町工場の技術の結集 「江戸っ子1号」
11月22日に深海探査機「江戸っ子1号」を乗せた船が房総沖に向けて出発し、24日には深海魚の映像と共に無事に帰還しました。江戸っ子1号プロジェクトの中心人物が、東京都葛飾区でゴム製品の開発・製造を行う杉野ゴム化学工業所(従業員5名)の社長・杉野行雄さんです。杉野さんをはじめ、5社の町工場の熱意と技術の結集が「江戸っ子1号」なのです。この「江戸っ子1号」完成までの道程がとても感動的です。2008年に起きたリーマンショックの影響を受け、杉野さんの周囲では不況で潰れたり廃業する工場が続出しました。このままでは町工場の優れた技術が継承されなくなると懸念を持ちました。そして、これからは下請ではなく自分たちの力で開発していかなければ・・・と考えていました。そんな時、東大阪の町工場が宇宙ロケット「まいど1号」打ち上げ成功のニュースに触発され、大阪が宇宙なら東京は海だ!と思ったそうです。それまでに、深海探査機開発の素案はできていたそうですが、このニュースが追い風となり地元の信用金庫に相談しました。その話を聞くと信用金庫も興味を持ち、様々な企業に呼びかけ16社が集まりました。集会の席で、開発費が2億円ほどかかると話をすると皆離脱し、杉野ゴム化学工業所と浜野製作所の2社が残っただけとなりました。そんな時に、レーシングカー関連部品を製造していたパール工業が業績不振になり、社員の士気を高めるため、プロジェクトに参加し、心強い味方となりました。深海の高い気圧に耐えるにはチタンだと杉野さんは考えていましたが、チタン製となると本体の材料費だけで、3,000万円程かかるのです。どうにか費用を抑えることができないかと思案していたところ、海洋研究開発機構の方が「ガラスは水圧に強い。」ということを教えてくれました。当時、深海の気圧に耐えられるガラスは、アメリカとドイツ製だけでした。杉野さんは、日本製でガラス球を作りたいと岡本硝子に相談したところ、技術開発により、12mm という薄さで水圧に耐えるガラスを開発してくれました。探査機本体をガラスにすることで、材料費が3,000万円 から 30万円、まさに100分の1に抑えることができたのです。2億円かかると言われていた開発・材料費も2,000万円に抑えることができました。そこに、LED機器のツクモ工業が参加し、5社の町工場の技術力が結集しました。さらに大学や研究機関が参加し、江戸っ子1号は完成したのです。この話を聴き、町工場の技術力の高さ、目標に向かい困難にも負けず努力を続ける尊さ、夢を追う素晴らしさを感じました。これをきっかけに、町工場は技術力に自信を持ち、下請けからの脱却を願っていると杉野さんは言います。同じ葛飾区に住む一人として、杉野さんは本当に葛飾区の誇りだと思います。このプロジェクトの技術力が様々な分野に広がっていくことを心から願っています。たくさんの感動をありがとうございました。● 江戸っ子1号のホームページ● 江戸っ子1号の成功を伝えるニュース映像(FNN)