためです。私たちのコンピューターには、顧客の用件ごとに設定することのできるタイマーがついています。働き始めて一ヶ月経って、そのタイマーをこまめにオンにしたりオフにしたり、顧客から顧客へスウィッチできるようになりました。コーヒーを取りに行く時間、ランチの時間、私の部屋に立ち寄ってくれる同僚と一、二分の世間話をする時間はもちろん、私がぼんやりビルとビルとの狭間に見えるハドソン川を眺めたり、六番街を行き交う人や車を見下ろしたりする時間もタイマーは止めてあります。　顧客がまさしくBillionairesや大企業であることを考えると、この律儀さがおかしくも思えますが、ENRON後のintegrityを強調する世相でこのまじめさに私は好感を持ちます。それと同時に十五時間オフィスにいても、顧客に請求できる時間は十一時間程度だったりしてがっかりもします。 仕事は難しく，面白いです。法律事務所は時代遅れに思えるほどの階級社会ですが、同僚、上司、秘書、司書、そのほかのさまざまなサポートをしてくれる人達との付き合いも支障なく始まりました。特に私よりずっと若い、そしてある意味では競争相手である同級生たちと、違和感無く、楽しく話すことができるのは嬉しいです。もっとも、職場での雑談はとても少ないです。Litigation（訴訟）の人達はもう週に七日、朝の二時、三時まで働く生活をしているのですから、そんな暇が無いのも無理はない事です。 私も家に帰る時間が遅くなる日が多くなりました。家まで送ってくれる車の後ろの座席に身を沈めて眺めるマンハッタンの夜景、人気の無いブロードウェイのネオンが雨に滲んで、ミシガンやペンシルバニア、そして日本がとても遠くに、とても昔のことのように思えます。 ましほ(ノート）湯浅ましほさんから待望のニューヨーク便りが届いた。いつものことだが、この端正な日本語はぼくを限りなく鼓舞する。そして彼女の弁護士としての新しいキャリアが開いていく展望をともに経験する歓びはなにものにもかえがたいものである。メトロポリタンやセントラルパークを思い出しながら読みました。ありがとう。

  October 17, 2005

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• I wanted to tell you

  カーヴァーの”All of us”、奥さんTessの序文をやっと読み終わった。そして、この本は2000年だったか、友人の七森さんと二人でアメリカ旅行したとき、帰途の空港の本屋で買い求めた本だったという記憶が突然よみがえってきた。テスは序文の最後に次のように書いている。― Ray made the ecstatic seem ordinary, within reach of anyone. He also knew something essential which is too often sacrificed for lesser concerns―that poetry isn’t simply reticence served up for what we meant to say. It’s a place to be ample and grateful, to make room for those events and people closest to our hearts. “I wanted to tell you.” And then he died.――レイは至福のときを誰にでもわかるようなものに創りかえた。彼は、何か大切なものが日々のそうでもない関心事のためにあまりにも犠牲にされることをよく知っていた―だから、詩はわれわれが言いたかったことの単に控えめな表現であってはならないということも感じていた。詩とは豊かさと感謝に満ちた場所であるべきだ、われわれに最も近しいあれらの人々とその出来事を心にとどめるための。常にレイは語りかけた、「きみにこそ言いたかったんだ」と。そして、彼は死んだ。――「超訳」のような感じだが、まあ、ぼくにとっては、テスが言っていることを受けとめたら、こういう訳になる。こういう誤訳になるといった方が正確だが。今日、うれしかったこと、拓がblogを開設した。一読したが、すばらしい。前の職場に居たとき、I wanted to tell youという思いで、文芸部を作った。そのときにぼくが考えた文芸部の雑誌の名前が「Sapere Aude」というものだった。カントの『啓蒙とは何か』からパクッたもので、そこでは「あえて賢くあれ」と訳されていた。拓もその兄の一樹も、そして小俣も、綾も、千晴も、祥子もぼくが一番語りかけたかったpeople closest to my heartの、他には得がたい一人一人だったのである。過去形で語るのはおかしい、今もぼくにとって素晴らしい友人たちである。

  October 16, 2005

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• 準備

  八王子に出て、熊沢書店で北川透さんの「谷川俊太郎の世界」（思潮社）を買った。５階の人文書専門フロアには福間さんの新詩集「侵入し、通過してゆく」（思潮社）と、詩論集の「詩は生きている」（五柳書院）もおいてあった。みょうに今日も暑かった。3時過ぎに帰宅して、北川さんの本の最後のパートであり、この本のための書き下ろしでもあるのだが、「詩集コカコーラレッスンの世界」を読んでいたら、猛烈に眠くなって寝てしまった。最近睡眠不足の日々が続いているというか、あるいはinsomniaのようなものか、首の根に鉛のようなものが始終入っているような気がしていた。この本については友人二人がすでに気合の入った書評を発表しているのだが、この感想文を書けという依頼が佐藤幹夫さんから来たので、買いに行って読みはじめたのである。それがこの体たらくである。最近は音楽ばかり聴いているのでまともに本が読めないのかもしれない。でも意地になって「蟹文字」だけは読んでいるつもりであるから、自分でもわけがわからない。今はだめということだろう。明日は読めるかもしれない。そう思うことにしたら気が楽になった。テス・ギャラガーの序文を今日も読み続けた。旦那のRaymond Carverの詩だけを誉めすぎている感じもするのだが、佐野洋子がその当時、あるいは今もそうかもしれない（これらのことについてぼくは何も知らない）が自分の旦那である谷川俊太郎について書いた「谷川俊太郎の朝と夜」（続続・谷川俊太郎詩集・思潮社　所収）とを比べたとき、どういうことが言えるのか？後者は谷川の詩の一編にも触れることはない。今から考えると、80年代、90年代の初期の狂騒がぼくにはうっとうしい。最近もまたそうなりつつあるような感じもする。テスはアメリカ詩の商業主義的「誠実さ」の「安売り」(salesmanship)に対して、レイの詩はもっと異なる読者との相互関係を作り出すことで、そこから逃れることができたと言っている。はたして、レイと俊太郎を比べることは可能か、ぼくは比べてみたい。その率直さ（俊太郎の場合はどうしても方法意識から逃れない面もあるのだが）と読者に対する関係などを比較して考えてみたいのである。アル中で短命だったレイと長寿の家系らしい谷川。それにしても谷川の詩の膨大な量よ。300編あまりのレイの詩をテスはampleというのである。

  October 15, 2005

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• 「十月の恋」を読む

  今日の朝日の夕刊の「文化・芸能」欄に福間さんの「十月の恋」というタイトルの詩が載っていた。切り取って、机の前の壁にピンで留めた。この詩のラストの数行の工夫に眼をとめる。speakerの「ぼく」は福間さんのもっと長い詩と同様に、この短い作品においても結構複雑な動きをするのだが、この「ぼく」が置いて立ち去った「何種類かの死」のことを先から考えている。「地面にキスしながら倒れている　サーカスの友人」の死、そして十月の報われない恋に陥っている「ぼく」、その「ぼく」から呼びかけられている「きみ」がぼくの恋の相手なのだろうが、「きみ」は「十月の隅っこのベンチ」に「走ってきて腰かけて遠い物語」を読んでいる。あたりが静寂に包まれると「きみ」は、「きみ」を遠くから見ている「ぼく」に気づいたかのように「あわてて立ち去」った。残された「ぼく」ももう一つの隅っこのベンチから立ち上がる。「ここに何種類かの死をおいて」立ち上がるのである。そして「きみの夢の中に張られたロープを渡ってゆくよ」とラストの行は結ばれる。10月になると、想い出す人名があるが、それはここには書かない。多分自死したその友人と「サーカスの友人」は福間さんの奥底で結びついているのであろうと思う、そしてまた他の親しい友人たちの思い出も。「十月の恋」は福間健二のそれらの人々に寄せるレクイエムであろう。「夢の中に張られたロープ」とは美しいイメージであるとともに、hazardousなイメージでもある。落下や縊死の誘惑に耐えて、「ぼく」は生きていかねばならない。「ここに何種類かの死をおいて」立ち上がったのだから。「恋に落ちても　秋だ」という誰も思いつかないような表現から、この詩は始まるのだが、その異様さが「秋」のイメージを異化するとともに、この詩は「恋」についてなんかではないとぼくに思わせたのである。（誤読のおそれをのこしつつ）帰ってから義父のおしめを初めて交換した。今日は女房のレッスンの日なので、いつもそうだが早く帰宅することにしている。トイレでおしっこさせているとき濡れているのを発見したから、不器用な手つきで交換したのだった。義父は「ありがとう、ありがとう」と言っていた。トイレに付き添って、脱がしたり着せたりするのがぼくの役目である。忙しいときはヘルパーさんを頼むのだが。その後というか、ずっとだが、カーヴァーの詩集”All OF US”のIntroductionを読んだ。彼の未亡人であるTess Gallagherが書いている。面白い。面白いが、やっとその半分を読むことができただけだ。「詩」について、こういう感じ方もあるのだなと思う。「それ（たぶん旦那の詩のことだろう）は生きられた時間以上の何かであった、それゆえ人の霊的な範囲を拡大するものであった。詩は彼にとっての救いであった。…晩年の初期から、彼の詩は美しく明晰になり、この明晰さは春の水が河口でたてる甘やかな音に似ていた。何の弁明もないその音。夫レイの詩を読むために費やす時間は急に充実したものなった、なぜなら彼の詩は呼吸のようにそれ自体がやさしく無私のものになったからである。無条件でわれわれに与えてくれる詩、われわれに何も要求しない詩を前にして、一体誰が鎧を脱がないものがいるだろうか？」

  October 14, 2005

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• 

  週末、終末

  　二つの英語の詩をぼくは受け取った、一つはＴ氏のもの、一つはＨ氏のもの。なんかの機会があればこの二つの詩についてコメントを書くつもりだが、今晩は疲れているのでよしておく。　今日職場の談話室のような場所の大きい机の上にホトトギス草が飾られていた。昼食のときに眼をとめた。帰宅してメールをみると、pecoさんからこの花のきれいな写真が送られていた。これもつながっている偶然の例である。でもこのことがぼくに物語を産み出すように働くことはない。むしろ小さな詩を、この偶然は孕むだろう。そうであってほしい。　週末と書こうとして「終末」という字が出てくる、それを眺めている。来る終末・週末が待ち遠しいのであろうか。photo by pecoほととぎすそこより峡（かい）の山深し　　　　　　青池秀二

  October 13, 2005

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• 高校生という生きもの

  　久しぶりに今までテレビを見た。高校生のブラスバンド部を追ったものだが、ついに最後まで見てしまった。少しもらい泣きしたかな。若いっていうことの素晴らしさに、みんなで協力して何かを創造することの素晴らしさに、また指導者の熱意に。ちょっと厭なところもあるけど、指導者たちはプロである。プロであることの臭さと素晴らしさ。しかし、なかでも京都のR高校の部員とその指導者には他のものにない自然な姿勢とすがすがしさを感じて、応援してしまった。全日本の狭き門をいかに努力奮闘して彼らが開けることができたのか、番組は馬鹿な芸人たちをならべて、画面に小さな窓枠を作って、彼らの感激しているバカ顔を映しながら放映し、しかも必ずいい場面の前にはコマーシャルで寸断するというこの国の民放得意のあざといものだが、いつもは気になる小さな窓枠が今日は全然気にならなかった。それにしてもどうしてこういう手法を多用するのか？番組の中では高校生たちが一生懸命に練習している、涙を流しながら。それを画面の上や下の小さな四角の中から芸人や司会者のバカ顔が見つめている。このわずらわしさ。このいやらしいまでの共感の押し売り。高校生に失礼である。　今日は職場の一年生（私はその担任団の一人なのだが）を全部集めて話をした。入学したころの清新さと覇気を失っている連中が多いからということで、柄にもなく私が説教をすることになった。この番組を見ていたら、もっと具体的なことが言えたかもしれないと、今考える。プロにはなりきれない私は、そこで先日読んだばかりの村上春樹の短編「偶然の旅人」のある挿話を紹介して、このようにすべては目には見えないが、つながっているのだから、現在の瞬間、瞬間を大切にして生きていこうとわけのわからないことを述べただけだった。わが高校生たちはもちろん泣きも笑いもせず押し黙って聴いてくれてはいた。

  October 12, 2005

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• Practice in English writing: katakura, Autumn.

  I got drunk with my colleague tonight. That’s fun. We talked a lot about Lady T who was our colleague too. She is dying for Korean movie stars and Hangeul now. A loud voice, she spoke out her likes and tastes in the morning.We hate it , because there is a beautiful morning sky that endear ourselves to something out of the world, but lady T who is stuck in her ways always disturb our current stability.Well, do you love her? The meaning is perhaps that language and her own nature are not so in cord that she loses herself, such woman do you like? We laughed, we drunk.but we found out at the end that man had been laughed at was “we.”

