傲慢の恐ろしさ
東京都の猪瀬都知事の5000万円問題は、他の悪徳政治家の収賄事件からすると金額は少ない。にもかかわらず、彼をかばおうという人物が現れなかったのは、ひとえに彼の傲慢な人柄による。面白いことに、若い頃1回でも企業に就職した人間には、それほど傲慢なタイプはいない。それというのも、企業は共同作業であり、他人の手を借りないことには、仕事は進まない。だからよほどのワンマンでないと、いばり散らすわけにはいかない。猪瀬直樹は、恐らく1回も、正式に就職したことがなかったのではあるまいか? 若い頃は肉体労働者であり、その後文筆家として成功した一匹狼だった。また肉体労働といっても、小説で直木賞を受賞するのを目的としていたので、単なる労働者ではなかった。このとき、労働者を体験したことで、優しい目が養われていたら、彼の運命も変わっていたろう。ところが逆に狷介孤高、つまり自分を高い位置に置いて、けっして妥協しない性格が身についてしまったのだ。この性格に傲慢さが加わったのは、石原慎太郎から信頼されたからに違いない。石原慎太郎は若くして芥川賞をとり、その後政治家に転進して、大臣まで経験しただけに、まさに傲慢そのものだ。その悪い点を猪瀬は真似してしまったのだ。つまりえせ傲慢であり、今回この5000万円問題で追及されると、見ていられないほどの汗をたらたら流していた。都知事を辞職したからにはもう1度評論家に戻るのだろうが、もうかつての輝きはないだろう。たった5000万円で、すべての栄光と人生を失ってしまった。