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2012.08.31
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カテゴリ:Heavenly Rock Town
みっちゃんとは余程のことがない限り、もう二度と会えない――。倉橋充聡との思いも寄らない唐突な愛別離苦の悲しみで、再びあの暗闇の世界を彷徨している時のような空虚な孤独感に襲われた私の顔は微かに歪んだ。
「突然の死の衝撃で貴方は醒覚するまでにかなりの時間を要したため、私は倉橋氏を先に【Eastern Fighting Land】へと誘導しました。“東の戦闘島” は地獄の東部にぽっかりと浮かぶ、その名のとおり極東の男達が戦闘を繰り返しながら暮らしている永遠の戦場です」
 正面のソファに座る私を後目に見るよう革張り椅子を斜めに向け、足を組んで深々と腰掛けて静かに語るルーファスの口から出た永遠の戦場という言葉に、私は慄然とした。
「“Heavenly” と名の付く程に穏やかなこの町とは全く異なり、あそこは大罪を犯した人間が行き着く場所に相応しい、身も心も斬り苛まれる苛烈な町です。無論、倉橋氏には今貴方に申し上げたことなどを重々説明しましたが、彼は全てを了承した上で喜んで永遠の戦場の住人になりました。なかなか見掛けによらず豪胆な青年ですね。倉橋氏は別れ際、必ず貴方に頑張れと伝えてほしいと笑いながら言っていました」
 嗚呼…、おそらく能天気な彼は自分が「戦国無双」や「風雲 新撰組」といったゲームのキャラクターにでもなったつもりなのだろう。とはいえ彼が自分で判断して戦場での暮らしを受け入れたのならば、私も彼の、倉橋君の無事を祈りながら一人寂しくこの町で第二の人生を歩んでいこうと心に決めた。

 重厚な扉を厳かにノックする音が4回響き、ルーファスに促されて一人の女性が部屋に入って来た。見るからに高価そうなコーヒーセットを銀盆に載せて運ぶその女性の顔にどこか見覚えのあるような気がしたが、白人女性の顔なんて誰も似たようなものだろうと大して気に止めず、彼女がコーヒーを注ぐ様子をぼんやりと眺めていた。
「もう暫くしたらリッキーにここへ来るよう伝えて下さい」
 胸まで伸びたくしゃくしゃの髪が目を惹くこの女性にルーファスがそう伝えると、彼女は少し掠れた声で畏まりましたと答えた。
 耳からは “Certainly” という聞き慣れた英単語が入ってきたにも拘らず、やはり瞬時に脳内変換されて伝わることが少し可笑しかった。もし日本人と日本語で会話したらどうなるのだろう?立ち去る彼女の後姿を見るともなく目で追いながら、そんなことを考えた。
「この町は40年程前に出来た新しい町で、彼女はちょうどその頃ここに来ました。【Heavenly Rock Town】に最も相応しい住人の一人と言えるでしょう」
「…じゃあさっきの女性は1970年頃に亡くなったんですか?」
「ええ、ドラッグでね。この世界では皆、年を取りません。彼女は貴方と同様に若くして地上を去りました」
 彼女が淹れてくれたコーヒーは、ほろ苦さと甘さが絶妙に調和していて美味しかった。
「元々この町は、酒やドラッグに溺れて死んだ者達を隔離して収容するために作られました。夜な夜な騒いで迷惑だとの苦情が多数寄せられたからです。ところが集めてみると、圧倒的にロックミュージシャンと呼ばれる人が多かった。それならば最初からこの世界に来たロックミュージシャンは全員ここに住まわそうということになり、町の名もいつしか【Heavenly Rock Town】と呼ばれるようになりました」

 それにしても私の目の前にいる、このルーファスという謎の発光青年は一体何者なのだろう?神の使い?若しくは…何?
 正体を知りたいと思いつつも、直接ルーファスに尋ねる勇気は無かった。取り敢えず人間でないことだけは確実なのだから――。

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