  October 11, 2005

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• Prosser

  　今日は、今日もか、一日中家にいて、音楽を聴いたり、カーヴァーの詩を読んだりした。一時間、一時間の過ぎてゆくのがせつないほどだ。ずっとこのままの状態で時が止まって欲しいなどと我にもなく思ったりした。だれにも、何事にも煩わされず、と思うが、カシミールでは多くの人々が地震のために死んでいく、世界はもろすぎる。すべてを忘れてとはいかないのが世界の現実であることは承知していながらも、このつかの間の小さな平安のなかに溺れていたいとも思う。　カーヴァーの最初の詩集Firesのなかに次の素敵な詩を見つけた。これはたぶん訳されているのかもしれない。しかし誤訳であれ、私自身が感じたものが私の血液になればいいと勝手に考えて訳してみた。Prosser　　　　　　　　　Raymond Carver 　(from “Fires”)In winter two kinds of fields on the hillsoutside Prosser: fields of new green wheat, the slipsrising overnight out of the plowed ground,and waiting,and then rising again, and budding.Geese love this green wheat.I ate some of it once too, to see.And wheat stubble-fields that reach to the river.These are the fields that lost everything.At night they try to recall their youth,but their breathing is slow and irregular astheir life sinks into dark furrows.Geese love this shattered wheat also.They will die for it.　　　　　　　* But everything is forgotten, nearly everything,and sooner rather than later, please God―fathers, friends, they passinto your life and out again, a few women staya while, then go, and the fieldsturn their back, disappear in rain.Everything goes, but Prosser.Those nights driving back through miles of wheat　　fields―headlamps raking the fields on the curves―Prosser, that town, shining as we break over hills,heater rattling, tired through to bone,the smell of gunpowder on our fingers still:I can barely see him, my father, squintingthrough the windshield of that cab, saying, Prosser.プロッサー　　　　　レイモンド・カーヴァー冬には丘の上に2種類の畑プロッサーの町の外、新しく播かれた青い小麦のための畑、苗たちはよく耕された土から一晩中成長する、そして待っている、それからまた伸びる、そして蕾がふくらむ。ガンはこの青麦が好きだ。試してみたくて、ぼくもこれを食べた。もう一つは刈られた畑、川に至る畑。すべてを失った畑。夜に、切り株の畑たちは若いころのことを思い出そうとする、しかし、彼らの呼吸は緩慢で不規則だ、ちょうど彼らの生が暗い鋤跡に沈んでゆくのと時を同じくしてガンはここの粉々になった小麦も同様に好きだ。ガンはそれがないと死ぬだろう。　　　　　　　*しかしあらゆることは忘れ去られる、ほとんどすべてのことが、思ったよりも早く、おお神よ　どうか　―父たち、友人たち、彼らはおまえの生の中に入り、そしてまたそこから立ち去る、わずかな女たちが残るしばらくは、でもそれから出てゆく、そして畑たちはおまえに背を向け、消滅する、雨の中で。すべてが消えてゆく、プロッサーの町を残して。小麦畑を何マイルも車で通過して帰る、あの夜々―道のカーブのところではヘッドライトが畑を一斉に闇に浮かばせる―プロッサー、あの町が、いくつもの丘を越えるにつれて輝いている、車のヒーターはガタガタで、ぼくたちは疲れきって、火薬の臭いがまだ指のうえに残っている、父が車のフロントガラスから横目で見て、プロッサーと言う、ぼくは父を見ることすらできない。　前半部と後半部の対比、畑と人事、また前半部にあるガンという動物と詩のspeakerとの関係、こういう所がこの詩人の真骨頂であり、違う声が聞こえてくるところだ。カーヴァーはオレゴンの生まれだから、小麦などの生育に関しては詳しかったのだろうが、ぼくにはよくわからない。しかし、この詩に流れるintimateな響きにひかれてやまない。こういう詩を書いてみたいと思う。（そして余計なことだが、ぼくは村上春樹経由でカーヴァーを学ぼうとは思わない。）

  October 10, 2005

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• ジャズの神様（村上春樹・「東京奇譚集」断感）

  　村上春樹の新作『東京奇譚集』を読んだ。合計３時間もかからないうちに読める短編集である。語りは心地よいし、ここには不快でぞっとさせるようなもの、あるいは読者を考え込ませるようなものは何一つない。各短編の終末も明るく、向日的である。登場人物の一人が述べているように、「バランスが取れていないのに出会うと、とても気持が悪くなる、乗り物酔いしたように」というわけだ。心の暗闇は解決されなければならないし、無くなったものは「どこであれそれが見つかりそうな場所」で出現しなければならない。　　もの足りない気持もあるが、ラジオでジャズを聴きながら、曇った秋空の下、部屋にこもって読むには最適な小説集であった。　最初の短編「偶然の旅人」の冒頭で、作者村上自身が自己の体験を前口上として語るところがある。それは現在、季節はずれのようにジャズに惹かれているものには、さすが、すごいなという感嘆符つきで読んだところである。　次のような話。　村上が「ライター・イン・レジデンス」のような資格でマサチューセッツ州のケンブリッジに滞在していた1993年から1995年にかけてのころの体験らしい。そこで彼は『ねじまき鳥クロニクル』を書いていた。ケンブリッジのチャールズ・スクエアに「レガッタ・バー」というジャズ・クラブがあり、そこで数多くのライブ演奏を聴いた。あるときトミー・フラナガンの率いるトリオの演奏があった。すぐそばで聴いていた村上には満足が行くものではなかったらしい。彼は最後まで行けばもっとよくなると期待していたが、なかなか、ホットかつ「われわれの心を別の場所に送り届けてくれるような何か」が不足した演奏のままだった。「このままで終わってほしくはないな」という焦りのなかで、村上は思った。――「もし今、トミー・フラナガンに２曲リクエストする権利が自分に与えられたとしたら、どんな曲を選ぶだろう？」と。しばらく思い巡らせた末に、選ばれたのは『バルバドス』と『スター・クロスト・ラヴァーズ』の２曲だった。前者はチャーリー・パーカーの曲、後者はデユーク・エリントンの曲。（ここからこの曲についてのデイスコグラフィが始まるが省略する）架空のリクエスト曲としてこの「渋い」２曲を選んだのには、もちろんそれなりの理由があった。トミー・フラナガンは過去に、その２曲の印象的な演奏の録音を残している（以下も省略）。トミー・フラナガンはその長いキャリアの中で、サイドマンとして数えきれない程多くの曲を演奏、録音しているが、僕はとりわけその２曲における彼の、短くはあるが知的でクリスプなソロが好きで、長年にわたって愛聴してきた。だからその２曲が今、目の前で実際に聴けたら、言うことないんだけどな、と思ったわけだ。――見込みのない妄想と思いながら、村上がそう願っていたところ、なんとステージの最後に、フラナガン氏はその2曲を立て続けに演奏したというのだ。「僕はワイン・グラスを手にしたまま、あらゆる言葉を失った。ジャズ・ファンならわかっていただけると思うが、星の数ほどあるジャズ曲の中から、ステージ最後にこの２曲が続けて取り上げられる確率なんて、まさに天文学的なものであるはずだ。そして―これがこの話の大きなポイントなのだが―それは実にチャーミングな素晴らしい演奏だった」。これが一つの偶然の暗合。もう一つは、これもやはりジャズがらみ。　村上が古いジャズのLPレコードの収集家であることは有名だが、バークレー音楽院の近くにある中古レコード店で、その日の午後見つけたのはペパー・アダムズの『10 to 4 at the 5 Spot』というリヴァーサイドの古いLP。これは４時10分前という意味だが、ニューヨークのジャズ・クラブ「ファイヴ・スポット」で彼らが午前４時10分前まで乗りにのって演奏したもののライブ盤であるそうだ。これを７ドルで買った。村上によれば「こんな値段で盤質のよいオリジナル盤が買えるなんて、大げさに言えば軽度の奇跡に近いこと」で、幸福な気持で店を出ると、すれちがいに入ってきた若い男に声をかけられた、　Hey, you have the time?（今、何時？）「僕は腕時計に目をやり、機械的に答えた。」　Yeah, it’s 10 to 4.――　そう答えたあとで、そこにある偶然の一致に気づいて息を呑んだ。やれやれ、僕のまわりでいったい何が持ち上がっているのだろう？ジャズの神様―なんてものがボストンの上空にいればの話だが―僕に向って、片目をつぶって微笑みかけているのだろうか？よう、楽しんでいるかい（Yo, you dig it?）、と。――この２つの話を枕にふって、「偶然の旅人」のメインの物語が始まるのだが、上手いというか面白すぎるというか、でもジャズなんて聴いたこともないような人はここをどう読むのだろうかとも思う。

  October 9, 2005

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• The Moon, the Train

  月、列車　　　　　　　　　　　　レイモンド・カーヴァー月、風景、列車。私たちは湖の南岸を進んでいたサナトリウムの温泉を通過した。車掌がやってきて、左側を見てください光が輝いていた、そこは明るいテニスコートだったこんな遅い時間にもかかわらず、私たちはコート上にフランツ・カフカを発見することは確実なことでしょうと言った。彼はテニスに狂っていて、飽きないようだった。確かに、カフカだった、白いウエアを着て、若い男女のペア相手にダブルスの試合をしているカフカのパートーナーが誰かはわからない。どっちのペアが勝っているのか？だれがスコアをキープしているのか？ボールが行ったり来たりしている。完全に熱中してプレイに集中しているように見える。プレイヤーのだれもが通過する列車を見上げもしない。突然列車はカーブして森の中に入った。私は席にもどり後ろを振り返る、しかしコートの灯りが突然消えたのか、あるいは列車が遠く過ぎてしまったのか、背後のすべては闇である。食堂車に残っていた客たちがもう一杯追加する、軽食などをオーダーするそんな時間が今だ。いいだろう、なぜ悪い？カフカはベジタリアンで禁酒家だった、しかし、それだからといって、みんなのスタイルを妨害すべきではない。その上、列車の乗客の誰一人もテニスには興味を示さなかったし、光の下でだれがプレイしているのかにも関心がないように見えた。私は新しい、異なった人生を期待していた、そして私自身には実際は半分ほどしか関心がなかった、どこかにあるかもしれない私の思想にも。それにもかかわらず、ほんのわずかな関心であれ、それは指摘されるべきだった。そうしてくれた車掌に私は感謝した。　　　　　　「あれはカフカだった」と私の後ろの誰かがはっきりと喋った。　　　　　　「そう」誰かが答えた。「それがどうした、おれはパールミュッターだ。よろしく。さあ飲もう」こう言いながら、彼は一組のカードをシャツのポケットから出し、テーブルの各所にシャッフルしておいた。彼の大きな手は赤く、ひび割れていた。その手はカードのすべてを貪り食いたいかのように見えた。もう一回列車はカーブを切ると、森のなかを通過しはじめる。　　　　　　　　　　　　　　　　　（A NEW PATH TO THE WATERFALLより）

  October 8, 2005

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• October Song

  小さいボールを転がしている小さい手が暗闇のなかで手招きしている小さいぼくかもしれない小さいきみかもしれない　　　　　　　　　　　包まれている　　　　　　　　　　　包んでいる　　　　　　　　　　　それをほどいた　　　　　　　　　　　坂道のうえの金木犀の香　　　　　　　　　　　それに包まれた　　　　　　　　　　　坂道のうえの青い空　　　　　　　　　　　それに包まれた　　　　　　　　　　　夢の中できみがほどいている夢ぼくの皮膚の一枚下に血が流れているぼくの口のなかの舌が十月の空気に触れるまだ湿った、曇りがちな日々ラジオではロデオ・ロメオが流れているぼくはうわの空眼で聴いている耳は曇った空のかすかな夕陽を見ているぼくの皮膚の一枚下に血が流れている　　　　　　　　　　　10月、どこかで最後の　　　　　　　　　　　恋が地に帰っていく　　　　　　　　　　　残されたものは　　　　　　　　　　　やってくる紅葉のなかを　　　　　　　　　　　二人で歩いていくだろう　　　　　　　　　　　夜には星屑をあつめて　　　　　　　　　　　暖めながら焚くだろう生きてきたスタイル厚い衣服のような裸で抱き合い昼間は裸で飲食を繰り返した水のような酒を飲んでは酔っ払いアル中のように真面目に生きてきたスタイルを燃やしてきれいな骨が泣いている10月のたそがれに　　　　　　　　　　　そのボールはぼくのもの　　　　　　　　　　　その小ささはぼくのもの　　　　　　　　　　　きみとぼくのもの

  October 8, 2005

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• No Heroics, Please

  ――自民党新憲法起草委員会（委員長・森喜朗前首相）が今月末にまとめる党新憲法草案のうち、前文原案の骨格が７日、明らかになった。「国を愛する国民の努力によって国の独立を守る」との文言で、愛国心や自主防衛の考えをにじませたほか、自主制定であることを強調する。国の成り立ちにも言及し、国民が「国民の統合の象徴」である天皇とともに歴史を歩んできたとの趣旨も盛り込む方向だ。 　原案は７日開かれた起草委の前文小委員会（委員長・中曽根康弘元首相）で初めて示された。今後、中曽根氏と安倍晋三委員長代理を中心に、９条との整合性や天皇に関する文言などを詰めて最終決定する。――以上のような記事が今日の朝日新聞の夕刊の一面のトップを飾っていた。 「国を愛する国民」というしょうもないトートロジーがいつまでも唱えられているのを見ると、「改革」や「民営化」の「革新」的なグローバリズムやユニヴァーサリズムはここにはないようだ。チェスワフ・ミウォシュは次のように書いたそうだ。（長田弘「私の２０世紀書店」からの孫引き）「ヒトラーは来たりまた去る、されど民族はとどまると、ドイツに対する勝利が確実となった瞬間に、司令官は叫んだ。だが、少数民族にかんするかぎり、この言葉はこう読みかえられねばならない。民族は来たりまた去る、されど国家はとどまると」。これはどういう意味か？長田弘はミウォシュのこの言葉を引用したのち、次のように書く、―　ポーランドは、亡国のながい歴史を負った国だ。亡国の記憶はこの国に、国家の支配にしたがうのでなく、国境の内と外からみずからの国をみる、不断の目をそだててきた。ポーランドは国境にまもられてポーランドであるばかりではない。ポーランドとは、一人ひとりのポーランド人のことだ。そうしたポーランドの人間であるという自覚が、国境を越えたミウォシュをひそかにささえる。　　ミウォシュの『囚われの知性』は、出国者の手記だ。出国を避けられなかった悲しみが、手記には色濃く滲んでいる。けれども、その悲哀のさきに、ミウォシュは繰り返しかれのポーランドをつくったいわば「危機の人文主義」の伝統をおもいおこして、国境の外で一人のポーランド人であることを荷いなおす。つまり、出国者の手記なのだが、ポーランドを出国した一人の手記ではない。これはじぶんのポーランドへ出国した一人の手記なのだ。―長田のこの説明を読み、さきのミウォシュの言葉を読み返す。ミウォシュが「国家はとどまる」と言ったのは、彼の国が戦後スターリニズム政権に蹂躙され、そこからの出国が余儀ない事態となった、そのような国家の「抑圧」的なあり方に対して「国家はとどまる」と言ったということであろう。つまりヒトラーのかわりに「国家」がとどまったのだ。「少数民族」とはポーランド民族のことなのか？長田のようにはぼくにはすっきりとしない、不分明なものが残るものだが、今は長田弘の解釈のように読んでおく。「国家を愛する国民」などという規定は無意味である、それを憲法に条文化しようというのはなおさら輪をかけて無意味である。「憲法」とは何か？簡単に言えば、「国民」の意思を「国家」「政府」に尊重させ、守らせるために憲法はあるのであって、その逆ではないからだ。「国民を愛する国家」という文言に訂正せよといいたくなる。こういうことを書きたいのではなかった。ミウォシュの詩を読もう。GiftA day so happy.Fog lifted early, I worked in the garden.Hummingbirds were stopping over honeysuckle floweres.There was no thing on earth I wanted to possess.I knew no one worth my envying him.Whatever evil I had suffered, I forgot.To think that once I was the same man did not embarrass me.In my body I felt no pain.When straightening up, I saw the blue sea and sails.　　　　　　　　　　　　　　　　　　Berkeley, 1971贈りものなんて気分のいい日なんだ霧は早くにあがった、私は庭で働いたハチドリがスイカズラにからまれた花々に誘われていたこの地球上で所有したいと思うものは一つもなかったうらやむに値する誰彼なんてひとりもいなかった私が被ったどんな災いも、私は忘れたかつての私は自分の恥をさらすことを避ける人間と同じだったこの日、体にはどんな痛みも感じなかった体をまっすぐに伸ばす、青い海と帆船が見えた　実はRaymond Carverの詩を久しぶりに読みたいと思って、ALL OF USを取り出して、眺めていた。この詩集はRaymond Carverのほとんどの詩集を集めたものだが、その一つのA New Path to the Waterfallという詩集のエピグラフにミウォシュのこの詩が掲げられていたのである。カーバーとミウォシュの取り合わせもよく考えてみると意外でもない気がする。カーバーは長田弘の言葉を使わせてもらえば「日常からの出国者」と言えよう。そうすることによって、日常の新鮮な意味と驚きを伝えてくれたわけだから。カーバーのこの本の補遺に、集められなかった作品がNo Heroics, Pleaseという題でまとめられている。そのタイトルになっている詩は、私の今の気分にぴったりだ。No Heroics, PleaseZhivago with a fine moustache,A wife and son. His poet’s eyesWitness every kind of suffering,His doctor’s hands are kept busy.“ The walls of his heart were paper-thin,”Comrade-General half-brother Alec GuinnessSays to Lara, whom Zhivago has lovedAnd made pregnant.But at that moment,The group from the topless barNext the theater begins to play.The saxophone climbs higher and higher,Demanding our attention. The drumsAnd the bass are also present,But it is the rising and falling saxophoneThat drains away the strengthTo resist.そんなにヒロイックにならないで、お願いジバゴ、立派な口ひげ妻と子供もいる。彼の詩人の目目撃者だ、あらゆる種類の不幸の、彼の医者の手は仕事に追い回されている。「彼の心の壁は一枚の紙のように薄かった」同志将軍、ジバゴの異母弟、アレック・ギネスがラーラに言う、彼女をジバゴは愛しそして孕ませた。ちょうどその瞬間に、トップレスバーの楽団が劇場の近くの、演奏を始めるサックスはもっと高く高くと登りつめる、わたしたちの気をひくように。ドラムそしてベースもまた演奏しはじめる、しかし上昇し、墜落するサックスだそれが強さを抜き取る反抗するための　　この対比、これがカーバーの「日常」なのだが、うまく訳せない。そしてこのタイトルはどちらに対してそう呼びかけているだろうか？それもしまいにはわからなくなる。私はジバゴにかと思うのだが。

