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カテゴリ:小説書くよ!
《ただ広い蒼空の下》 青い空を見ると思い出す。 そう。僕は――空を飛べる。そんな風に言っていた、あの頃の僕を。 自分には翼があるのだと信じていたあの頃の僕は、それでも今の僕よりも強かった。そんな風に思う。 自信を確信に変え、自身を過信して、いつでも周囲を見下して生きてきた、そんな厭な子供だった。 自分は無限の才能を持っていると確信して、いつも一人で考えを巡らせる、そんな厭な子供だった。 そう、あの頃の僕は信じていた。自分には翼があるんだ、自分は空も飛べるんだ、と。 それは世間を知らないが故の過信だったのだろう。だからこその強さだったのだ。歳を取れば誰もが自分の限界に気付く。誰しもそういうもの。 ……だけれども。 僕は――気付くのが遅すぎたんだ。 誰もが中学生辺りで思い当たるべき現実を僕がようやく見つけたのは、高校三年の冬だった。 一体どうしてそれまで勘違いに気付かなかったのか、僕は今となっては不思議でならない。 一体どうしてそこまで思い上がることができたのか、今となっては僕が可哀想でならない。 そう、今も覚えている。それは僕が自分の限界に気付いた日の事。 自分はやればやれる人間だと思い込んでいた僕は、世界の広さに気付いた。 そして、絶望する。 自分は飛べる特別な存在だと信じ込んでいた僕は、自分自身に裏切られた。 そして、切望する。 自分は翼を持つ天使なんだと覚え込んでいた僕は、心から強く希望したのだ。 そして、待望する。 そう――天使が迎えに来る、その時を。 『勉強なんて必要ない。才能があるんだから、何だってできる』 『失敗も勉強の内だと思うよ。今は僕は存分に失敗すべき時だと』 『どんな高校からだって幸せな未来は掴める。才能さえあればね』 ……これは何れも、僕が自分を信じていた頃の言葉。 才能。才能。才能。そんな物――どこにあったと言うのか。 自分を過信しすぎて、そして僕は自分を見失っていたんだ。 ……そして、僕は到着する。 そこは人生の到達点。一本道が果てる場所。 狂った人生のレールが途切れているのは、あるデパートの屋上。 ここから飛ぼう、と僕が決意した場所。 今思えば、これまでの人生は誰かに操られたかのように歩んできた。 不確定要素は一切なく、ただ自分を信じ、成功率は十割だと信じて進んできた。 けれど、今は違う。 今から行われるのはコイントス。死ねるか、死ねないか。五割五割の、予想も出来ない罰ゲーム。 しかし、信じている。 「僕は――空を飛べる」 そう。これは、賭けだ。 自分が飛ぶ勇気もない、死ねない人間なのならば、これから精一杯努力をしてみよう。 自分が飛ぶ事のできる、死ぬべき人間なのならば、これからなんて……ありはしない。 表が出るか、裏が出るか。死ぬか、足掻くか。 天使が笑むか、悪魔が笑うか。飛ぶか、生きるか。 僕は、やれる。 《Fin》 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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