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今日、初めての映画体験をした。
六本木のTOHOシネマズで上映中の『監督失格』という映画を観に行った。 АV監督の平野勝之が手がけた、2005年に急逝したАV女優 林由美香との約15年にわたる「関わり」を撮影したドキュメンタリー映画。 監督の平野勝之と林由美香はいわゆる「不倫」の関係で、 平野は妻がいるにもかかわらず、自身の企画のため、林由美香と二人きりで北海道へ自転車旅行に出かけ、『由美香』という映画を作製。 平野は常に手持ちカメラを常備しており、事あるごとにカメラを回していて、映画「監督失格」は10年前に撮影されたその北海道旅行の行程を映しながら進行していく。 林由美香という人はとても特殊な人だったらしく、映画評論家の町山智浩さんは彼女のことを「ミューズ」だったと言っていた。 ミューズとはギリシャ・ローマ神話の芸術の女神を指し、また、表現者の創作意欲を刺激する女性をそう呼ぶのだとか。 林由美香という人は、なるほど、劇中で見る限りでも、平野勝之やカンパニー松尾と言ったAV監督が彼女の虜となり、作品を作り上げている。 200本を越す作品に出演している彼女の魅力は業界の枠を超え、様々な表現者に大きな影響を与えているらしい。 観劇前にその情報を聞きつけていた自分は「さぞや立派な女性に違いあるまい!」と思っていたのだけれど、 しかし、映画の中の林由美香は「ミューズ(女神)」という荘厳な名称とは裏腹に、怒り、泣き、酒に酔ってベロベロになり、恋人の行動に嫉妬する、実に人間らしい、愛らしい人だった。 まあ、怒って嫉妬して酒に酔うのはある意味ギリシャ・ローマの神々っぽくもあるけど。 方や、妻がいるにも拘らず不倫旅行に出かけるふしだらな男、平野勝之と言えば……、 これまた、華奢で眼鏡で頼りの無さそうな、どうみても冴えない感じの男。 そんな人間くさい二人の、北海道旅行からその後の関係を余すところ無く映し出した映画がこの『監督失格』という映画だ。 私はこの映画を観ながら、たびたび笑った。 人が誰かのことを好きになるというのは、こんなにも滑稽なことなんだなあ。 人が生きていくというのは、こんなにも滑稽なものなんだなあ。 愛する人にのめり込む、怒りっぽいくせにすぐ謝る駄目な男。 人生を悟った風でいて、けれど泣き虫で、年下に翻弄されている女。 絶望にうちひしがれる林由美香の母親の横で、お腹が減ったのか何なのか、無邪気にじゃれつく小さな犬。 この廊下のシーンは、この映画を表すような、悲しく可笑しい、実に滑稽なシーンだった。 やがて矢野顕子さんの「しあわせなバカタレ」という主題歌が流れる中、この映画は幕を閉じる。 劇場が明るくなった瞬間、自分は初めての体験をした。 急に背中が熱くなったと思ったら、体中から汗が噴出した。 ボロボロと涙を流していて、いつのまにか溢れていた鼻水とあわさって、自分の顔がグチャグチャになっていることに気が付いた。 確かに劇中で自分は何度か泣いていたし、やけに鼻水が出るなあとは思っていたのだけれど、 よもやこんなに顔中がべっちゃべちゃになったことは今までに無い。 普段はエンドロールが終わると同時に席を離れているのだけれど、 この時ばかりはまったく立ち上がる気になれず、しばらく呆然としてしまった。 明るい劇場で、劇場から出ようとしている幾人もの観客が「ギョ」っとした顔で自分を見ていたけれど、どうすることもできなかった。 誰もいなくなってから、ようやく立ち上がって、すぐにトイレに駆け込み、顔を洗った。 どうして私はこんな風になってしまったのか。 頭を捻ってみてもイマイチ答えは出ないのだけれど、 人間が生きるというのは実に滑稽で、そして悲しく、愛らしいことなんだというのが、 私の中の何かに強く響いたのだと思う。 この映画の為に書き下ろしたという矢野顕子さんの「しあわせなバカタレ」というフレーズが、 いったい誰がバカタレ何だろう? バカタレっていうのは何なんだろう? ぐるぐるっと頭の中で回って、結局「バカタレなの俺かな」という結論に落ち着かせた。 自分を含めた人間が、愛すべき、しあわせなバカタレなのだ。 映画を観たあとに歌を作るというと、『レスラー』の時のブルース・スプリングスティーンを思い出す。 映画の中のランディもまた、幸せなバカタレだったなあ。 この『監督失格』という映画は、現在は六本木ヒルズのTOHOシネマズのみの上映だけれど、 10/1から全国拡大ロードショーされるそうで。 絶対に、映画館で観た方が良い映画だと思う。 家庭のテレビで観るようなものじゃ、たぶんないんじゃないかなあ。 私の人生で、大切な映画の1本になった。 次にまた観たいかと言われると……しばらくは観ることが出来そうもないかな。 野間 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2011年09月12日 21時37分32秒
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