  October 7, 2005

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• East of the Sun and West of the Moon

  ケルアックの「路上」に次のような一節がある。Then had come Charlie Parker, a kid in his mother’s woodshed in Kansas City, blowing his taped-up alto among the logs, practicing on rainy days, coming out to watch the old swinging Basie and Benny Moten band that had Hot Lips Page and the rest- Charlie Parker leaving home and coming to Harlem, and meeting mad Thelonius Monk and madder Gillespie- Charlie Parker in his early days when he was flipped and walked around in circle while playing.　その次にはチャーリー・パーカーが現れた。この若者はカンザス・シティにあった母親の薪小屋のなかの材木の間で、紐でとめたアルトを吹いていた。雨の日も練習をしたり、ホット・リップス・ペイジやその他の者のいた古いスウィングのぺジイ・エンド・ベニイ・モートン楽団をききに出てきたりした―　チャーリー・パーカーは家を出てハーレムにやってくると、きちがいじみたセロニアス・モンクや、それ以上に狂気じみたガレスピー会った―若い頃のチャーリー・パーカーは、演奏しながらぴょいと動いてぐるぐる歩き廻った。（「路上」福田実　訳・河出文庫）his taped-up alto（紐でとめたアルト）という訳がよくわからないのだが、ここはたぶん傷んだサックスをテープで補修したという意味ではないのか。そういうアルトを小屋の中に閉じこもりながら必死に練習したということだろう。　　　　彼のライヴを今晩聴いてみた。ニューヨークでマイルス・デイビス、マックス・ローチやその他の連中と共演したものということしかわからない。司会者がいて、サイドメンを紹介しているのだが、ぼくの悪い耳と無知のせいでよく聞き取れないのだ。二つの録音から抜粋しているらしい。でも演奏は目が覚めるほど素晴らしい。Ornithology, 52 nd street theme, Koko, Bepop, Slowboat to China, Groovin’ high, East of the sun and West of the Moon, Cherylが入っているアルバム。疲れた夜は何もしないで古いジャズを聴いている。

  October 6, 2005

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• 秋が来た

  今日は、保護者会があって今帰宅した。考えてみれば、こんなことがずいぶんあったな。小さなものを守る眼。大丈夫だよ！　そんなに心配しないで、ということだけを伝えたかった。秋だね？　　　秋だよ。

  October 5, 2005

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  月下美人が咲いた

  　一昨年隣家からもらった「月下美人」が今咲き始めている。その写真を必死で撮る。なんにせよ夜に咲いて４時間くらいでしぼむのだから。葉っぱから重たい感じで、もう一房は自分の重みのために折れてしまった、茎が出てその先に大きな白い花弁が重なっている。少しずつ開いてきた。今日の午後８時過ぎの開花だろうと見当をつけて今日は帰ってきた。今8時20分、まだ開花しないが、大分開いてきた。その写真ａを撮影し、今待機中。８時40分、次第に開花ｂ、まだ満開とはいかない。興奮しながら、シャッターを押す。甘い匂いに包まれる。　　ラジオではBIG BANGという人のPING PONGという忙しい曲が鳴っている、ちょうど開花を待つあわただしさにぴったりだ。今、Chain of Chanceという、これはこれで適切な題の曲に変わった、どんな偶然の連鎖が、今夜、ここで花を咲かそうとしているのか？曲は抽象的なフリージャズだが、それもよしとしよう。階下からの呼び声を待ちながら、２階で音楽を聴きながら、これを書いている。奇妙な同時進行の二つのセッションが始まった。どこで詩になるのか？なぜ詩なのか？　　　　　　偶然詩になればいい、ならなければそれでいい。詩が終わった後に、現実が始まるわけでもないし、その逆も同じだ。厚ぼったいサボテンの葉が裂けていて、その面積の少ない方の裂けた部分から、細い茎が伸びて、地上へなだれこむ重力の力と拮抗するように、あたりに芳香をまきちらしながらその先端で大輪の白い花が身もだえしている。ちょっとした偶然の暴力がそれに加えられたら、その花は自らの生を全うすることなく折れ堕ちてしまうだろう。９時10分ころに見事に盛りの姿（c）を見せた。芳香はきついほどである。あっという間にしぼむだろうから、もう見るのはやめにして２階に上がった。これも人間の勝手な動きである。abc

  October 4, 2005

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  明日への　だれかの贈りもの

  昨日の報告。FARM今年三回目の朗読会。岡山在住の詩人、秋山基夫さんをゲストにお迎えして国立の「奏」で開催された。参加者の皆様、ありがとうございました。ぼくにとっては財部鳥子さんなどにもお会いできて、有意義な一晩でした。秋山さんの詩の面白さを聴衆の一人としてあらためて再確認しました。ＣＤでしか聴いていなかったけど、実際にご本人の立ち姿とその声を目の当たりにして、秋山基夫という詩人が積み重ねてきたキャリアの質の高さというもの実感しました。60年代後期から京都の「ほんやら洞」を中心にしたオーラル派としての朗読の実践が、確かなものとして生きていて、それを現在においても常に新しくしていこうという姿勢が強く感じられる。歴史をどのようにくぐりぬけて現在に至るか、その格闘の正しさとでもいうべきものをぼくは受け取った。福間健二はポルトガルのギター、パンﾄﾞゥーラの名手フランシスコ・アントニオのｃｄを彼の朗読の冒頭にかけて、新詩集『侵入し、通過してゆく』の一篇「未来」を朗読した。ポルトガルは彼がここ数年ずっと追いかけている「世界」の一つだ。はじめてぼくもこの楽器のどこかつきむけているような響きを耳にした。福間の朗読がその音色を思い出すかのように始まる。福間健二の朗読も今まさに変わろうとして苦闘しているのではないかなどと考えた。「未来」という詩の最終行は「明日への　　だれかの贈りものになる」というものだが、この新詩集のコードには確かに「贈りもの」として差し出された新鮮な「世界」とそれを差し出す福間のしなやかな「無私」とでもいうべきものの響きがある。新井さんは「庭」という、思い出のミクロコスモスをよく通るアルトと、ときおりかぼそく調弦されたソプラノの声で聴衆の目前に立ち上げた。この詩人の乱れない強さの在り処を見た思いがする。ぼくは柄にもなく、ビートニクの詩のようなものを叫んだだけだ。いろいろあって疲れがどっと出てきて、今日職場を休んでしまった、これはぼくの弱さだ。写真集（あまり上手く撮影できていませんが。肖像権を侵されたと言わないでください）

  October 3, 2005

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• ライブ！　（水島修）

  ライブ！ 行って参りました、国立no turnks。宮野祐司ピアノレスクヮルテット。フィーチャリングＧ中牟礼貞則。ステージもないからすごくインティメットな雰囲気で、目の前２メートルの至近距離で中牟礼さんがギター弾いている。セミアコから紡ぎ出される音はそれでなくても暖かくて、スィーとなのに、中牟礼さんの音色はさらに一層ヒューマンな感じ。 まず、ダイナミックレンジが広い。最弱音からフォルテまで。かなりの幅を計算しながら音が出てくる。ある時は消え入りそうに、フォルテでもそんなに力まない。まさに枯淡の境地と言えばいいか。聞いている方もふっと肩の力が抜けてくる印象。めざましい早弾きがあるのではない。音と正面から向かい合っている一人のあまり若くはないギタリストがいるだけだ。彼は二十代の頃、あの伝説の銀巴里セッションに参加し、知る人ぞ知る、１９５０年代の銀座の夜をインプロバイズしつくした輝かしい面々に名を連ねている。角田孝、高柳昌行、沢田駿吾など日本を代表するジャズギタリストの話になると必ず出てくる名前である。 ああ、そんなビッグネームが至近距離で演奏しているうれしさ。そしてなにより、噂に聞いていたプレイぶり、実にじつに端正！グレーのビアッドを蓄えたその古武士然とした風貌。必要以上のエモーショナルなプレイを嫌う。ときとして見せる内省的すぎるリフにサイドメンがとまどうシーンも。中牟礼さんがソロを取る間、リーダーの宮野さんは一時も気を抜かず鋭い視線を中牟礼さんに向けている。そこらの緊張感も聞いている方は無責任だから、かえって快いくらいだ。ベースの吉野さん、ドラムの池長さんの素晴らしいテクニックを堪能する。 楽しくくつろいだ雰囲気の中にも、楷書のすがすがしさ。そうしたものを満喫したライブでした。 最後につくづく思ったこと。ひぐまが弾いているギターは、あれはギターではない。ジャズギターを練習してみたい。 福間さんご夫妻、アンド兄と同席。気軽な楽しいおしゃべりもこの夜を忘れがたいものにしてくれた。演奏後帰り支度の中牟礼さんを兄弟で襲撃して、少し言葉を交わした。何度も握手してもらってハッピーだった。中牟礼さんのセリフ、「水島兄弟ね。わすれませんよ」嬉しかった。 http://higuma55.hp.infoseek.co.jpより、転載。

  October 2, 2005

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• A Child is born

  A Child is bornという美しい曲を一昨日、国立のNO TRUNKSでのジャズライブで聴いた。宮野さんのサックス、中牟礼さんのギター、ベースとドラムのカルテットだった。あこがれの中牟礼さんにも会えたし、すばらしいライブだった。弟も来ていて、わが兄弟は同郷の偉大なるギタリストの正確かつ玄妙なテクニックに忘我のときを過ごしたのである。福間さん夫妻と、そのあとしこたま飲んで、余計なことを喋ったりしたのも、興奮が続いていたからだろう。昨日は二日酔いの頭を抱えながら、午前中職場に行った。いよいよ今日の午後４時からは朗読会であるが、中牟礼さんのように背すじを伸ばして読もうと思う。その朗読会の席で配布するちらしを先ほど作り終えた。楽しみにしてください。A Child is bornが聴きたくなったので、emusicで探す。これはクリスマスソングらしく、いろんなオーケストラのものがあったが、なかにBILL EVANSのクインテットが演奏したものがあった。それをDLする、ついでに他の何曲かも。聴いていると、EVANSのピアノと同様に中牟礼さんのギターが「音色」豊かに鳴っていたのをあらためて思い出して感心した。もちろん宮野さんのサックスもすばらしかったが。他にdlした曲、Django　これも宮野さん好みの曲で、前のライブのときも演奏した。Hi LiLi, Hi Lo 　これは瀬尾さんの詩集の題名を思い出したので。でもいい曲だ。When Autumn comes　この時期にぴったり。Someday my prince will come　 昔聞いたなつかしい曲。これらはライブを録音したものらしく、拍手と口笛もいい。

  October 2, 2005

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• ELEGY FOR N.N.

