自分をどこまで出すか?
「半沢直樹」が終わった。尻上がりに視聴率を伸ばしたのは、この主人公が作者、池井戸潤自身の投影だったからではないか。池井戸は三菱銀行(現・三菱UFJ銀行)に就職したが、7年間勤めたあと退社している。上司とトラブルがあって辞めたという説があるが、「半沢直樹」でも大和田常務との闘いは、そのトラブルをほうふつさせる。同じ直木賞作家、桜木紫乃の受賞作『ホテルローヤル』も、彼女の実家のラブホテルをモデルにしている。短篇集でありながら、すでに50万部まで達しているが、ラブホテルの内部を生々しく描いているのが、読者をふやしているのだろう。芥川賞でも、西村賢太、田中慎弥の2人が期せずして、自分のどん底生活をテーマにしている。このところ、かっこいい作者や作風が、小説だけでなく、人生論、ビジネス書、自己啓発書などでつづいてきた。生々しい部分やマイナス面は隠して、かっこいいところだけ出す様子は、一流レストラン、料亭のそれに似ていた。たしかに味もいいし、おいしいのだが、毎日それを食べさせられると、食傷気味になる。本も同じで、内容のよさより書き手の人間性が出てこないと、次第にあきられてしまう。多分、就活生も、知識より自分自身の人間性を打ち出さないと、試験委員たちの心を打たないのではあるまいか? どうも近頃は、表面だけ磨く傾向がつづいてきたようだ。私は書き手になるからには、まな板の鯉ではないが、自分の血を流すべきだと思っている。どうもその傾向になりつつあるが、楽しみだ。