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カテゴリ:僕的メモ。
《さよなら気取り》
ショウとの出会いは、数ヶ月前の夜だった。仲間の群れから逸れて、街の隅で泣いていた私。 偶然散歩に出ていたのだという彼は、そんな私を拾ってくれた。 彼は、ついこの前に日本という国からこの国にやってきたのだと、自分の事をそう語った。 私は彼といる時が一番幸せだった。餌に悩む事も寒さに悩む事もなかったから。 彼もまた、私といる時が一番幸せなのだと言った。 ショウは、私が歌うと喜んだ。いい声だね、と何度も微笑んだ。 彼の家族も、喜んだ。こんな風に、鳥が気持ち良く歌えるような地球だったらいいのにね、と、彼らはよく言っていた。 人間なんて、嫌いだった。私達の住むこの世界を汚す、そんな奴らは、大嫌いだった。 人間なんて皆ろくでもない屑なのだと、そんな風に思っていた。 けれど、ショウは違った。私の為に尽くしてくれる彼を見る内、人間というものが判ってきた。 そう、地球を汚しているのは彼らの中のほんの一部なんだってこと。 人間にはショウのような、善良な人も居る――否、そんな人の方が多いんだってこと。 彼と過ごす内に、私は気付いた。私はショウの事が好きなんだ、って。 だけれど、私は思い出す。ずっと彼と一緒に居る事はできないんだ、と。 そう、私は渡り鳥。早く群れに追い付かなくては。 そして、今。 ついに別れの時が来たのだと、何となくそんな気がしてきた。 「だから――お別れだよ」 私は静かに、ショウに言う。その言葉に、彼は悲しそうな表情をした。 私にとっては彼が、彼にとっては私が、唯一の遊び相手だったから。 私達は、お互いの事が大好きだったんだな、なんて今更ながら気付いた。 「ねえ、ショウ。お別れの歌、歌ってあげるよ」 それは以前、私の仲間が教えてくれた歌。 大好きだ、って意味の明るい詩。 愛してる、って意味の静かな唄。 二つの唄を、私は歌った。 一通り歌い終えると、私は静かに頭を下げる。 所詮私は渡り鳥。ずっとここには居られないんだ。だから私は言って飛び立つ。 「――さようなら」 この世界は、私にとっては限りないほどに広い。 貴方は教えてくれたよね。私のちっぽけな声でも、少しはこの大きな地球を変えられるんだって。 だから今日も、飛び続けるよ。そして歌い続けるんだ。誰かの耳にこの声が届く事を願いながら。 ……ねえ、ショウ。また来年、会えたらいいね。私、貴方が好きだよ。 《Fin》 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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