  ELEGY FOR N.N.　　　　　　　　　　　　　　　　　BY　CZESLAW MILOSZTell me if it is too far for you.You could have run over the small waves of the Balticand past the fields of Denmark, past a beech woodcould have turned toward the ocean, and there, very soonLabrador, white at this season.And if you, who dreamed about a lonely island,were frightened of cities and of lights flashing along the highwayyou had a path straight through the wildernessover blue-black, melting waters, with tracks of deer and caribouas far as the Sierras and abandoned gold mines.The Sacramento River could have led youbetween hills overgrown with prickly oaks.Then just a eucalyptus grove, and you had found me.True, when the manzanita is in bloomand the bay is clear on spring morningsI think reluctantly of the house between the lakesand of nets drawn in beneath the Lithuanian sky.The bath cabin where you used to to leave your dresshas changed forever into an abstract crystal.Honey-like darkness is there, near the veranda,and comic young owls, and the scent of leather.How could one live at that time, I really can’t say.Styles and dresses flicker, indistinct,not self-sufficient, tending toward a finale.Does it matter that we long for things as they are in themselves?The knowledge of fiery years has scorched the horses standing at the forge,the little columns in the marketplace,the wooden stairs and the wig of Mama Fliegeltaub.We learned so much, this you know well:how, gradually, what could not be taken awayis taken. People, countryside.And the heart does not die when one think it should,we smile, there is tea and bread on the table.And only remorse that we did not lovethe poor ashes in Sachsenhausenwith absolute love, beyond human power.You got used to new, wet winters,to a villa where the blood of the German ownerwas washed from the wall, and he never returned.I too accepted but what was possible, cities and countries.One cannot step twice into the same lakeon rotting alder leaves,breaking a narrow sunstreak.Guilt, yours and mine? Not a great guilt.Secrets, yours and mine? Not a great secrets.Not when they bind the jaw with a kerchief, put a little cross　　between the fingers,and somewhere a dog barks, and the first star flares up.No, it was not because it was too faryou failed to visit me that day or night.From year to year it grows in us until it takes hold,I understood it as you did: Indifference.　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　Berkeley, 1963N.N.によせる哀歌　　　　　　　　　　　　チェスワフ・ミウォシュおまえにとって、そんなに遠い道のりだろうかバルト海の小波を乗り越えて、デンマークの野原を過ぎ、ブナの森を過ぎ向き直って海に向うことができただろう、そして、そこは、あっという間にラブラドル半島だ、この季節には白一色の。そして、孤独な島の夢を見るおまえもし、都会と、高速道路に沿って点滅する光の群れを恐れているのなら荒野を真っ直ぐに突っ切る道濃い藍色の、やわらかな水域をこえて、鹿やトナカイの踏み跡とともにシエラネヴァダ山脈と金の廃鉱まで、たどる道もあるだろうサクラメント河がおまえを導く棘だらけのオークに覆われた丘の間。そのあと、まさにユーカリの木立の通りで、おまえはぼくを見つけることができる。ほんとうだよ、つつじの花が盛りのときそして、湾が春の朝に住みきって見えるとき湖と湖の間にあった家のことやリトアニアの空の下で引き上げられた魚網のことなどをしぶしぶ考えるのだ。入浴のための小屋、そこにおまえはよく服を放置したままにしたものだその小屋はなんか抽象的な水晶のようなものに永久に変化してしまった。蜂蜜のような闇がそこにはある、ベランダの近く、滑稽な若いフクロウたちが鳴く、そして革の匂い。その当時、人はどうしたら生きることができるのか、実際これには答えられない。その当時の人の態度や服装がちらつく、不明瞭に、なんでもできるということはなく、終局に傾きがちな。物事がそのままであることをぼくらが切望したことが問題なのだろうか？激烈な年々の知識が鍛冶場に立っている馬たちを焼き焦がし、広場の円柱を焼き焦がし、木の階段とMama Fliegeltaub.のかつらを焼いたのだぼくらは多くを学んだ、このことはおまえがよく知っている―絶対に拉致されてはならないものたちが、いかに徐々に連れ去られて行ったか、消えて行ったか。人々、田舎の人々。しかし、心は死なない、そうであるべきと思うなら、ぼくらは微笑む、テーブルの上にはお茶とパンがある。そしてただ一つだけ深い後悔がある、ぼくらは愛さなかったSachsenhausenの哀れな灰たち人間の力を超えた絶対的な愛とともにある。おまえは、新しい、湿った冬の年々に慣れた、ドイツ人のオーナーの血が壁から洗い流され、彼は戻らなかった別荘にも。ぼくもまた可能なものだけを受け入れるしかなかった、街と田舎。人は二度と同じ湖に足を踏み入れることはできない腐りかけているハンノキの葉っぱのうえで日の光が砕けている。罪、おまえの、ぼくの？　たいした罪じゃない。秘密、おまえの、ぼくの？　たいした秘密じゃない。彼らがスカーフで顎を縛り、指の間に小さな十字架置くときではなく、どこかで犬が吠える、そして一番星が燃え上がる。ちがう、遠い道というわけではないその日にあるいはその夜におまえが訪れなかったというわけでもない。年々、根を下ろすまでにぼくらの間に成長したものがある、ぼくはそれが何かをおまえと同様によく分かっている―　それは無関心。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　バークリー　1963(ノート)昨晩の８時ころから訳し始め、日付をこえて今日の午前１時になった。いろんな誤解があった。少しは是正されたと思う。それにしても、これはすごい詩だ。感激しながら、また以前の自分の誤読のひどさに呆れながら訳した、それでも分からないところが一杯ある。しかし、この詩の一節をBRODSKYが自分の評論集のエピグラフに置いた理由が分かるような気がした。亡命者としての共通点というものを強く感じた。チェスワフ・ミウォシュは第２大戦後ポーランドからアメリカに亡命した詩人である。彼のことはもう少し勉強してからまた詳しく書いてみたい。

  September 30, 2005

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• And the heart does not die when one thinks it should

  １０月２日のために節制して、今日は会議の後に飲まずに帰ってきたのだが、それで何ができるというわけでもない。何かモンモンとして過ごしている。一日12時間の仕事、朝の７時に出て、夜の７時に帰る、こういう生活を30年以上やってきた。読みたい、書きたい、聴きたい、こういう気持で一杯なのに、それが空回りしている。本棚にきれいにカバーをかけた本が押し込まれていた。今朝、何気なくそれを開いたら、ずっと昔に買ったJoseph Brodskyの”Less Than One”だった。この本は持っていないと思っていたのに、なんということだ。この夏、W.H.Audenの”September1, 1939”をわりと真面目に読み返していて、それについて覚書みたいなものを、この夏の記念にと書いたのだが、そのとき頭の片隅に点滅していた思いがあった。Joseph Brodskyがこの詩について、どこかの大学で一行一行講義したものを読んだ記憶があるぞ、あれはどの本だったかという思いであった。この本のそばにもう一冊の彼の評論集”On Grief and Reason”があって、そのページをくまなく調べたが、なかった。ああ！　昔、クリスというアメリカの友人に分からないところを訊ねながら、途中まで読んだ記憶が鮮やかによみがえってきた。電車の中で読もうと思って、持っていったが、そんな余裕と気力は往復ともなかった。朗読の日が近づいてきた、読む詩を整理しなければならない。今度はテキストを見ないで、読み上げてみようという野望を持ったのだが、それは無理だ。自分の目と耳が死んでいる。心は死んでいない、たぶん。Brodskyの”Less Than One”のエピグラフに引かれているのは、Miloszの詩の一句である。それは、　　　And the heart does not die when one thinks it shouldというもの。ぼくはMiloszのThe Collected Poemsという大部の本を持っているが、これはトロイがぼくにくれたもの、そのなかに付箋がはさんであって、この一句がある詩、ELEGY FOR N.Nのところだった。Less Than Oneのエピグラフを読み、Miloszの詩集を必死に調べたのだろう。十年もたっていないのに、記憶はこんなにも不確かになったが、それを思い出す糸口が今朝のカバーをした一冊の本だった。このきれいなカバーにも思い出があるが、それはいいとして、この一冊がいろんなことを想起させてくれた。たしかに「こころ」はまだ死にきってはいない、そう思わなければならないときには、あるいは死すべきではないと思うならば。この後のフレーズはもっとすばらしい、we smile, there is tea and bread on the table.Miloszの詩自体の文脈には関係なく書いているのだ。いつかはこれをすべて訳してみよう。

  September 28, 2005

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• FARM 連詩・「島」（夏の巻）完成版

  連詩　「島」　　　　　　　　ＦＡＲＭ１トンネルのなかで何をしていたのか？ズタズタになった心で悪魔とゲームをしたトンネルの外は雨と風が通ってゆく七月帰りたい島をひとつひとつ消して行ってしまう影に声をかけそびれる２言葉が出来事を呼び寄せる　それを信じないならテロリストにはなれないどこにもないものを探してそっと引き出しを開けたり閉めたりした雨上がりの庭に出て山椒の葉についたアゲハチョウの幼虫を見た３「死をポケットに入れて」時々ワインと一緒にポケットから出して飲む忘れないために生まれたての赤ん坊ショパンのベルスーズ（子守唄）そこから　また始めよう４地面を這う者たちを殺そうとする「経験」の光線におびえながらテーブルの上の桃皮が手でするっとむけるそこで覚醒して赤ん坊が泣いている島にきた５藁の愛を与え尽くして萎えた母たちが同じほどに老いた防波堤にひっそりと守られているひと刷毛の薔薇色を沖に残して絵の中の懐かしい顔が闇に沈んでゆくときここに小さな灯台の灯その顔を照らし出すための６瑠璃の島に流れる時と抗う珊瑚の海に潜る素っ裸でクマノミのようにぼくのセックスは自由に変わるきみに貫かれて新しい朝を産む７幼い生きものの何も見ていない目にも「世界でいちばん美しい」落日にも負けない負けずに、島の、風の丘をはさんだふたつの岸辺を行き来しておぼえるアンテナの動かし方とは？８海から吹き寄せる風は崖の上の無花果の葉に戯れ、並び立つ双つの丘の歌と歌の間をくぐりぬけて、ふたたび海へかえっていった夜の中で私の仕事は血と土、火と牡蠣殻、鉛と灰大気と香気を混ぜ合わせて、どこにもない新しい物質を作り出すこと９シラクーザで真っ赤な石榴の花を見た棘ある枝、果実はやがて大きく裂けるだろうギリシアの女は裸の岩石と交わり、数多の種子を産む「私が悪いと言いふらしているのはだれだ？私は悪くなんかない」秘密の皺、王冠にかこまれた裂け目がクラック、クラックと割れる「私の心も夜明けの色のように裂けてゆく、万華鏡のように自在に変化して」10ウェールズの入江の寒い夏から双生児を生んだ女友達のいるベルリン経由でエーゲ海の落日のなかに戻るサントリーニ　古代名テラアテネに怒りの電話を入れあとは泳いで飲んで食べて、労働する神々を見ているだけだ１１創造力が涸れた伝説的な岩場そこで古代の神々がすべて息絶えたのを見定めてふたたび船出する　行く方も知らず蝉鳴ばかりが喧しいアジアの夏舞台に上がった政治屋たちの空疎なパフォーマンスがさらに不快と汗を塗り重ねてゆく壁の前12声と文字が絶滅した社会ダジャレの前でふるえている容赦のない厳しさで襲いかかる夏ガザから放逐される、それを命じた者たちに世界のまえで容易く被害者によって反復されるきみポグロム、ショアー、ユーデンライン、郵便乱淫13オキ　サド　レブン　それぞれの夏からまっくらな夜へと脱出する魂を追った日々アイルランドのアラン島にも行ったパブの灯が消えると村も消えて前方に岩場があるかどうかもわからなくなるその夜が紫とオレンジの暁へと一気に変身した14 半身を土に　半身を空に羽化してゆく蝉が草の穂の先で透明な水色の羽をかすかにふるわせている半身を闇に　半身を光に半島はその先端を　ここからさらに海へと差し出すメタモルフオーゼしてゆく島々　夜から暁へのつかの間の時に15欲望という名の電車に乗って貧しい聖者たちがスーパードームに収容されるジャズの街　クレオールの街　罪の街廻り来るマルディ・グラの日に　私は告白するあなたを余りに愛しすぎたのであなたを殺したのだと私の涙のなかで金魚の鰭のようにつかの間　あなたが光る16どんな島に生まれたどんな詩人に退屈してカトリーナは「侵入し、通過して」いったのか？誘惑するだけの美を戒める詩を書いた詩人の故郷の島で、私はすることがなくなり抗議する娘たちは自分でシャツを引き裂いて踊った17最後にもの静かなオフィーリアが出て美人コンテストは終わるみんなカッコいいものが好きで、美しいものにあこがれてでも、美しいものとは何かと問うことはめったにない絡まり茂った熱狂のシナプスのあいだに冷たい雨が降って秋がくる、　秋がくるこれから出る答えをゆっくり待っていればいい、というのだ18「日々の牢獄のなかにある自由な人」の帰りたい島　そこでリタたちを伝説にする日がいつかはやってくる懐かしい顔と影に守られて負けないよ　　小さなテントのなかで嵐が過ぎ去るまで（健二→豊美→英己の順）

  September 27, 2005

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• ヘルマン・ヘッセの作品にみる「生命思想」（平川　優）

