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カテゴリ:僕的メモ。
《家族になろうよ》 ここは都内の小さなアパートの一室。今現在、僕と彼女は二人きりでここに住んでいる。 二月十四日。彼女と出会って、今日でもうちょうど――否、まだたったの、半年。 だから僕は彼女がチョコをくれるなんて予想していなかった。更に言えば今日がバレンタインデーである事すら忘れていたのだった。 夜八時。 「――はい、これ。チョコチョコだよん」 「ああ? ……そっか、今日はバレンタインか。ありがとう」 僕はそう言うと、彼女の差し出すそれを受け取った。あまり綺麗でない包み方を見ると、どうやらそれは彼女の手作りらしい。 「形は悪いけどねー、味は超最高だよ。さあさ、今すぐ食べてみて」 「今すぐって……遠慮ないね。なんか……家族みたいな」 家族みたい。その言葉に、彼女はぴくりと反応する。 「……やだなあ。もう家族だと思っていいんだって。私、貴方の為なら家事だってやるからさ。だからさあ、私を家族にしてよ」 家族にしてよ、か。僕はその言葉に溜息を吐く。家族に……か。 まだ家族にはなりたくない。そんな風に否定したい気持ちはやまやまだったがしかし、僕らは傍目には殆ど家族のようなものだ。 「私は、貴方の家族になりたい。どうしても、なりたいよ。ねえ、駄目かな?」 彼女は、女性特有の上目遣いで僕に向けて言ってくる。 「家族。駄目かな? 駄目かな?」 嫌な視線。突き刺さるような――嫌味な視線。 「別に……んー、駄目じゃ……なくなくなくも……」 と、声が出なくなる。それと共に、気まずい雰囲気が、部屋全体を支配し始める。 しかし僕は、返事をする事が出来なかった。 彼女とは……まだ家族には、なれないんだ。 「……ごめん、ちょっとコンビニ行ってくるよ」 僕はそう言うと、靴を履いて玄関から飛び出した。 アパートの下に駆け下りて、僕は息を吐いた。あの部屋は息苦しい。 「……バレンタイン、か」 僕は、貰ったチョコを撫でる。正直な話、チョコを貰ったのは人生で初めてだった。 それはいい。チョコを貰うという事は悪くない。家族になろうと女性に迫られるのも。 ――そう。問題は、彼女が四十二歳で僕の義理の母であるという事だ。 父が死んでからもうすぐ一ヶ月。高校生である僕とあの女は彼が残していた遺産を相続した。 しかし、どうやらそれをあの女は狙っているらしかった。そう、あの女は恐らく、遺産の為に行動している。 家族になってしまえば――きっと僕はあの女に、殺されるのだろう。父が残した遺産の為に。 そしてきっとこのチョコにも、何か仕掛けがされているのだろう。恐らくは。 はあ、と僕は溜息を吐いて、そしてポケットから一枚の写真を取り出した。 「……父さん」 貴方は随分とおぞましい物を残していってくれましたね。そんな風に写真に語り掛け、僕は溜息を吐いた。 このままだとその内僕は、あの女を家族として受け入れなければならないのだろう。……ならば。 そうだな、ホワイトデーに返すべきは、お手伝い券。僕が彼女に、料理でも作ってあげよう。 最も、それまで僕が生きていられる可能性は五割を切っているような気もするけれど。 よし、とりあえず明日は高校で、理科室の薬品庫にでも忍び込んでみるか。 《Fin》 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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