タクシーのおじさんたち
今日は昼過ぎ、うまく職場を抜け出して、近くの公園でゆっくり。そこでタクシーがたくさん駐車場に並んでいた。公園内ではチョックー(韓国式サッカーテニスとでも言おうか)をやっているおじさんの集団が。見た感じ40代、50代の人ばかりだったが、強烈に声はでかい。体格のいい人も多く、普通の日本人だったら、そのおじさんたちがタクシーの運転手であることは簡単には気がつかないだろう。韓国ではタクシーがたくさん止まっている横でチョックーをやっているのを見かけることもたびたびある。その姿を見ながら、いろんなことを考えていた。私はタクシーに関して差別とか偏見を持っているわけではないと一言断っておくが(知り合いにもタクシーの運転手がいるので)、在韓日本人の間で評判が悪いものの中の一つにタクシーがある。いつふっかけてくるか分からない、運転はかなり荒い(その代わり早く着くが)、人にもよるが超無愛想、その逆に客に堂々と不満をぶつぶつ、近距離客の乗車拒否、仮に拒否しなくても露骨に態度で「こんな近くに行きやがって」みたいなのを表す、自分の行きたくない方向でも拒否、ただしこの場合は拒否も一理あるが、だったらそこまで無愛想に、声を張り上げて拒否しなくてもいいじゃないか・・・・。私はいつも韓国でタクシーに乗るたびに用心をする。それに比べれば、日本のタクシーは気楽だ。だまされる心配なんかほとんどない。無愛想な運転手もいるが、韓国よりはましだろう。ただタクシーに関しては、世界的にあまりいいものではないようで、ヤンキースの松井はニューヨークのタクシー(一般の車も含めて)をよく言わないし、サッカーの中田英もイタリアのタクシーの運転はひどいと言っていた。特に韓国がひどいのかどうかは、私には分からない。韓国にいると日本よりタクシーの数が多いと感じられる。私も運転をするが、ただでさえ荒い韓国の運転の中で、かなり荒い運転をするタクシーには辟易させられることも多い。しかもその数が多いので、もうどうしようもない。だがタクシーの運転手をやっている人たちには様々な人生模様があるそうである。韓国では職業差別意識が強い中、学歴のない人、こねがない人はまともな職業につくことは難しい。一部の人を除いて、いい職業はあきらめるしかないのだが、そうなると3つのパターンがある。1.自分で商売、事業をする。2.工場、土方等の肉体労働をする。でも人に頭を下げなければいけない商売は嫌だ、或いは肉体労働は恥ずかしくて嫌だと思うプライドの強い人も多い。韓国人は自ら自尊心と言うが、正直度のすぎるプライドにしか見えない人も多い。そうなると残るのは3.タクシーの運転手しかない。タクシーの場合、客に頭を下げることはない。下げる人もいないことはないが。運転中は会社のような人間関係のわずわらしさもない。多少サボっても自分の稼ぎが減るだけでお咎めはないらしい。韓国の場合稼ぎが問題ではあるが、ある面ではやりやすいのがタクシーの運転手なのかもしれない。私の家内の親族の中に数人タクシーの運転手がいる。一人の親族の中に数人もいるというのもなんとも言えない。他の家族もそうなのだろうか。彼らを見ていて、タクシーの運転手の実情を悟らされた面がある。その数人の共通点。威張る、偉そうにする、私にも(私以外にもそうだが、日本人である私は悪口を言う格好のえじきなのか、かなりひどい)超デカイ態度・・・。酒飲んだ勢いで日本の悪口を私に言い始めたのもいた。こいつは私のほっぺたにキスまでしてきた。気持ち悪くてたまらなかった。ちなみに若いころはレスリングの選手だったらしい。また他のはしらふでも私に日本のことを皮肉ったような言い方したのもいた。彼らは人前で大口をたたきたがるプライドの強いタイプだからタクシーの運転手になったのか、或いはタクシーの運転手しかできない自分へのジレンマが、人への高圧的な態度につながるのかといろいろ考えさせてくれた。