2476837 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Pastime Paradise

Pastime Paradise

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
X
2012.08.29
XML
カテゴリ:Heavenly Rock Town
無造作に肩まで伸びている黒髪を軽やかに風に靡かせて端然と歩きながら、ルーファスは私の身に何が起こり、どうして今ここに居るのかを掻い摘んで説明してくれた。
 やはり私と彼はあの眉月の夜、交通事故で死んでいた。死後、人は肉体を離れて霊となるが霊界で再び人間の形態に戻るといい、今の私がそうであるらしい。そして各々の出自等に沿って霊界での住処が天により決定されるとのことだが…。
「一般的には既に亡くなられた身内や友人といった近しい方々が暮らす町で、ということになりますが、時には出自より願望が優先される場合もあります。貴方達もそうです、キオ」
 ルーファスは硝子のように透明な、淡く優しい水浅葱色の澄んだ瞳をちらりと私に向けたが、建ち並ぶ建物の隙間から差し込んだ陽光の眩しさにすぐさま目を細めた。
「貴方達って私とみっちゃんのこと?私達の願望…?」
「その問の答えも含め、今後のことについては私のオフィスでゆっくり話しましょう。この先の通りにありますから」
 仄暗い石畳の道を抜けて大通りに出ると、そこには地上と何ら変わりのない、欧州あたりに行けば至る所で目にするような日常的光景が広がっていた。少し寂れた小粋なオープンカフェでは若い男女が仲睦まじく語らい、その前をギターケースを抱えた男性とその友人らしき数人の男性達が大声で何事かを討論しながら通り過ぎて行く。ショーウィンドウの華やかなディスプレイに人々は足を止めて見入り、そんな彼等を見下ろすように街路樹がそよそよと心地よさそうに風に吹かれてさざめいている。本当にこれが死後の世界?
「何か気が付きましたか?」
「この世もあの世も全く変わらないように見えますけど…」
「そうですか?よく見てください。これだけ人がいるのに老人や子供が一人もいないでしょう、それに動物や昆虫も。地上と霊界は一見すると同じように見えますが、やはり別世界なのです」

 明るい場所がどうも苦手で――。そう言ってルーファスが案内してくれた彼のオフィスは、通りに面した建物の中でも一際目を引く壮麗なビルの地下にあった。相当に広大で豪奢な造りの部屋であるにもかかわらず、室内には木製の質素な書斎机と革張り椅子、そして来客用と思われるトラディショナルソファのセットが置かれているだけだった。
「オフィスといってもここで私が働いているわけではないので、隠れ家とでもいうべきなのかもしれませんが、まぁそれはどうでもよいことです。どうぞお掛けください」
 私は勧められるままにソファに腰を下ろすと、すぐさまルーファスに先程の話の続きを聞かせて欲しいと頼んだ。
「分かりました。私はあの日、天から貴方達3名を霊界に誘導するようにとの指示を受けたので、各々の親族が暮らす町へと導くつもりで地上に向かい、暫し貴方達の天命が尽きる様子を空から窺っていたのです。すると貴方達は群雄割拠の時代に連れていってほしい、憧れの人が大勢いる世界に行きたいとの願望を口にしました。この憧れの人というのは、既にこちらの住人になっているミュージシャンのことだとか。天は戯れがお好きですので、ならばここは一つ貴方達の望みを聞き届けてやろうではないかということになりまして――」
「なッ…何で!? あれはみっちゃんに合わせて適当に答えただけだったのに。じゃあみっちゃんは本当に戦国時代に行っちゃったの?」
 思わず身を乗り出してルーファスの顔をまじまじと見た。
「いえ、時間移動は出来ません。それに死者は必ず霊界へ誘導するよう定められてますので、倉橋氏もこちらの世界にお連れしています」
「…そうなの…」
「貴方と青蓮寺氏――衝突相手の方です――は事故後すぐに。倉橋氏の方は貴方達より数時間後にお連れしました」
 そうか、みっちゃんは即死じゃなかったんだ。苦しんだのかな、可哀想に…。私達の未来を一瞬で奪った青蓮寺とかいう対向車の運転手を初めて憎いと思ったが、今となっては憎んだり恨んだりしたところでもうどうしようもなかった。
「みっちゃんは…倉橋君はどこにいるの?もう二度と逢えないの?」
「倉橋充聡氏は彼の生前の望みどおり、【Eastern Fighting Land】とこちらでは呼んでいる、仏教で六道の一つとされている修羅道から派生した地にいます。人を殺めたサムライ達が未だに戦闘を繰り返している危険な地なのですが、倉橋氏はそこが存外お気に召したようでした。ただ人を殺めた罪は重く、彼自身がいくら潔白の身であろうとも重罪人の寄せ集めである【Eastern Fighting Land】の住人というだけで様々な制約が設けられているため、倉橋氏の方から貴方に会いに来ることは出来ません。また、こちらから会いに行くことは不可能ではありませんが、あの地は女人の出入りに大変厳しい制限がありますので、彼に会うことはかなり難しいでしょう」





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2023.06.20 02:56:01
コメント(0) | コメントを書く
[Heavenly Rock Town] カテゴリの最新記事


PR

Free Space

Recent Posts

Category

Keyword Search

▼キーワード検索

Headline News


© Rakuten Group, Inc.
X