  水島さん、平川です。メールの返信をつい忘れてしまって申し訳ありませんでした。「詩人たちの島」をちょいちょいのぞいています。最近はずいぶんにぎやかなようですね。福間さんが参入してからというもの、話題が本格的に詩を中心に展開し始めて、文字通り詩人たちの島になった観があります。ところで碁の話ですが、大竹とか林とかいうかつての一流棋士たちは、もう終わった感じがしますね。神業のような切れがないです。この間のテレビの碁も序盤は大竹のほうが好調だったのですが、中盤の大事なときに読みの甘さが暴露されてしまいました。今、朝日新聞の名人チョウ・ウ（漢字を思い出せません）に小林覚が挑戦していますが、2連敗で、とても勝てそうな雰囲気ではありません。一勝でもできれば、いいほうでしょう。ぼくは、日本の碁は面白くないので、韓国の碁を並べています。韓国の囲碁年鑑を買っているのです。韓国の碁は厳しいですよ。理解できない手にぶつかると、自分なりに一生懸命研究して、その意味を発見したときは、うれしいものです。ところで9月25日の水島さんの日記に訳されていたフォークナーの挨拶の言葉はいいですね。彼のいう魂というのがぼくのことばで言えば霊的生命ということになります。これは自我を超えたものなのです。偉大な作家はみなこの声を聞いているはずです。参考のために、最近ぼくがある知人に送ったメールを以下にコピーしました。僕の生命思想の有効性について ぼくの生命思想の有効性を確かめるべく（この生命思想ができてから初めて小説らしい小説を読んだのです）、短期間のうちに集中的に、『ガラス球演技』以外のヘルマン･ヘッセの長編（高橋健二の訳）はほとんどすべて目を通しました。その結果ぼくの生命思想は、文学作品の判定にとても有効だということが分かりました。　ヘッセの作品は、『デミアン』以前と（この作品以前ということ、この作品は含まない）と、この作品以降では、作品の傾向が一変していますね。これは、現実に引き戻して言うと、第一次大戦前とそれ以後に対応するみたいです。　そこでぼくの生命思想から判定すると、後半の作品のほうが、明らかに価値として劣るということになるのです。後半の作品の中で、比較的いいのは、『シッダールタ』と「内面への道」の三部作の中の一つ『子供心』ですね（子どもの心理の描写にかけてはヘッセの右に出るものはないでしょう。『デミアン』の最初の部分、つまり「二つの世界」における少年シンクレーアの心理の分析も、見事というしかありません。）　ぼくの生命思想による序列では、最高は『ペーター･カーメンチント』と『車輪の下』、この二作は甲乙つけがたいですね。次が『ゲルトルート』。　前期の最後あたりに『クヌルプ』という注目すべき作品があるのですが、しかも解説によれば、ヘッセ自身特別の愛着を持っていて、長い間暖めていたようですが、残念ながら構成が破綻しています。三章からなっているのですが、それぞれの章の語りの視点が違っていて、三つの短編を寄せ集めたようになっていますね。ぼくの生命思想から見れば、この作品の思想で、戦後もつらぬいてほしかったですね。クヌルプのような人を主人公にして、シッダールタの現代版としての長編を書いてほしかった。第一次大戦の影響とはいえ実に残念ですね。　後期の作品についていいますと、第一に、作者自身が虚無にさらされています。『シッダールタ』は仏教的悟りというより、虚無との戦いが主題になっています。大衆蔑視と知識人の特権意識が登場しています。これが作品の中で、ニーチェが言及される理由です。つぎにキリスト教的な善悪とか、天国と地獄といった観念が登場しています。最悪なのは、霊的な愛を見据えた男女のプラトニックな愛に変わって、性的欲望を根底とする男女の情交が圧倒的重量を占めることになりました。それをヘッセは愛と称しています。とんでもない錯誤です。シッダールタの娼婦体験、『荒野の狼』における主人公の娼婦との情交、『ナルチスとゴルトムント』におけるゴルトムント（こちらの方がこの作品の主人公と思われます）のドンフアン的女漁り。こういうものをいくら見事に描写したところで、断じて芸術的作品にならないというのが、ぼくの生命思想から必然的に導き出される結論です。ヘッセは母性というものを完全に誤解しています。これはゲーテにも当てはまるとぼくは確信しています（このことは別の機会に論じたいですね）。母性というものは、ぼくの言う霊的生命への最大の入り口なのであって、性的エロスとは何の関係もない（と言えば言い過ぎかもしれません。母性の中には、乳幼児の将来の対他関係を、つまり言い換えれば、異性関係を根源的に規定するものも含まれていますので、どこそこ性的ではあるのです。だから人はすぐ誤解したがるのですが）のです。初期の『ペーター･カーメンチント』には霊的生命、つまり愛と知恵と生命が溢れていたのに、残念です。『車輪の下』は、霊的生命に溢れた少年が（通俗的に言い直せば、感受性の鋭い少年が）、学校の制度という権力によって、完膚なきまで叩きのめされる、という物語です。この作品が、ぼくの考えによれば、明らかにカフカの作品『流刑地にて』の下敷きになっています。ちなみに表題の『Ｕｎｔｅｒｍ　Ｒａｄ』は、Unter die Räder kommen（落ちぶれる）を暗示するというより、中世に行われた「車裂きの刑」を暗示しているというのが、正しいのではないでしょうか。この刑のことをドゥーデンの大ドイツ語辞典で調べてみたところ、rädernという単語があって、その意味は、先ず死刑を言い渡された罪人の四肢を完全に打ち砕き（このとき車輪で轢き潰したとかんがえれば、分かりやすい）、そのあと車輪（単数）に磔（はりつけ）にするそうです。その後どうするのかが分かりません。いずれにしても『車輪の下』という作品は、学校と言うものが続く限り価値を持ち続ける不滅の芸術作品であると、ぼくは断定します。そして学校という処刑機械をテーマにした小説と言えば、この作品とともに双璧をなすのが、サリンジャーの『ザ･キャッチャー･インザライ』であることはいうまでもありません。　ヘッセの作品の中に『内面への道』というのがありますが、この言い方に習ってヘッセの作品を総括しますと、『デミアン』以前の作品は、あきらかに「生命への道」ですが、後期の作品は「内面への道」言うより「自我の道」への後退というべきではないかと思います。（ノート）平川　優さんはぼくの敬愛する年長の友人で、鳥取大学のドイツ語の教師です。そして、またぼくのドイツ「語」ならぬ、囲「碁」の教師でもあります。毎年６月近辺に平川さんは学会のために上京される、そのとき必ず拙宅で碁盤を囲む慣わしが、ここ数年続いています。彼に４目置いて、指導碁を打ってもらうのですが、いまだかつてぼくが勝利した記憶はありません。去年、北村透谷からはじまる「生命思想」についての独自の見解を、友人たちをまじえて平川さんの歓迎会を拙宅で開いたときに披瀝されましたが、その考えでヘッセに言及したものですが、それを、ここに無断で転載しました。平川さん、ごめんなさい。ヘッセに興味のある方はなるほどとうなずくことでしょう。平川さん、また来年の６月に囲碁と文学を教えてください。楽しみにしています。（水島）これを転載したのが昨晩、今日（２８日）帰宅して見ると、メールでお許しの言葉と、見直しされた完成版が送られていました。昨日のものは破棄しました。赤い題名以下、平川さんの見直された文章そのままです。平川さん、あらためてありがとう。

  September 27, 2005

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  Practice in Japanese writing 2: New York , September 2005 (by Mashiho Yuasa)

  水島先生、 New Yorkに来て二週間が経ちました。今まで仕事で何度も訪れたこの町は、新しく住人になった私に、まるで違った顔を見せてくれます。わたしの新しいneighborhood, Upper East Sideの小汚い明るさ、若さ、活気に心が躍ります。歩道のコンクリートを蹴って北に南に、東に西にと歩き回る、そういう単純なことも私には新鮮です。　Central Park、East River, 美術館、博物館、教会、レストラン．．．．訪ねる所に限りはありません。　 私が引っ越してきて最初の日曜日は九月十一日でした。向かいのアパートの上に見える小さな空は切ないほど青く、朝のテレビ放送は、World Trade Center跡で行われた記念式で読み上げられる犠牲者の名前を、延々と流しました。近くの消防署の前の歩道を埋めて、花屋の店先を思わせるほど花束が供えられていました。そして消防署の外壁には１０ｋｍほど離れたWorld Trade Centerで亡くなった九人の消防士の写真が飾られていました。　静かに悲しい朝でした。 地下鉄での通勤も私にはまだ珍しく思えます。貧富、老若、あらゆる人種と国籍がNew Yorkの地下鉄の中で出会い、押し合い、そしてまた、それぞれの世界へ分かれて行きます。　汚い地下道を皆、目的地を目指し、他人に目もくれず、急いでいきます。そんな地下道に澄んだクラリネットの音が響くことがあります。急ぐ足を緩める者も、音の源を探して振り返る者もありません。Rockefeller Center駅で降りて、地上に戻れば、裕福な世界です。 私の弁護士としての生活も始まりました。五百人以上の弁護士の働く法律事務所で先週一緒に仕事を始めた同級生は百人です。この法律事務所の顧客のほとんどは、多国籍企業、投資家、またはとても裕福な個人です。　複雑で大金のかかわる取引に関しての法律のアドバイスをするのですから、緊張します。こういう大きな仕事は面白いのですが、それと同時に、Pro Bono（無料奉仕）の仕事をやらせてもらうのも嬉しいことです。　今週、私に割り当てられた四つの仕事のうちの二つがPro Bonoです。公共福祉団体の構成、運営を法律の面で手助けするのです。人のために労力を惜しまずに働けること、そういう機会を与えてもらえることは幸運です。 人のために労力を惜しまずに働くといえば、私の同級生の弁護士たちには頭が下がります。私と一緒に就職した若い人たちは、皆、Harvard, Yale, Columbia, Stanford, NYU、Michiganなどの名門のLaw Schoolの卒業生です。　その彼らのほとんどが、長期に亘るVolunteer活動を経験しているのです。南米の貧しい村々を、トイレを掘って歩いた女の子がいたり、Guatemalaで無料医療を提供する医師団の通訳を務めた子もいます。不法移民の弁護を無償でした人たちもいます。大学生としての夏休みを人のために使った若者たち、この中から、政治家も、裁判官も、大学教授も出るでしょうが、これならアメリカの将来をそれほど悲観することは無いような気もします。 仕事が忙しくなりました。私の時間は六分単位に区切られて、それぞれの六分間にした仕事が記録されていきます。仕事があるということ、仕事をするという事、私は満足しています。夜、オフィスを出ると、向かいのRadio City Music Hallの明かりが華やかで、わたしはNew Yorkで働くことにThrillを感じます。 私のNew Yorkでの最初の二週間の印象です。 ましほ(note)ましほさん、こんな題名でいいですか。もし違う題名の希望があればお伝えください。英文の語順などに自信はありません。読んでいて、すごい仕事だなと思いました。こちらでは６分刻みの仕事の記録など、考えることもできません。それにしても、すばらしい人たちが同僚として働いているのですね。そのような同僚たちから刺激をうけてあなたはまた一段と成長することでしょう。先日、詩人の友人（女性）がNew Yorkに行きましたが、あなたを紹介すればよかったと今思いました。ちょうど9・11のメモリアルと同じ時期だと思った。pro bonoの仕事のこと、いろいろ報告してください。次回のレポート楽しみにしています。　英己photo by pecoかの白く咲けるをなむ夕顔と申し侍る。花の名は人めきて、かうあやしき垣根になむ、咲き侍りける。

  September 26, 2005

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• JEFFERSON, Yoknapatawpha CO, Mississippi

  William Faulkner(1897-1962)はミシシッピ州のAlbanyで生まれたが、その後同じ州のOxfordに移った、ここが彼の多数の作品の舞台となった仮構の街Yoknapatawpha County、Jeffersonのモデルである。おそらく、この仮構の街も今回のKatrinaの爪痕から逃れることはできなかったのではないか？「響きと怒り」のコンプソン一家のような家も現在のAlbanyやOxfordには生き残っていたのではないか、深南部（deep south）の町には現代を超えた亡霊たちがまだ生きていたはずだ。すべてがKatrinaの餌食になったのかも知れない。しかし、作品は違うが、Requiem for a Nunの登場人物の台詞、”The past is never dead. It’s not even past.”などと呟きながら、水に飲まれてゆく邸宅を眺めていたかも知れない。要するにある面では、Katrinaなどの天災ほどFaulknerの文学に似つかわしいものはほかにはない。その壮大で前衛的な結構に比して、彼の文学の底には南部の農民のsoulとしか表現できないものが流れている。だから、Yoknapatawpha Countyは不滅なのである。1950年ノーベル賞の受賞のスピーチで彼は次のように述べたという、その一部だが、“ I believe that man will not merely endure: he will prevail. He is immortal, not because he alone among creatures has an inexhaustible voice, but because he has a soul, a spirit capable of compassion, sacrifice and endurance.”息をつめて大切に訳してみよう。「人間はただたんに耐え忍びもちこたえるのではありません。人間は勝利するでしょう。人間はあらゆる生物のなかでただ独り尽きることのない声を持っています、しかしその故に人間は不滅であるということではないのです、人間は魂を持っています、そこから流露する気力をかれは持っています、それは共感する力、捧げる力と忍耐する力です、それゆえに人間は不滅なのです」。だから、Gulf Coastは立ち直るであろう。（以上はNYTの今日のコラム、John Grishamの’ The Gulf Will Rise Again’から示唆を受けて書きました。）

  September 25, 2005

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• Let us rise above the legacy of inequality

  昨晩は久しぶりの元ゲニウスの集まりが国立であった。福間、倉田さんの詩集の出版記念会と宗近さんの会社が現地法人をモスクワで設立することになって、そこに10月から責任者として出向するので、その壮行会をも兼ねた集まりだった。そこで知ったのだが、添田さんが小野十三郎賞を受賞したということで、一挙にお祝いが重なったのだった。横木さんは会社を辞めて、ポルトガルに行き、リスボン大学で一年間勉強するそうだ。知念栄喜さんが亡くなったということを高貝さんから聞く。知念さんは長らく、山之口獏賞の選考委員をされていた詩人だ。瀬尾さんが素晴らしい記念品を三名に買ってきていた。みんなで楽しく飲んで話した一晩だった。一次会のあと、「奏」に行き、福間さんとぼくは例の如くワイン一本を開けた。帰りは瀬尾さんと二人だったが、八王子で横浜線は既に終了していたので、それぞれタクシーで帰宅した。今日の午前1時頃か。気心の知れた友人たちとゆっくり飲み話す愉しみ。10月２日に「奏」で秋山さんを迎えて、ぼくらの朗読会が開かれるのだが、それも昨晩のような楽しい会にしたいと思う。昨日、E MUSICでBUKOWSKI の哄笑に満ちた詩の朗読の何篇かとJACK KEROUAC自身が自作の” ON THE ROAD”のPART3の一部を朗読しているのをDLした。後者は28分にも及ぶ長尺ものだが、とにかくその声の素晴らしさに聞きほれる。あらためて原作のその部分を開きながら、彼のポリフォニックかつドラマティックな読み方に刺激を受けた。今日は一日中台風の影響か雨、家でゴロゴロしていたが、またEMUSICに行き、WOODY GUTHRIEのなつかしい歌をDLした。New Orleansの娼家The house of the rising sunの歌などを今回の惨状に重ねて聴いていると、涙が出てくる。ブッシュは先週の「巡幸」時にそこでBIG SPEECHを行い、”Let us rise above the legacy of inequality”（不平等の遺産をみんなで克服しよう）と言った。そして彼の政権が出した復興策の目玉が、”Little house on the flood plain”というものだ。これを聞いてだれもが想起するのはインガルズ一家のあの有名な”Little house on the Prairie”（「大草原の小さな家」）だろう。この度し難い時代錯誤と、その規模の小ささをNYTの社説（９月２３日）は厳しく批難している。被災者に家を与えるという政策なのだが、従来の’ Urban Homesteading Act’（都市定住奨励政策・荒廃建物に入居者が修理補修をしたうえで、一定期間居住した場合、最終的にはその建物の所有権を与えるというもの）の適用に過ぎないし、結局は避難民自身の金を当てにするものに過ぎないという。これに該当する建物はわずか4000箇所しかないし、それもニューオーリンズ地域の1000箇所を加えてということだ。同じようなプランがニューヨークやボルティモアでも行われているが、「十分だとは言うことはできない」。小さな小さな解決だという。それは多くの大きな問題に対する「共和党の小さな政権」がやってきた同様の多くの解決！？とも同じだとも。社説氏はこれに対してクリントン政権が1994年のNorthridge大地震のあとに南カリフォルニアで行ったバウチャー制度の有効性を述べているのだが、これは被災者にクーポン券を配り、全国どこでも家を借りることができるようにしたものだ。こうすることにより被災者がただ住居のことに巻き込まれることをふせぎ、もっとはば広い学校や医療、職などのサービスを受けることを考えることができるというのだ。ぼくは以上のようなことに詳しくはないが、ニューオーリンズという地域で社説氏が述べるようなこと、これは誇張すれば「そのバウチャーを受け取れば、きみはもし望むならばニューオーリンズからアラスカに移ることもできるのだよ」ということに他ならないが、そういうことをニューオーリンズの住民が望むだろうか？しかし、ブッシュ政権はもう一つ奇妙な提案をしていて、被災者にトレーラーハウスを与え、彼らの居住地をその駐車場にしようともしているという。「沿岸州にわたる流木のように散乱する」トレーラーハウスの駐車場を、家を失った避難民の居住区にするという奇怪な政策。社説氏の結論は、クリントン政権時のバウチャー制度のほうがよりリアリステイックであるというものだ。避難民にトレーラーの駐車場を与えたり、彼らに「大草原の小さな家」のコピーを手渡すよりも。Ritaが上陸した、ここにも台風が迫っている。