仕事に満足していないのは予想できるが。彼らは皆プライドが強い。知識は大してないと思うのだが、言うことは大統領並。確かに韓国のタクシーに乗ると、ぺらぺら話始める運転手もよくいる。無愛想なのよりはいいのかもしれないが、人によってはあまりにも偉そうにして度がすぎる場合も。まあタクシーの運転手のすべてがこんな人だとは言わないが。タクシーの運転手の不親切さが話題になった時、ある人が言っていたが、「タクシーで食べていけるだけの儲けがあれば、いくらでもお客さんに親切にしてあげる。でもこんなに生活が苦しいのに親切にする余裕なんてない。」実際タクシーの運転手は今韓国では飽和状態で、食べていくだけの儲けを手に入れられない人もかなり多いそうである。ただ比較的遠距離タクシーに乗る場合、彼らは親切になるような気もする。私は日本に行く時、また韓国に戻る時、KTXの駅までタクシーに乗るが、このときは運転手もなんかいい感じである。ちなみに家から駅までは10キロぐらい離れているだろうか。2,3キロしか乗らない時よりは明らかに態度が違うような気がする。あっ、思い出した。昔日本に短期で帰った時、空港まで100キロほど車で行こうとしたら、高速道路で車が故障した。飛行機の時間もあるので、仕方なく車は業者に任せ、タクシーに乗った。その距離50キロぐらいだったと思う。その時のタクシーの運転手は実に親切だったのをを覚えている。笑顔を振りまいていた。確か7万ウォンぐらいかかったと思うが。その時は飛行機が心配で、運転手のそんな態度を大して考えもしなかったが。だがこれだけ乗っても7万ウォン程度なのである。基本料金は1500ウォン。4,5キロ乗ってやっと5,6千ウォン。料金が安いのはありがたいが、これがタクシー業界の構造的不況をもたらしているのだろうか。確かに運転手からしたら、ちょっとしか乗られないと、儲けにもならないかもしれない。ちなみに韓国のタクシーの運転手の給料は、稼ぎの何%となっており、定額ではない。日本ではどうなのか。そう言えば、かなり昔の話だが、東京で早朝4人で2キロぐらいタクシーに乗ったら、運転手が料金なんか要らないと怒ってしまった。日本でもそんな人はいないことはない。ただ先日日本の実家で、2,3キロの短距離でも、実に親切に話してきた運転手もいた。「おたくさん、どちらからいらっしゃんたんですか」「あっ、私は地元の人間です。今は住んではいませんけど」「へえ、どちらですか。」「あのお、実は海外なんです。と言っても韓国なんですけど。」「ほお韓国。ぺらぺらぺらぺら・・・・・・・。」いつも韓国のタクシーになれている私には、信じられない親切さだった。あまりにも温かく迎えてくれるので、何かたくらんでいるのかと疑ってしまった。話を元にもどす。もちろん、韓国の全てのタクシーの運転手がそうでないことは分かっている。実際親切な運転手も結構いる。10年間運転手をやれば(私の記憶では無事故で)、個人タクシーの資格が与えられ、そうなると稼ぎもよくなるらしい。彼らの実情も分からないでもない。今日チョックーをしていた人たちも、厳しいタクシー業界の中で、息抜きをしていたのだろうか。だがあんなに声を張り上げてチョックーをしている姿を見ると、そのタクシーには乗りたくないなとふと思ってしまった。そう言えば、以前日本で中国人のタクシーの運転手にあったことがある。日本語がぺらぺらだったが(20年住んでいるそうで)、タクシーの中にタバコのにおいが染み付いていた。彼は実に明るく、陽気だった。日本で働けるのがうれしいのであんなに陽気だったのだろうか。それとも中国人の性格なのだろうか。韓国では(日本でもそう多くはないが)中々お目にかかれない、親しみのある運転手であった。