北京五彩繽紛～Colors of Beijing

研修の仕事を終えてコーヒーを飲んで一息したら、大渋滞の時刻になってしまった。
そんな時刻に国貿交差点を越えて帰宅するほうが気分が滅入りそうなので、
ちょっとお酒には早いながら、しばらく顔を出していなかったバーに行くことにする。

平日の夜、ぽつーんとカウンターにかけていたところ、
これまたしばらく顔を拝んでいなかった、北京生活十年選手のO氏にお目にかかる。
そこで、どういう経緯かは覚えていないけれど、カウンターの内と外でこんな話に。

「日本に帰ってすぐタクシーに乗ったら、
運転手にやたら話しかけないか？」

別に、北京でタクシーの運ちゃんと会話するからその癖が抜けないというのではない。
その場に居合わせた私を含めた3人は、
むしろ北京では運転手に話しかけられない限りあまり会話しないようで、
本来車内で沈黙がちではないかと思われる日本でのほうが、
運転手との会話が止まらないらしい。

前回帰国した日、日本のそばを台風が通過して、
無事着陸できるのか前日から心配だったことがある。
リムジンバスで都内までたどり着き、その晩お世話になる友人宅までタクシーを使う。
路面が雨で濡れていたので、乗ったとたん、私、思わずタクシーの運転手に
「今日、台風大変だったですか？」

その後、私は北京住まいだと明らかにしてしまう。
タクシー乗って行けない場所なんだから、説明したって仕方ないのにね。

そういえば北京に留学して丸1年帰国しないでいて、
ようやく一時帰国したとき乗り込んだタクシーの運転手さんから、
「もうすぐこの仕事を辞めて、マレーシアに移住するんです」
ということまで聞き出したこともあったっけな…。

カウンターの中のSさんも、
「ラジオでナイター中継なんか流れてたら、尋ねちゃうんだよね、
『今どっち勝ってるんですか？』って。
オレ、別に野球ファンでもなんでもないだろ？って自分でも思うんだけどさ」。
そして。
「全く質問されてないのに、
自分から『北京でバーやってる』ってしゃべっちゃってるの。
普通自分で言わないよねえ、そんなの」。

Oさんも、
「たしかに、やたらしゃべってる。あれは、あれは一体何なんだろうねえ？」と
カウンターに肘をつきながら、大きくうなずいている。

なぜだ。


我々は、日本のタクシーの運転手に何を期待しているのだろう？
日本の空港に着くと、ちょっとした興奮状態なのは事実。
ちゃんと日本に着いてるぞという実感が欲しいのだろうか？
はたまた、抜け落ちている自らの空白時間の、日本の情報を補おうと
無意識の意識が働くってことなのか？
それで、手っ取り早く遭遇するタクシーの運転手にからんじゃうんだろうか？
それとも「私、海外から来た日本人なの。
ちょっとヘンなところがあるけれど、海外に住んでる人だから許してね」って、
アピールしたいんだろうか？


海外から日本に戻ると、日本に居続けたら絶対にやりそうもない行動に出ることは、
ままあるものだ。
確かに私も、あれこれ日本を試すって行動にも出たなあ。
六本木ヒルズで、展望台にいるはず中国人の友人に、
誘導係の探索能力を使って伝言してもらったり、
東京メトロのマップを使って、20キロのトランクを輸送できるかチャレンジしたり、
新宿のヨドバシカメラで“銀聯カード”がどの程度使えるか、問い合わせしてもらったり。

SさんとOさんには、自分たちはそこまでやったことないよってびっくりされたけど。
いや、日本って、お願いしたらそこまでやってくれる社会なんだって。
甘えられる日本には甘えておこう。

まあ、それは置いといて。
多分、次の春節（チャイニーズ・ニューイヤー）休みの一時帰国でも
タクシーの運転手に話しかけまくりそうな。
その春節までの残りは1ヶ月を切った。