  September 24, 2005

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  Madeleine's birthday party

  JKさんのお勧めがあり、E MUSICに入った、たしかに安い。今はお試し期間というので50曲のダウンロードが無料である。カミサンのためにJerome Roseという人が弾いているショパンの四つのバラード（１番から４番まで）とファンタジー（「雪の降る街」の冒頭のメロディに似た始まりのもの）が入ったアルバムをダウンロードして、CDに焼きなおした。iTunesに移すのに手間がかかったが、あとは聞きながらの作業なので楽しかった。お試し期間を過ぎると、一曲２５セントぐらいだというから、iTunesの150円に比べるととても安い。Monkの何曲かもdlした。昨日、Houstonの友人のことが気になったので、メールを送ったが、今朝返信があり、明日デントンに避難するということだった。デントンは北テキサス大学がある街で、友人の奥さんの実家。ダラスの近くだから、そこなら大丈夫なのだろう。彼の兄はオースティンのホテルに避難し、彼の気丈な母はたぶんエルドラド？だったか、そこの自宅でこの嵐を乗りきるつもりだという。毎年、友人の娘Madelineの誕生日に、ぼくらは小さなプレゼントを贈っている。今年も少し遅れたが送った。この騒ぎでは届いているのかどうかおぼつかないが、友人はこの返信とともにMadeleineの誕生パーティの写真をいつものように送ってくれた。この子に避難さわぎを経験させるのだけがつらいとも書いていた。その写真を掲載しておこう。この子は日本の立川の病院で産まれた子である。昨日のNYTのコラムで、Maureen Dowdが相変わらず、激しい口調でブッシュを批判している。ブッシュの袖まくりをしての被災地の行脚を、痛烈に皮肉っているのだ。「関心があるという振りをしているだけの自分に気づかない人間を観察することより以上に哀れを誘うものはない」といった調子である。「そのポーズを即刻やめて、早く執務室（Oval Office）に帰り、取り巻き連中をもっと重要な仕事につけてあげなさい」という痛烈なものである。政権内でのcronyism（縁故主義）の例としてNorris Aldersonという獣医をF.D.A.’s Office of Women’s Health のヘッドに指名したので、驚愕した女性たちから猛烈な抗議を受けているということだ。Maureenの文章をそのまま引けば、”No morning-after pill, thanks to the antediluvian administration, but there may be hope for a morning-after horse pill.”「避妊薬はもうなくなるんだ、ありがとう石頭の政権さん、待てよ、馬のための避妊薬の希望はあるかも」。イラクの現状（シーハンさんなどの反戦運動）もカトリーナの失敗に加えて、ブッシュ政権を大きく揺るがし始めている。これに対して、ここの「希望」に満ちたような新入生たちの顔は後世の歴史に残るものとして記憶すべきものである。もと女性官僚の笑顔、もと大学教授の笑顔、もとカリスマ主婦の笑顔、もと女性エコノミストの笑顔、もと村長の笑顔、もと市長の笑顔、もと契約社員の笑顔などなど。幕末の志士を気取るかのような「改革」派の大勝、それに転向をものともしない無思想派、こういう連中こそ市中引き回しにすべきなのだが、夫子自身からさっそく「賛成」にまわった鴻池を先頭に、中曽根、野田、堀内などの恥知らずな面々の存在、さっそく勝ち組におべっかをつかいやがる。この彼我の対比を私は肝に銘じておこう。ヤンキースはそれでも勝つが、おなじニューヨークにはブッシュの化けの顔をはがそうとする信念の人たちも一杯いるわけだ。ニューヨークだけではない。こちらに贈るのに適切な言葉は「希望の虚妄なるは絶望と同じだ」、アメリカの政権には「絶望の虚妄なるは希望と等しい」か。それは文字通りのことで、この絶望と希望は嘘だということである。嘘の希望からはじまり絶望にいたるのと、嘘の絶望からはじまり、希望を見出すのと、どちらがいいか。

  September 22, 2005

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• We are still in a very dangerous place.

  選挙後の国会関係のニュースに憂鬱な気分が一挙に戻ってくる。今日の「夕陽妄語」の加藤周一の筆も暗い。「国民一人一人」などというものが存在したことがあるのか？という論旨だ。ワイマール時代になぞらえて、そこに起きた「集団」の服従と歓びの復習にこの日本の「国民」なるものが邁進するであろうことが予言的に重ねられていかざるをえない。それはなにもワイマールを持ち出さずとも、この「国」でも「翼賛」という大勢のコンフォーミズムになだれをうった時代が確実にあったのだ。とにかく、「改革」の中身を、本当は「改革」など大嫌いな「集団」の一員一員があからさまに詳しくはっきりと世間話のように話すことができるようになること。暗い劇場の安楽椅子に坐って、そこで演じられる分かりやすいドラマのヒーローとその敵役を見るような見方で政治を見ることから離れなければならないことは確かだろう。そのような方向でメディアなどは「政治」を報道すべきだと考えるのだが、今日の報道も各社そろって、新入生議員の動向を面白おかしく追うばかりだ。見通しのつかない、というのは私のことだが、そういう時代の幕が開けられたような気がする。自衛隊は国軍になるのであろうか、そうすると？いろんなことが波及的に壊滅的に連動して起こるだろう。逃げたいな。ますます暗くなる。ガルフ・コーストにはまたKatrina級のハリケーンRitaが上陸しそうだという。今回はヒューストンなどが危ないと言われている。友人一家が住んでいる所だ、katrinaの被災者たちも多くそこにいる。避難が命じられている。前回の轍を踏まぬように早めの避難や援助の態勢がとられているが、ブッシュ政権の命数が天災に対する備えの失敗や成功いかんにかかっているというのも皮肉なことである。考えてみれば、このことは堯、舜、以来の政治の最大の問題であったはずだ。はたしてわが国の「改革」は、その堤防の決壊を未然に防ぐような深慮から出たものであるのか？それともすべての堤防を決壊させ、宇内の「金」を流入させようとする短慮から出たものか？

  September 21, 2005

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• George's Dilemma

  遅い夏休みがやっと来たようだ。明日から文化祭の代休を含めて５連休になる。今晩はワクワク、ウキウキという気分だ。昨日の休みにBRODSKYの’ IN MEMORY OF CLIFORD BROWN’ という詩を訳したせいか、JKさん言うところのブラウニーの曲が聞きたくて、iTunesにアクセスしたら、なんとここで曲を購入できるということを知った。周知のことだろうが、はじめて私はsubscribeしてなんと合計７曲を購入したのである。一曲150円なり、これは高いか安いか？でも、ラジオと違って、いつでも好きなときに聴けるから、ここは安いと思おう。クラッシックも一杯あるとカミサンを騙しました（調べたらクラッシックはそんなに多くないな）。以下はその初めての購入曲のリスト。ブラウニーとSarah Vaughanの’September Song’、同じく’ Lullaby of Birdland’　これは泣けます。後者ではSarah Vaughanのダバダバ、シャバシャバ、ドゥヴィドゥヴィが素晴らしい。次にブラウニーとHelen Merillの’ You’d Be So Nice Come Home to’　これも真実素晴らしい、修君、ごめんなさい。さらに、ブラウニーがマックス・ローチ・クインテットと共演した曲二つ、’ The Blues Walk’と’ George’s Dilemma’というもの。これらは’ Alone Together’というアルバムにあるもの。Brownではないが、Monkも聞きたくなって、「奏」で宮野さんがサックスとベースのために編曲した’ Four In One’も買ってしまった。ここでやめとけばいいのに、生来の浪費癖が出た、マーラーの歌曲があり、しかも好きなThomas Hampsonの’ Lieder eines fahrenden Gesellen’（さすらう若者の歌）の４番を買ってしまった。バーンスタインの指揮、ウィーンフィル。これは数少ないマーラー自身の作詞したものである。ドイツ語はわからないが。そういうことらしい。意味はわからずとも、これも泣ける。以上７曲、これらをＣＤに入れて、聴きたい人に贈ろうか。そういうことも簡単にできる。ちょっと懐具合と相談しながらやらなければならないが、自分の晩年に音楽に狂うのも悪くはないと最近は思う。

  September 20, 2005

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• 詩朗読LIVEのお知らせ

  詩朗読LIVE秋山基夫+FARM　　福間健二　　新井豊美　　水島英己今年３回目となるFARMの朗読会。日本の詩朗読シーンを1960年代からリードしてきた詩人秋山基夫を迎えて、行います。2005年10月2日午後４時～　（開店３時半）音楽喫茶「奏」　　　〒186－0002　　　国立市東1-17－20サンライズ21　B1F　　　JR 国立駅南口旭通りへ徒歩5分　　　右側地下１階　１Ｆに谷川書店（古書）料金=オーダー+　出演者へのカンパ（電話）　042－574－1369

  September 19, 2005

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• クリフォード・ブラウンをしのんで

  In Memory of Clifford Brown JOSEPH BRODSKYIt’s not the color blue, it’s the color cold.It’s the Atlantic’s color you’ve got no eyes forin the middle of February. And though you sport a coat,you’re flat on your naked back upon the ice floe.It’s not a regular ice floe, meltdown-prone.It’s an argument that all warmth is foreign.It’s alone in the ocean, and you’re on it alone,And the trumpet’s song is like mercury falling.It’s not a guileless tune that chafes in the darkness, though;it’s the gloveless, frozen to C-sharp fingers.And a glistening drop soars to the zenith, soas to glance at the space with no retina’s interference.It’s not a simple space, it’s a nothing, withalts attaining in height what they lose in color,while a spotlight is drifting into the wings,aping the ice floe and waxing polar. (1993 from SO FORTH)クリフォード・ブラウンをしのんで青ではなく、寒い色２月の盛りにはだれも興味を示すことなどない大西洋の色さそしてきみはコートを着てはいるが、氷盤の上にむき出しの背中をつけて伸びているそいつは普通の氷盤じゃない、まさに融けゆく氷の盤すべての暖かさが決して知ることのない議論のようなものそいつは海のなかで独り、そしてきみはそのうえで一人トランペットは水星の落下のように歌うあどけない歌の、闇のなかで暖めるような、そんな調べではない手袋をしない、凍てついたＣシャープの指だきらめく一滴が天頂に舞い上がる網膜によって妨害されることのない宇宙の一瞥を得るためにそいつは単純な空間ではない、そいつは空無だ、上りつめるオクターブの高みで色を失う氷盤と満ちてゆく極をまねてスポットライトが舞台の袖に流れ込む間に（ノート）最後の連は難しくて、誤訳ですが、最後までなんとか訳したかったものだから。

  September 19, 2005

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• Nobody knows you when you are down and out.

