夏の朝に(37)
不思議そうな顔をしている私を見て、義母は思い出したようにして言った。「あ、忘れてたわ!!私てっきり言ったつもりでいたけど、紅ちゃんにはまだ言ってなかったわね。絵里子ちゃんがね今度結婚するんですって。」「え、本当に!?」私は正直に驚いた。絵里子ちゃんというのは伯父夫婦の長女のことだ。美人で頭もよく、何より気立てが良かった。今は美大の2年生のはずだ。「9月の始めにね、挙式するんですって。」義母はビールでほんのり赤くなった頬をほころばせた。伯父も伯母も同じように嬉しそうな雰囲気だ。「すごい。おめでとうございます。」「ありがとう。今度絵里子もあいさつに来させるから。」伯母は照れくさそうに笑って言った。「でも学生結婚なんてよく許したわね、兄さん。」サラダを取り分けながら言う義母に、伯父は「ああ」と少しため息混じりに言ってから苦笑いの顔になった。「実はもう子供ができてるんだ。」「あら、二重のおめでたじゃないの。」義母は伯父の苦笑いを消し去るように言った。明るい口調だった。私もそれにしたがって頷いた。「いつ生まれるの?」義父がブランデーのグラスを伯父の前に差し出しながら尋ねた。「来年の3月が予定らしいんだ。」伯父はブランデーのグラスを手にとって、少しだけ口に含んだ。グラスが傾くと、中の氷が「カラン」と音をたてる。「温かくなる頃ね。ちょうどいい時期じゃないの。それで、絵里子ちゃんたちは結婚したらどこに住むの?」義母は伯母を見つめて言った。「今はね、相手の人のアパートで同棲してるのよ。でも、子供が生まれるからそれを引き払って新しいところに移るつもりらしいわ。」伯母はすでにビールをやめて麦茶を飲んでいた。酒にはあまり強くないらしく、誰よりも頬が赤い。「相手は市役所に勤めてる人なのよ。だから貯金なんかもいっぱいあって、少しはいいところに住めると思うって言ってたわ。」「あら、年上の人?」「えぇ。確か今年26歳になるとか言ってたわ。」「そう。楽しみね。」義母はそう言ってにっこりと微笑んだ。「えぇ。楽しみよ。」伯母も同じように笑い、2人はまた高校生のように声を立てて笑った。※この話はフィクションです。