●画像●富士日記に想う
富士日記 武田百合子著夫の武田泰淳との山での生活を綴った13年間の記録。日記の舞台はこの近くの別荘地、昭和40年代。ご近所のIさんはこの富士日記が好きで富士山の麓の別荘地を買われたそうだ。早速楽天で取り寄せて読んでみた。単調なように見えて百合子さんの率直な飾らない性格にだんだんと引き込まれてしまう。本栖湖や山中湖で泳ぎ、庭に木を植え、草をむしり、富士宮の方まで車を飛ばして機織りを習いに行き、実にアクティブ、行動半径が広い。そして富士の麓で暮らす日々を泰淳とともにすごく楽しみに、大切に思っているのがわかる。平凡な日々の暮らしの中で愛犬が死んだり、車が壊れたり、根場集落の土砂崩れのニュースが流れたり、泰淳さんが病気に倒れたりする。本の最後の方で 年々体が弱っていく人のそばで、沢山食べ、沢山しゃべり、 大きな声で笑い、庭を駆け上がり、駈け下り、気分の照り降りを そのままに暮らしていた丈夫な私は、なんて鈍感な粗野な女だったろう。と百合子さんは書いている。そういう勢いのあるそのまんまの百合子さんに周りの人達は元気づけられたに違いないのだ。いよいよ山荘を後にする時、二人で暮らした夏を何度も振り返り振り返り東京に帰ってくる。それから程なく泰淳さんは亡くなっている。つれあいとふたりで武田山荘を探してみた。もう今は更地になっている。見つけた嬉しさより、うっそうと木々が茂って荒れた場所に時の流れと人の生き死の儚さを目の前につきつけられたように感じてしょんぼりと肩を落としてしまった。