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テーマ:日々自然観察(10123)
カテゴリ:昆虫(アブ、カ、ハエ)
クリスマスローズの咲き終わった花(萼片)の中に居た。真っ黒で毛むくじゃら、撮影中は有弁類(イエバエ科、ニクバエ科、クロバエ科、ヤドリバエ科等)かと思っていたのだが、データをコムピュータに移して良く見てみると、ハエではない。 触角第3節が分節している。翅脈相もハエとは全く異なる。
ハエやアブ等の短角類では触角は3節からなり、蚊やヌカカ、ケバエ等の糸角類では8節以上、と云うのが双翅目を見分ける時の基本である。しかし、ミズアブ科、アブ科、キアブ科、クサアブ科等では触角第3節が3~8節に分節して、3節よりも多く見える。 これらの触角が分節する科の中で、下の写真の様に、R脈基幹から分かれたRs脈が短く、中室(discal cell:下の写真では反対側の翅の脈が重なって分かり難いが、「Rs」と書いた下にある6角形の室)が小さいのがミズアブ科である。 また、ミズアブ科の多くでは、R1,R2+3、R4+5の各脈も短く、翅端よりはかなり手前で前縁脈に終わる。
さて、ミズアブ科であることは分かったが、それ以上はお先真っ黒である。ミズアブ科と云えば、子供の頃「便所虻」と呼んでいたコウカアブや以前紹介したアメリカミズアブ、或いは、もっと綺麗なところでエゾホソルリミズアブ位しか知らない。何れも、細長い種類で、写真の様な腹の丸まったのは見たこともない。 其処で、ミズアブ科(Stratiomyidae)の写真を探していたところ、何時もお世話になっている双翅目の掲示板「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に「ミズアブ科図鑑」と云うのがあることを知った。今までミズアブ科を調べたことがなかったので、気が付かなかったのである。
このページに拠ると日本産ミズアブ科は73種(九大目録では62種)で、その内の49種の標本写真が載せられている。日本産ミズアブ科全種の約2/3である。こんな有用な図鑑があるのを知らなかったとは、全く我が身の不明を恥じるばかりである。 その図鑑を辿って行くと・・・、あった。腹が丸くて白い毛帯を持つ種類が居た。Pachygasterinae亜科(和名なし)のKolomania albopilosa(和名なし)であった。 目録を調べると、Kolomania属には3種あり、その内本州に産するのはこのK. albopilosaだけだから、この種である可能性が高い。しかし、東京都本土部昆虫目録を見ると、記録がない。些か不安が残るので、「一寸のハエにも五分の大和魂・改」に御伺いを立ててみた。
問い合わせには、東京都本土部昆虫目録で双翅目を担当されているケンセイ氏が対応して下さった。銀色の微毛が腹部に認められるので、Kolomania albopilosaの雄で宜しいとのこと。これで安心して掲載出来る。 氏に拠れば、仕事としての調査では都内で採集しているが、個人としては中々採れないとのこと。調査結果は調査を依頼した組織のものなので、採集しても受注側は記録として公表できず、結果として東京都本土部昆虫目録には載っていないのである(東京都本土部昆虫目録は、同人誌を含む文献に載った昆虫の目録なので、幾ら確実な採集記録があっても、文献として公表されない限り目録に載ることはない)。しかし、ケンセイ氏が個人として採集されていないと云うことは、これは結構珍しい種類と考えて良いであろう。我が家の様な、私鉄の駅から直線距離で200m、商店街から100mの住宅地に、珍しい種類が居たとは、一寸驚きである。
このKolomania albopilosaの生態は良く分からない。ミズアブ科幼虫の多くは腐ったものを餌とするが、双翅目の常として種々の環境に適応しており、この種の食性を特定する情報は全く得られなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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