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こころ模様

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yai 1974

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2006/08/15
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カテゴリ:仕事
 夜勤に行くと、彼は頑張っておられた。

 彼は先月歩いて入院してこられたのだけど、日に日に状態が悪くなっていかれた。
主治医が病状説明をした時に同席をしたのだけど、息子さんがはっきりと「納得がいかない」とおっしゃったのを覚えている。歩いて入院できた父親がどんどん悪くなる。そして、まだ笑ったりしゃべったりできるのに、危険な状態だと告げられる。信じられないと思う。「絶対に歩いて帰る予定ですから。」と言いながら「人工呼吸器はいりません。」とよどみなく何回もおっしゃった。
 その日が山だったのだけど、なんとか持ちこたえられ、悪いなりにも安定された日々を過ごされた。

 ある日、おろおろした奥さんに「すみません、孫が天井に折り紙をはってしまって・・・すみません。」と声をかけられた。訪室したら、天井に色とりどりのハートや星の形の折り紙が貼られていた。彼は、もう自力で起き上がれなくなっておられ、天井ばかりながめて過ごしておられる上、何か見えるらしく、しきりと手で払ったりされるらしい。それを見たお孫さんが工夫をこらして貼られたらしい。彼に「見えますか?」って聞いたら笑顔で頷かれた。このお孫さんは、彼の大のお気に入りで、東京での仕事を調整してはお見舞いにこられていた。なんて素敵なアイデアだろうと思った。

 10日ほど前に、心拍がそれまでの半分の40~50台、血圧も70台、酸素の指標も著明におちられ、おしっこがでなくなり、意識もなくなられた。ご家族も覚悟された様子で、息子さんも「先生にはいつですか?今日ですか?って聞けないんですが、今日くらいかなと思っています。でも明日、東京から来る孫に会わせてやりたい。それまでは・・・」とおっしゃった。
 一晩、「明日の夕方にはOOが来るから頑張れ」と、励まし続けられた結果、お孫さんが来られるまで持ちこたえられた。その上、お孫さんがこられてから、心拍数が70台、血圧も100台、酸素の指標も改善した上おしっこもでるようになった。ご家族もスタッフも皆びっくり。お孫さんのパワーだと皆が口を揃えた。それから再び、悪いなりに落ち着いた状態を続けてこられた。

 夜勤前、詰め所で情報収集をしていると、息子さんに「今晩泊まったほうがいいかなぁ?」と聞かれた。それくらい落ち着いていた。今着たばかりであまり状態がわからないと前置きした上で、その方がいいと伝えた30分後、彼は息を引き取られた。私の夜勤に交代する直前10~20分の間の出来事だった。
 
 意識が改善される事はなかったけど、ご家族に囲まれて過ごされた数日間だった。
病室には空気がある。患者さんを中心に人工呼吸器と機械しかない部屋は、冷たく硬く感じる。ご家族がおられても、座って眺めておられるだけで、人工呼吸器の音しかしないお部屋も、寒かったし、狭い病室のはずなのに遠い距離感を感じる事すらあった。
 彼の病室には笑顔があったし、常に人の声があった。部屋に入ると、冗談を言われたりして、笑い声があがった。深刻な状況なのに、とてもとても温かい、明るいお部屋だった。最期も「笑って送ってやろうと思っています。」とおっしゃっていた。彼のお部屋では、ご家族の支える力の大きさをとてもとても感じた。
 私は実際には無宗教状態だし、霊魂って言われてもよくわからない。でも、人の思いは強いと感じるし、外見上の意識がなくなっても、耳は聞こえているという説を信じている。空気もきっと感じているだろうし、物質的な目ではないにしろ、見えているのかもしれないと思う。

 お亡くなりになった15日は、第二次世界大戦の終戦の日。戦時中、彼は特攻隊に入隊しておられたけど、出撃する事はなかったらしい。でも何人も見送ったとおっしゃっていた。うつらうつらとした意識の中で、何を見て手を払っておられたのだろう? 折り紙が貼られてから、その動作はなくなったみたいだけど・・・ 

 おつかれさまでした。もうゆっくり休んでください。
ありがとうございました。





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Last updated  2006/08/17 12:57:24 PM
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