  ‘ Nobody knows you when you are down and out’というような暗い気分です。ベッシー・スミスか。ものの５分とも経たずに、この気分は晴れると思います。一つのfableを話しましょう。弱い詩人と強い詩人がいて、狼とコヨーテがいて、数を知らぬ人と、数に詳しい人がいます。狼とコヨーテは食物連鎖のなかの必要にして十分な要素として存在しますが、あとの２種類の対比はそうではありません。弱いと強い、数を知る、知らぬというのは言語ゲームのなかでの対立です。形容詞はロジカルではないから、いくらでも書き換えが可能ですが、動詞はそれで言い切っていると考えましょう。そこで次のように定義してみます、「知る人は強い詩人であり、知らぬ人は弱い詩人である」。これは真か偽か？狼は真と答えましたが、コヨーテは偽と答えた。ということはこの定義は成立しないということです。数を知る人は自然数の法則を近道で理解します、知らない人は虚数のロマンに惹かれます。弱い人は強さにあこがれ、強い人は強さの極限にあこがれます。詩人はこのどちらからも脱落します。彼は、強い、弱い、知る、知らぬ、などのすべてを知らないからです。認識でもなく、判断でもない、まして決断などとは無関係のもの、「狼」「コヨーテ」という言葉と、流れてはすぐ消えてゆく音楽などが、彼の愛するものなのです。非知や非戦、悲哀ではなく非愛など、つねにapatheticなものを彼は求め、それを「数」や「知る、知らぬ」に対置しようとする「狼」なのです。

  September 17, 2005

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• Toll

  セシル・テーラー・カルテットの’ Toll’が今かかっているのだが、まさに自身のための「晩鐘」というような感じですね。誤解を避けるために、ぼく自身のということ。次はホレス・シルバー’Too Much Sake’か。この人はダンス的なリズムにあふれているな。どういう意味だ？ まさか、ぼくのことを言っているのではないだろうな、こんなにも大酒飲みとか！たぶんそうにちがいないが。明日も出勤。最近はとにかく「間合い」がつかめない。EricのLeft Alone　こいつはよくわかる。おれのことだよ。それにしても、どうしてこう遅れて、ぼくはこれらに夢中になっているのだろうか？

  September 16, 2005

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• Burning Spear

  今日は12時間も職場にいた。以前なら、こんなに長時間いたら飲まずには帰らなかったが、最近はそうでもない。我慢して帰って、自宅でちびちび飲みながら音楽を聴いている。iTunesをダウンロードしたのは今年の夏だったが、それからずっとインターネットラジオでジャズやブルース、カントリーなどを聞くのが習慣になった。安いスピーカーを付けたのだが、それでも普通のfmなみの音質であるから、満足している。ColtraneのResolution（Part2）やDolphyのBurning Spearなどが流れている。Burning Spearというのはどういう意味だろうか。「燃える槍」ということか、他の意味もきっとあるのだろう。9月30日に宮野さんと中牟礼さんのライブが国立であるという案内を福間さんからいただいた、なんとかして行きたいと思っている。

  September 15, 2005

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• さわやかな、湿った夜

  拓が来た。久しぶりだった。昨日沖縄から帰ったという。9月の３日から大阪府立大の酒井隆史ゼミの合宿に参加して沖縄に行っていたのだという。彼は一橋の社会学部の２年生だが、「連続ティーチイン沖縄」の実行委員会として、さまざまな大学で「沖縄」を考える、「沖縄」から考える企画を開催してきた、その第11回目の立命館大学で行われたティーチインで酒井氏を知ったのだろう。いつものことだがその行動力には驚くほかない。ぼくは教え子がその実行委員である「連続ティーチイン沖縄」に二回参加した。一回目は一橋で開かれた、そのときの講演者は沖縄の有名な建築家であり、環境問題の運動家でもある真喜志さんであった。真喜志さんと話すこともできた。第三回目は都立大で行われた、そのときに話したのはフリージャーナリストの森口豁さんだった。「瑠璃の島」という連続テレビドラマが最近放映されたが、その原作者である。沖縄に一生を捧げている人といっても過言ではない。森口さんとも知り合えた。考えてみれば、みんな拓のおかげである。未来社のPR雑誌「未来」の今月号に拓が寄稿している、その最後の部分、――大学一年の秋、私が「連続ティーチイン」を媒介に沖縄と出会ってから、もうすぐ一年が経つ。日常の暮らしの中で、海の向こうの沖縄を自分の問題として捉えることは難しい。しかし、己の無関心や無気力と向き合い、様々な“場”をつないでいこうとすることによってこそ、私の言葉や思想は鍛え上げられていくと思う。ティーチインとはまさに、そのような企てである。沖縄からの声を聞き、応答の言葉を発する実践を、私はこれからも続けていく。（一橋大学社会学部二年　後藤拓也）　　――　「今帰仁に行ってきました」と言って、そこの泡盛とこの雑誌を手に、拓は家に来た。２時間ぐらい話したのだが、そのたくましい成長ぶりに圧倒された。恒例の貧乏ママチャリ旅行を今年もやったという。今回は大阪まで電車で行き、そこで中古の自転車を買い、それに乗って、なんと３日間で九州は福岡までという強行軍を完遂したということ。若さとはおそろしい、このエネルギーはどこから生まれるのだろうか。もっとも最後のころにはフラフラだったらしいが。感動もあまりなかったというのだが。来年の九月からは大学の交換留学制度を利用して、英国はバーミンガム大学に留学することが決まったという。「イスラム移民」を研究するのだという。いつものことだが、こういう若者と出会えたということは何にもかえられない私の喜びであり誇りである。その思いはいろんな意味で私を鞭打つ。私の部屋で、冷房もかけずに二人で汗をたらたら流しながら話したが、彼が去ったあとにも、明るいさわやかな余韻がいつまでも漂っているようだ（少し誉めすぎたね、拓）。

  September 14, 2005

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  Skopje

  「モスクワ、ソフィアを一気に突き抜けて、マケドニアの首都スコピエに入りました。ギリシアに似ているけれど、もっと激しく人種のるつぼの世界です。」とはじまる福間さんの葉書が今日届いていた。出した日付を見ると、８月２６日。これは福間夫妻が日本を出発してからたぶん二日目ではないか。彼らは９月８日ぐらいに日本に戻ってきている。これからの旅への意気込みが感じられる葉書だった。マケドニア共和国か。その葉書の写真をながめている。美しい空、大きな川、高層ビルも並んでいるが、それは一角だけで、大きな緑の空間が広がっている。車もヒトも多くはないが、明るい写真だ。どういう歴史を経た国なのだろうか。それにしてもクニは一杯あり、ヒトも一杯いるのだなあ。当然のことだが。アメリカというクニだけではないし、ニホンジンだけが生きているのでもない。そう考えれば、胸がすくような気もする。生きているうちに、福間さんみたいに、いろんなクニといろんな人のなかに「侵入し、通過してゆく」のもいいな。金融や経済のグローバリズムに巻き込まれるのか、そこから距離を取るのかということが今回の選挙の争点であったはずで、つまり郵貯にたまった何百兆の金の「出口」が問題だったはずなのに、それを焦点化できなかった民主の惨敗に終わったのは当然であるというような論旨で、京大の佐伯啓思が朝日の夕刊に書いていた。民営化すればグローバリズムの餌食になるというのは共産も同じようなことを述べていた。これは面白い一致だが、こういうリスクを負えるのかというようなことをもっと声高に主張してもよかったのではないか。要するに、またバブル時期に後戻りするのではないか。このようなグローバリズムはごめん蒙りたい。世界のなかに入るとはどういうことなのか、素手で、足で、愛で、友情で、食べて、見て、歌って、生きる、ことに決まっている。ヒトとヒトにつきる。銀行と銀行、政府と政府もたまにはいいだろうが、それだけが世界ではない。

  September 13, 2005

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• 「改革」の子

  30分ほど仮眠した。昨日の選挙といい、今日の仕事といい、いいことはなにもなかったので疲れたが、もうそんなことはどうでもいい。起きたらpecoさんからとても美しい写真を送ってもらったので、それを見ているうちに元気が出てきた。いやあ、それにしてもひどい結果だった。「改革」おばちゃん、おじちゃんたちのパワーに負けたのかね。もっと若い世代はどういう展望をこの結果に描くのだろうか？あらゆる怨恨が「公務員」に向けられ、それが実は「改革」「民営化」を後押ししたというのなら、おそろしいことである。一年ぐらい選挙戦をするような「改革」をやってみたらどうか？その間、「政治」は「民営化」してさ。じっくりと政策が聞けて、じっくりと考えることができるじゃないか。長丁場だから、テレビもそれだけを追うことはできないし、落ち着いた日常の中で、このクニの行方を考えるというスタイルの番組だって可能だよ。辛女史が今度の選挙戦のキーワードは「憎悪」と言っていたが、それに「怨恨」をプラスすると、こうなるのか。ここまでお互いを認めることができなくなっているということで、それを烈しく「演出」したのが、コイズミ監督だということだろう。信をわざと瓦解させることで、票を得る、亀裂をあざやかに作ることで人心を買うという手法はそんなに新鮮なものではないのに、なぜこうもブレークしたのだろうかね。もうよそう。この「勝利」の、「改革」の子供たちの未来を見てみようじゃないか。どういう子供に育つのか。ひとこと、父に似る無かれ！

  September 12, 2005

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• folded lie

  W.H.Audenの有名なSeptember 1, 1939という詩の最後の２連では、次のように詩人の「声」が立ち上がる。All I have a voiceTo undo the folded lie,The romantic lie in the brain Of the sensual man-in-the streetAnd the lie of AuthorityWhose buildings grope the sky:There is no such things as the StateAnd no one exists alone;Hunger allows no choiceTo the citizen or the police;We must love one another or die.Defenceless under the nightOur world in stupor lies;Yet, dotted everywhere,Ironic points of lightFlash out wherever the JustExchanges their messages:May I, composed like themOf Eros and dust,Beleaguered by the sameNegation and despair,Show an affirming flame.ぼくが持っているのは折り重なった嘘をほどく声だけだ、欲望に生きる街の男の頭のなかのロマンチックな嘘と空にのびる建物の持ち主である「権威」の嘘を。「国家」なんてものはありはしない、そしてだれもひとりでは存在していない。飢えは市民にも警官にも選択の余地をあたえはしない。われわれは遭いしあわねばならぬ、さもなければ死だ。夜の下に無防備にわれわれの世界は昏睡して横たわる。でも、アイロニックな光の点が、いたるところに打たれ、「正しい者たち」がメッセージを交換する場所をすべて照らしだす。どうか、かれらとおなじようにエロスと塵から成り、おなじ否定と絶望に悩まされるこのぼくにも、肯定する炎を示すことができますように。（福間健二訳）「折り重なった嘘」を「ほどく声」はどこにも聞こえず、また「嘘」が折り重なるだけだというような感想を持たざるをえない。ぼくはテレビが報道している選挙結果から逃れるようにして、これを書いている。「アイロニックな光の点」はどこにも打たれなかったね。「正しい者たち」は永久に正しい者たちであり続け、否定も絶望も感じていないのだ。これが現実であるということか？希求された「肯定する炎」はぼくを依然として勇気づけはするが、あまりにも明るい嘘の折り重なりに、今夜は暗澹たる思いの方が強い。４年前の9.11はこうしてこのクニで、その新たな開始を、今度は壊滅的な絶望を告げるために演じられ始めようとしている。

  September 11, 2005

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• 友とするに悪きもの

  七つあり。よき友三つあり。一つには、物くるる友。二つには医師（くすし）。三つには、知恵ある友。兼好の言うよき友でない、悪き者でもない、そういう友が今日訪ねて来てくれた。うれしかった。

  September 10, 2005

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• O lente, lente currite noctis equi ! （おお、ゆっくりと歩め、夜の馬よ！）

  今週は疲弊した。今日職場で昼食を取り、自分の机に頭を乗せて、しばしの休息をとろうと思っていたら、熟睡してしまった。こんなことはなかったのに。昼休みの15分ぐらいだが、意識がなかった。「死んでいる」という声で起きた。明日は土曜だが、出勤しなければならない。元気なのは「選挙」ぐらい、しかもそのなかで「改革」をうるさく叫ぶ連中だけだ。誰と、どのパーティに入れるかは私も決めたが、なにかまともに考えることができないほど、自分からは遠いような感じがする。こんなことを書けば若い友人たちに叱られそうだが。画面に映る党首たちの言葉の響きの空疎さ、それを伝えるメディアの言葉の軽さ、…。もう自分にはあまり残された「時」などというものはないのだから、ゆっくりと好きなことをしていたい、そのためにこの国が滅ぼうとも、これは大げさだが、滅ぶことなどはあるまい、元気で立派な若者たちがいる限り、でも君らにツケをまわしたということで非難されるのだろうな。膨大な借金を国がかかえていて、それは個人あたりにしても百万単位にのぼると言われても、あまり実感がわかない。しかし、こういう視点はとても大切だとは考える。つまり国はぼくらが形成しているという基本原理に、やっと眼が開かれてきたのだから、私を含めたこの国の人たちも。憲法の問題やその他の問題もやっと争点のひとつになってきたのだろうか？「戦争は野獣的なものだが、しかしどんな野獣でも人間ほど絶え間なく戦うものはない。そういって、ユートピアの人々は戦争をひどく嫌い、ほかのほとんどすべての民族の風習とは違い、戦争で求められる栄光以上に恥ずべきものはないと考えている」、これは16世紀のトマス・モアの『ユートピア』の一節だが、こういう鋭い認識が、この世紀にはあり、現代にはない、進歩などは妄想にすぎないのである。「恥ずべき栄光」に血眼になっているのは誰と、どの党か、私はそこには一票を投じない。

  September 9, 2005

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• Slave Spirit

  １．父さん元気？ハリケーンってこっちでは”スレイヴ　スピリット”って言い方をする人もいます。ハリケーンが形成される場所（スレイヴがきた所）とハリケーンのたどり着くところ（スレイヴの買収が行われた場所スレイヴポートと呼ばれていたフロリダ、アラバマ、ニュウオリンズ、ミシシッピ）が毎回おなじだからそういう呼び方をするそうです。ジャクソンビルにも１０．０００の難民（ｒｅｆｕｇｅｅｓという言い方で報道するなってＴＶでいってた。彼らはアメリカ人したがって避難者ｅｖａｃｕａｅｅｓの方がふさわしいって。）がくるみたい。彼らはいろいろな病気をもってくるだろうって想定されているみたいでクリニックとの会議があったりして大変ってソーシャルワーカーのケレンがいってた・・・ 毎日どんよりくもった通称ｓｕｎｓｈｉｎｅｓｔａｔｅ　Ｆｌｏｒｉｄａからでした。２． ＡＫＩＮの友達が送ったメイルをお父さんに送信してもらいました。ＮＥＷ　ＯＲＬＥAＮＳのメイヤーのインタビューです。ＭＰ３の所をクリックしてダウンロードすれば聞けるはず。 ＳＬＡＶＥ　ＳＰＩＲＩＴの事。白人の人はあまり使わないようです。この単語。やはりアフリカン系の人が使うコンスピラシーみたいなものだけれど、（おばあちゃんが孫に語るみたいな、、、）Ｉｔ　ｍａｋｅｓ　ｓｅｎｓｅ　ｔｏ　ｍｅ．移動の際に船でたくさんの奴隷が死んだそうですが、死体は海に捨てられたそうで、その手口を知った鮫たちが死体目当てに船を追ってくるようになったとか。そんな風に死んでしまう人のＳＯＵＬって死に切れるようなものではなくやはり地上をさまよってしまうのだと思います。ＳＰＩＲＩＴ　と　ＳＯＵＬ　って　こちらでは違う使い方ですが、日本だと魂ってことなのかな？だったらＳＬＡＶＥ　ＳＰＩＲＩＴとは、奴隷の魂ってことなのかな？Ｓｐｉｒｉｔ＝ｓｏｍｅｔｈｉｎｇ　ｔｈａｔ　ｙｏｕ　ｄｏ，　Ｓｏｕｌ＝Ｅｘｉｓｔｅｎｃｅ　ＢｅｉｎｇとはＡＫＩＮの分け方。Ｈｉｇｈｅｒ　ｓｐｒｉｔ　ｗｉｌｌ　ｆｌｏｗ　ｂｕｔ　ｈｅａｖｙ　ｓｐｒｉｔ　ｗｉｌｌ　ｗｏｎｄｅｒ　ａｒｏｕｎｄ　ｂｏｔｔｏｍ．と（あいまい）ＡＫＩＮ　が言ったけれど、という事はそういう風に死んでしまう人たちのＳｐｒｉｔって上（天国？）にいけないってことでしょうとは私の解釈。 とにかくＭＰ３聞いてみてください。日本では報道しきれない怒りが聞けます。以上は最近連続して受け取った、asiaticこと私の娘のメールから。２は私がなぜハリケーンをslave spiritと呼ぶのかよくわからないと質問した、その答え。Akinとは娘の友人。MR.Naginの怒りに満ちた声も聴いた、これは今日の「クローズアップ現代」の報道でも少しだが流された。今インターネットラジオを聴いているが、そこでも音楽の合間に、寄付を募る声が聴ける。草の根の援助が動き出したようだ。

