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髪を切りたくなったことと、雨がちょうど止んだことが重なって、美容院へ行った。
電話番号を調べるために財布の中からスタンプカードを取りだした。いつも担当してくれている女のコの名前を忘れていて、スタンプに書かれた名前を確認してから電話をしようと思った。 ふと日付の履歴を見た。この美容院に通うようになってから、もうかれこれ2年が経過していた。2年の間に、オレは引越ししたりいくつかの仕事をこなしたり、多くの出会いを経験したりして、変わっていったつもりだった。 担当の女のコもきっと、カットの技術を磨いたり、いくつかの恋をしたり、他の客にいいよられたりして、彼女をとりまく状況は、絶えず変化していただろう。 予約を入れて、2年前とほぼ同じ服を着て、自転車で美容院へ向かった。 待たされることなく鏡の前に座って、「お久しぶりです、今日はどのぐらい切りますか?」といわれて、「イタリア男みたいにしてもらえますか」というと、彼女はケタケタと笑い出した。いつもと同じ笑い方をされて、つい嬉しくなって、鏡ごしに彼女の目を見た。大きくて丸い、全体を包み込むような意志の力を持つ目だ。 「イタリアって、どんなイタリアですか」 鏡ごしにオレの顔を見ながら彼女は笑った顔で言った。 「なんだっけ、トルシエの付き人いるじゃない、通訳だったっけ?あんな感じ?」 「あの人たちイタリアでしたっけ?なんかフランス語しゃべってましたよ、どうせなら付き人じゃなくて、トルシエみたいにしますか!久しぶりにカラーリングしましょうよう」 サッカーの話や映画の話、近所に新しく出来たドラッグストアなどの話をしながら、カットやシャンプーやマッサージをしてもらい、やがてセットが完了した。 「後ろのところ、ちょっとクセっ毛になってるじゃないですか、これ伸ばしましょうよ、そしたらイタリア、でしたっけ?いけますよ、ばっちり」 ああそう、じゃあ伸ばしてみるよ。ということを言いながら会計を済ませた。店の外へ出て2階にある店舗から階段で下りるところまでいつも彼女は見送ってくれる。以前そのことについて、キャバクラみたいで照れくさいからいいよ、とけん制したときも、「えーキャバクラとか行くですか、へー」としげしげとした嬉しそうな顔を向けてくれただけで、最後まで見送るというサービスは以降も続いた。今はもう照れくささは無くなっていて、どちらかというとこのタイミングで、彼女をデートに誘うべきかどうか、ということを考えるようになっている。 2年間、毎回同じ調子で迎えられ、話をし、髪を切ってもらい、見送られる。そろそろこの2人の関係に、変化を加えてもいい頃合じゃないかとオレは今日思った。 髪が伸びて、次に切りたくなるのは何ヶ月後ぐらいだろうか。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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