人間ではない人間もいる!
今年の流行語大賞は「想定外」で決まる勢いだが、どんな優秀な学者でも、自分の考え以上のものはこの世の中にありえない、と思ってしまうようだ。忍者でも、あれは空想の産物だと、一笑に付す人が多い。実際、スパイダーマンは空想の産物だし、人間放れした男など、いやしない、という声が圧倒的だ。しかしどうもそうではなさそうだ。かつて吉村昭は『破獄』という実録小説を書き、それがテレビにもなって、人々を驚かせた。この男は恐怖の網走刑務所を含め、全国4ヵ所の監獄から脱獄に成功している。来月発売になる『大泥棒』という実録がある。忍びの弥三郎という賊の技を丹念に調べていったのもだが、この賊は死ぬまで「泥棒の行動原理」を大学ノート8冊分にまとめていた。これを元警視庁の幹部が分析して世に出したのだが、驚くなかれ真の闇の中で、2階の窓の庇(わずか40センチの幅!)を8メートルも走って、別の家の2階から侵入していたというのだ。私もかつて警視庁で、スリの元名人を紹介されたことがある。このとき私の上着のポケットから、彼はあっという間に財布を抜きとる妙技を見せた。すれ違いざまに抜くのだが、ポケットのボタンも外してしまうのだ。私はスラれたのが、まったくわからなかった。世の中には、どんなに用心しても、人間業とは思えない技を使う人がいるものだ。そのとき「想定外だった」といっても遅い。