  September 8, 2005

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• reaping the consequences of that contempt

  Hi Hidemi,Thank you for asking. My family was unaffected by the storm. However, living in Houston, we are certainly part of the recovery. Vanessa and I have donated money, supplies, and time to helping the victims of Katrina. My brother's wife has family in Mississippi and they are still without electricity. Some of her relatives may be coming to Houston for assistance in the next few days. I's is really amazing what has happened. The whole country is in shock and reaching out in amazing ways to help. The whole world is helping. Japan is certainly sending help as well. I know that we Americans really appreciate when countries like Japan offer help to us since we feel like we always try to help other countries when they have disasters.Thanks again Hidemi. Your friendship means the world to us.Always,Troy, Vanessa and Madeleine先日、Houstonに住む友人夫妻（その娘はぼくのことをuncleと呼ぶ）に今度のKatrinaの影響について心配しているというメールを送った。その返信が今日届いていた。彼の祖母が住んでいるところは、その名もテキサス・リビエラという所でガルフ・コーストのさびれた一端をなしているところだったから、とくに心配したのである。クリオという彼の祖母のことについて、私は「コルクスクリュー」という詩を書いたことがあった。リビエラで釣り客のための餌やその他の雑貨を販売していた。メキシコ湾の浜辺と言ってもいいところにクリオのお店はあったのである。昨年の冬友人一家が久しぶりに日本を再訪したが、そのときクリオがおまえのことを心配しているよ、手紙を出してくれと、トロイから言われたのだった。大丈夫だったようだ。鹿児島の両親も大丈夫だった。この台風は大隈半島や宮崎に大きな被害を与えたけれど。トロイは私の年下の友人で、楽天的なテキサス男のスタイルがあるから、私に余計な心配はさせまいと考えて上掲のような気丈なメールを書いたのだと思うが、それにしても昨年度から頻発する地震や津波の大災害、そしてこのハリケーンといったように地球規模のdisasterが連続する、その合間には複雑怪奇なman-madeのdisasterが途切れることなく日々のニュースを賑わす。21世紀初頭はある世紀末、言うならば地球の「世紀末」の様相を呈している。sustainable（持続可能な）という言葉がいろんな開発や制度の枕詞になっているが、本当にこの言葉を今の政府や社会はリアルなものにしようという真剣な努力をしているのだろうか？民営化が錦の御旗のようになっているが、そうか？それは真実sustainableな改革なのか？単に競争を過激化させ、さまざまなdisasterを持ち込むだけのものになりはしないか？NYTのコラムニストの一人であるPAUL KRUGMANによれば、今般のFEMAの無能ぶり、とくにその長官Michael Brownのひどさは、彼には全く危機管理のどんな資格も素養もなかったことにあり、そのような人間を長官にしたブッシュ政権の、国民の安全、公共の安全ということに関する侮蔑Contemptが原因だということである。この侮蔑によって人々は殺されたのであるということ。このMichael Brownの前任者はJoseph Allbaughというのだが、この男を連邦危機管理庁の長官に指名したのがブッシュである。かれはブッシュのa close political confidant（親密な政治的な親友）だった。Allbaughが長官になってすぐにやったことは今までに備蓄されていた危機管理用の物資などの削減だったというのだ。Brownは前任者と大学のルームメイトにすぎなかったし、彼の前職はhorse showの監督者で、この仕事の資質は全く無かった、そういう男をブッシュが指名したのは全くの「露骨な行政上のえこひいき」raw cronyismだった、こういうことはFEMAなんてどうでもいいという政権の「侮蔑」の表現であり、そのことがここの職員のモラールにどんな影響を与えたかだれにでも容易に想像できるというのがPaul Krugmanの主張の一つである。こういうことが民営化によって絶対に起きないとは断言できない。道路公団の理事長に小泉が指名した男は、そこのsustainableなスキャンダルをも見逃すような論外な無能ぶりではあるが。こと公共の安全や福祉などにかかわる分野をも効率性と市場原理の御旗のもとにことごとく民営化しようという発想の下にあるのは、要するに自らの政権を維持するために常にある「問題」を提示し続け大衆の耳目をひきつけるやりかたであり、どういう問題であれ、その効果的な「解決」には決して関わらないというスタイルである、こういうところに日米首脳の共通のスタイルがあるのではないか。それをポピュリズムと呼ぶ。重要な問題に対してはことさらにそれを安易化、簡単化して話す、ねじれた問題ほど、問題として両断するパフォーマンスには一番適している。それによって無視され、侮蔑された行き場のない怒りがdisasterをこれからも産出し続けるであろう。自然と、人間の。

  September 6, 2005

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• 自然に、台風に、ハリケーンに

  ニューオーリンズの水害のことばかり書いていたら、鹿児島に大きな台風が接近している。父母に電話したが、なんか通じない。妹に携帯で電話したら、今家の外に出て台風に備えて補強中だという、離れて住んでいる父母のことを聞いたら大丈夫だという。ちょっと心配である。この世界規模の気候変動の原因をぼくに説く力はないが、自然も人間も閉塞された鬱積状態が持続しているように感じる、ひとたびその力が解放されると前例のない災害や事件を生み出すようになってきているのではないか？今ぼくの部屋では秋の虫の鳴く声がいつもと同様に聴こえてくるのだが、これもつかの間の平安だという思いに傾きがちである。義父の具合も一向に好転しないので、女房は寝不足で疲れきっている。埒のあかないこと、自らの力不足、こういうものを一緒に嵐が吹き消してくれたらいい、しかしそう思う人々の安全は保証しながら。自然はたぶんそういう思いでちょっと力を見せつけるのだろうが、そのよき力を軽視し、無視し、ただ効率の争いと自己の欲望の満足のためにだけかまけてきたのがわれわれであるとすれば、慰謝を通り越した鉄槌となって風と雨が一番弱き者たちを襲うということになるのだろうか？われわれの理性を越えたもの、美しく着飾ってよく喋る美人の気象予報士たちの予測をはるかに超えるもの、たぶんそれが自然ということだろう。

  September 5, 2005

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• Do you know what it means to lose New Orleans?

  今日もNew Orleans のことについて書く。この町はテネシー・ウイリアムズの「欲望という名の電車」の舞台になった町でもある。そしていわずと知れた、アメリカのジャズの揺籃の地でもある。ここを”Big Easy“と呼ぶのは、流れつめたミュージシャンでも容易く音楽の仕事を見つけることが可能だから、彼らがそう名前をつけたといわれる。初期の入植者はフランス人であり、スペインがそれに続き、多くの黒人奴隷を使いコットンのプランテーションを展開したことはこの町の歴史として誰もが知っていることだろう。ラフカディオ・ハーンもここで記者をしていたはずだ。クレオール、あるいはケイジャン文化で知られる伝統と文化を持った町。太陽王ルイ14世にちなんだルイジアナが格安でアメリカにナポレオンによって売却されたのは今から200年ちょっと前の1803年のことであった。そういう歴史、ということはつまり先祖を持って、ここに生き死にを繰り返した人々が、たとえ貧しいからと言われても、どんな強力なハリケーンが来ようと、おいそれとこの地をたちのくことは容易なことではなかったはずだ。解放後の黒人たちも貧困階級ばかりというわけではない。今の市長Ray Naginは黒人ではなかったか。なくてはならないニューオーリンズの中産階級として町の興亡盛衰に責任とその応分の役割を果たしているのは黒人たちだと思う。Anne Riceという当市在住の女性のベストセラー作家がいるが、彼女の書いた「ニューオーリンズを失うというのはどういう意味か分かっているのか？」と題されたコラムを読んでいろんなことを考えさせられた。彼女は故郷を礼賛する、――　何か他とは違うものがそこにはあった。生活はよかった。時計は他とは違いゆっくりと時を刻んだ。人々は笑い、キスし、愛し、喜びがあった。それはニューオーリンズの人々が、黒人も白人も決して北へは行こうとしなかったからだ。何百年にわたっての隣人たちのなかで、そこが家庭だと彼らが感ずるところを離れようとは思わなかった。周期的に繰り返す家族たちの結婚、誕生と死、それが彼らの生の織物（the fabric of their lives）だったのだ。いつも寛容が不正に打ち勝つ町、忍耐が怒りに打ち勝つ町を離れたいなんて思わなかった。プロテスタントとカソリックの町、アイリッシュのセントパトリックの祝祭、イタリアン人のセントジョセフの祝祭、それらを含みこんだ町。山の手のお上品な伝統主義者たちの平和で美しい地域を含みこんだ町、町の行事でいやましにその役割を増す黒人たちを含みこんだ町、だれもそこを離れようなどとは考えたことはなかった。――そういう町、南北戦争も破壊できなかった町を自然は破壊した。容赦のない効率性の追求を旗印にする「現代生活」が破壊できなかった町を自然は破壊した。人種主義も差別主義も破壊できなかった町を自然は破壊した。自然はポンペイの最後のようにこの町を瓦礫に変えてしまった。Anneはこう論旨を展開する。いろんな人から次のように質問されたという、「なぜこの人々は嵐が来ると知りながら、ここを離れなかったのか？」そして今やその声は次のようなコーラスになって彼女を問い詰めるという、「どうしてこの泥棒連中はこんな危険なときに盗みや略奪をするのか？」「どうしてお互いに射ち合うのか？」「一体どんな連中なのか、ニューオーリンズの市民とは、洪水に襲われながら町に残り、お互いに殺し合いを演ずるなんて」。こういう質問には人種が焦点になっているとAnneはいう、溺れるもの、略奪するものの報道写真のほとんどは黒人だからだ。彼女の答えは以下の通り。――　何千という人間が離れなかったのはそこを離れることができなかったからだ。金も車もなかった。行くところもなかった。彼らは貧しい白人と黒人だった、どんな町にも膨大な人数でいるような。そして彼らは彼らができると思ったことをやった、彼らは見つけることのできた頑丈な家に身を寄せ合った、彼らにはもっとも近いラマダ・インにチェックインするなんてとてもできない相談だったのだ。――今思い出したが、８年前息子と一緒に一晩滞在したホテルがラマダ・インだった。Anneはもっと重要なのは、脱出しようと思えばできたのに、あえてこの町に残り、救助活動に身を挺した人々も何千といたことだと言う。ボートで人々を救助し、ヘリで救助し、スーパードームの状況を何とか緩和しようと悪戦苦闘した人々などのことを彼女は書いている。――　これらの間に他のすべての人々はどこにいたのか？ああ、援助はやってくるだろう、ニューオーリンズはそういわれた、われわれは金持ちの国なんだ。議会は動いている、だれかがやってきて略奪をストップさせ、避難民の面倒をみてくれるさ、―――救助は最終的にはやってきた、しかし一体何回知事は絶望的な状態であると言わなければならなかった？市長は一体何回援助を求めなければならなかった？　なぜアメリカはこんなに長い間この町に自分たちで戦えと求めたのか？これが私の質問である。――　Anneの以下の文章は私には感動的である。――　ニューオーリンズは結局この戦いに勝つであろう。私はここに生まれ、何年も住んできた。この町が私とは誰であり、何であるかを作ったのだ（It shaped who and what I am.）。人々がこの町以上に愛や家族や誠実さやみんなとうまくやっていくことなどについ分かっている町を私は経験したことがない。たぶん人々の優しさこそが彼らに忍耐力を与えているのだろう。彼らは過去の嵐の後そうしたようにこの町を再建するだろう。そしてニューオーリンズに残るだろう、なぜなら彼らはそこにいつも住んでいたから、そこに父母が暮らしていたから、そこに先祖によって教会が建てられているから、そこに彼らの家族の墓が200年の名を伝えているから。彼らはニューオーリンズに留まるであろう、そこでなら他のコミュニティが失った家族生活の美しさを味わうことができるから。――――　しかし私は私の国に言いたい、この危機の間、あなた方は私たちを裏切った、私たちを見下した、犠牲者と私たちを棄てた。あなたたちは私たちのジャズ祭を好む、マルディ・グラのお祭りも好きだ、私たちの料理と音楽も。でも私たちの実際の危機をあなた方は見て、そしてほんとうに取るに足りない小数派がわれわれのなかの弱者を餌食にしているのを見て、あなた方は私たちを「罪業の町」と呼び、私たちに背を向けて立ち去ったのだ。――――　そう、われわれニューオーリンズ人はなにか得体のしれないものなのだ。われわれはこの国の中でもっともエキゾテイックでもっともアトモスフエリック（atmospheric 適訳がみつからない）で、時には最も虐げられたものに見えるかもしれないが、それでもこの国の一員である。わたしたちはアメリカ人だ、われわれはあなたなのだ。――以上がAnne Riceの結論である。私は先日のMaureen Dowdの文章といい、この文章といい、日本人の知識人にはない何かを感じながら読んだ。ここの知識人には欠けていて、これらの文章にはあると私が感じるものは何だろうか？簡単に言えば、「切実な率直さ」。同じことかもしれないが批判するものを真っ直ぐに批判しようとする愚直さ。未曾有の危機にあたっても、この国の膨大な広さを考えると、どんな緊急の叫びもよく聴取されるとは限らない、だからそれに見合った強さを、何か訴えようとする文章は必然的に持たざるをえない、でもそういうときにもこれらの文章は空疎で誇大なディスクールには陥らない。足がしっかりと地についた文章である、だからこそ訴えるのであろう。とくにAnneの文章は、彼女自身がニューオーリンズ在住ということもあって強く印象に残るものになった。この人の小説にヴァンパイア・シリーズがあるが、それを読んでみたいと思った。

  September 4, 2005

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