こんにちは♪womanfilmです。
久しぶりに「女と映画」の視点で映画評を書きたいと思います。
2012年に公開されて、話題となった細田守監督のアニメ作品『おおかみこどもの雨と雪』です。
主人公はお母さんとその子どもたち二人。
今回はお母さんの雪をみていきたいと思います。
このお母さん、このブログで作ったカテゴリに当てはめると
ほぼほぼ「芯のある女」に該当すると思います。
そもそも、好きになった相手が「狼男」だと知ったら、
ふつう、引きますよね?
どん引きですよ。
現実的には、狼男とはトラブルがないように別れてから、
確かに人間と確認できた男とつきあった方がよいでしょう。
(これからは相手がロボットでないか確認してからおつきあいする方がよろしいかもしれませんね。
もし人間ご希望ということならば)
普通の女なら、物語にはならないけれど、特別に芯の強い女性だからこそストーリーになる。
国立大学の学生だった雪さんは、ふとしたことから狼男と知り合い、
恋に落ち、妊娠し、休学し、出産し、翌年も出産し、小さな子どもを抱えた状態で、なんと・・・
夫(未入籍かもしれません)を失ってしまいます。
川に落ちて死んでいるところもみてしまいます。
そこからが、彼女のシングルマザーとしての奮闘ぶりが描かれるわけですが。
ほっんと、このお母さん子どもに怒りません。
穏やかでマイペースで温かくて気丈で。
姉弟が幼児の頃は、兄弟げんかで興奮すると、
オオカミの姿になって部屋じゅうを散らかし放題にしてしまう有様ですが、
おかあさん、「ああ、あめ、ゆき・・」と小声で呼びかけるだけで
ちっとも怒らないし注意もしない。
人様に迷惑をかけることもない人里離れた一軒家に引っ越したせいもあるでしょうが、
度を越してますよ。
その辺にいるお母さんではありません、もはや女神か菩薩か聖母の域です。
そもそも、好きになった相手が狼男でもよい、子どもを作っても
育ててみせる、と度胸のすわった女性であるからこそできる技なのかもしれません。
子どもが風邪を引いても決して小児科や動物病院にも行かず、
ありとあらゆる本を読んで、狼の生態について、育児の合間を見て勉強している。
引っ越しに当たっても、しばらくはなんと貯金だけで暮らしている。
おっとり、ぼんやりしているお母さんに見えて、用意周到であり、しっかりしている。
怒濤の日々を送りながら、パートらしい仕事を始めて、
あっという間に10年が経ち、年子の子どもたちは、小学生の思春期にさしかかっている。
上の子(姉)は、同級生をひっかいて傷つけてしまった事件がきっかけで、
人間として生きることを決意し、
下の子(弟)は、人間として生きるのが辛く不登校になっており、
狼として生きることを選んだ。齢10歳にして。
野生の狼の寿命は一般的に5年程度であるようなので、十分大人の狼になっています。
弟は、嵐が来る日に山に入り、後を追いかけ山に入って崖から落ちて気を失ったお母さんを
助けてから、最後に立派なオオカミになった姿で高い崖から遠吠えを聞かせます。
お母さんとしては、急に手元から子どもが巣立ってしまい途方に暮れます。
「まだあなたになにもしてあげていないのに・・!」と叫びますが、
弟にしてみれば、もう充分育ててくれました。
それは映画でも延々と描写されて、映画を観た人にもそれはひしひしと伝わってきます。
お母さんは、はたと理解します。
一人前のオオカミになったのだと。
そうして、元気でただ生きていてと願うのです。
これ、社会人として巣立った子どもを持つ、
すべての母の思いに共通するものではないでしょうか。
後日、ふとした瞬間に、山の方からオオカミとなった我が子の遠吠を聞いて、
「あ、生きているのだな」とほのかな喜びに包まれる。
お母さん冥利に尽きますって。
一方、姉の方は、ひとりの男子生徒から、オオカミ女であることに理解を得ている。
このまま二人は仲良く成長して、姉もこれから順調に生きていかれるのではないかという安心感を、
映画はエンディングでほのめかしてくれます。
シングルマザーとして奮闘したお母さんの育児は間違っていなかった。
正しかった。ほんとうにご苦労様といいたくなるラストシーンで締めくくられています。
このアニメ映画、純愛と純愛のたまものである子どもたちの成長も描いておきながら、
主題は「シングルマザーの奮闘記」なのではないだろうか。