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テーマ:日々自然観察(10123)
カテゴリ:植物(草本)
タネツケバナと言うのはよく似た種類の多いややこしいグループで、日本全土には10数種あるらしい。しかし、住宅地に生える雑草としては、タネツケバナ、ミチタネツケバナ、コタネツケバナの3種位しか手元の図鑑には載っていない。 ところが、この写真のタネツケバナはその何れとも一致しない。先ず、基本的にヘナヘナな植物で、根系は貧弱、どんなに繁茂してもごく簡単に抜くことが出来る。我が家の雑草の中では、抜き易さにおいて最優等生である。 上の写真は、植物体が見易い様に周囲りのカタバミの実生などを取り除いてから撮ったのだが、自分では殆ど自立出来ないほど頼りない植物である。タネツケバナやミチタネツケバナの様なロゼット状なんぞには決してならない。
茎や葉は無毛である。この点で、タネツケバナとは明らかに異なる。また、葉の形も違う。「小葉」(複葉ではないので本当は小葉ではない)の殆どは、粗くてかなり深い鋸歯を持つ丸い形をしており、細い「小葉」は殆ど見られない。また、低出葉は普通の葉の先端部だけの様な形をしている。上に挙げた3種のタネツケバナの場合、先端以外の「小葉」の多くは細長いのとは大いに異なる。
花は極く小さい。時期的に寒くて良く開かないのかも知れないが、一番開いたときで上の写真の様な状態。花弁の長さは2mm程度、もし花が完全に開いても花弁の上部しか開かないので、花の直径は3mmに達しない筈である。タネツケバナの花弁は3~4mm、ミチタネツケバナは2~3mm、コタネツケバナは2mmとのことなので、この花はコタネツケバナに一番近い。 しかし、花期は何れも春である。今咲いているのは狂咲きなのだろうか?
どうも総合的にはコタネツケバナが一番近いのだが、やはり植物体の外観、葉の形や開花時期など、環境で変化しそうな形質で種を見極めようとするのは無理な様である。そこで、植物分類学の伝統的な基準(最近は違うやり方が色々ある)に従って、花、実や種子の詳細を見てみることにした。 アブラナ科はかつて十字花科と呼ばれた位で、花弁は4枚と決まっている。しかし、雄蕊の数は種によって異なり、タネツケバナとコタネツケバナは6本、ミチタネツケバナは4本が標準とのこと。写真では花が開いていないので、雄蕊の数は数えられない。其処で、花を解剖してみることにした。
本来ならば、実体顕微鏡下でこの種の作業専用の細いピンセット(1本数千円~1万円以上する)で行う作業だが、顕微鏡は無いし、ピンセットは2回の引っ越し作業の間に行方不明になってしまった。仕方なく、細かい作業をするとき用の「+3」の老眼鏡を掛け、普通のピンセット2本を両手に持って花を分解した。 幾つかの花をバラしてみたが、何れも雄蕊は6本、これでミチタネツケバナは「失格」と相成った。
果実の形は何れも似たようなものなので、次は種子の形状である。ミチタネツケバナの種子は長さ約0.8mm、やや細長く白っぽい翼(ヒレ)がある。タネツケバナのは長さ約1mm、かなり丸い厚みのある種子で翼はない。この2種の種子は、全農教の「日本帰化植物写真図鑑」に写真が載っている。また、コタネツケバナの種子は長さ0.7~0.8mm、やや四角っぽくやはり白い翼がある。これは保育社の「原色日本帰化植物図鑑」に図が出ている。 それでは、このタネツケバナの種子はどうであろうか。種子を超接写したのが下の写真である。種子はかなり細長く、長さ1.3mm弱、厚み無く縦に細かい皺が沢山あり、周囲には暗色の翼がある。何れとも全然一致しないではないか!!
其処で、もう一度Internetでタネツケバナを調べてみることにした。すると、アキノタネツケバナ(Cardamine autumnalis)と言う種があることが分かった。秀和システムの「雑草や野草がよーくわかる本」に載っているとのこと。情報は不足しているが、茎は有毛乃至無毛、葉の形はこの写真にソックリ、花期は秋、雄蕊は6本とあるので正にピッタリである。更に、葉腋の枝基部周囲から長い根が多数出るのが大きな特徴らしいので、庭に出て確認したところ、葉腋付近から根が出ている個体が少なからずあった。 しかし、どうもこのタネツケバナと言うのは、環境で外部形態が相当変化するグループらしい。キチンとした文献で種子の形を確認するまでは、アキノタネツケバナと断定するのは止めておくことにする。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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