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2012.09.14
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カテゴリ:Heavenly Rock Town
部屋に招き入れられたリッキーという男性の方におずおずと目を遣った私は、我が目を疑わずにはいられなかった。
 大の洋楽好きであった両親の影響を多大に受け、子供の時分から国内アイドルには目もくれず洋楽ばかりを聴いて育ち、母が若かりし頃に録り溜めしていた当時の洋楽番組――MTVやベストヒットUSAなどのビデオテープをいつも一緒に鑑賞していたせいもあって、やや幼さを残した端正な顔に僅かな含羞の色を浮かべて微笑みながら目の前に立つこの男性が誰であるのか、私は瞬時に分かってしまった。
「Hi, I'm Ricky Wilson. Nice to meet you.」
 耳に入って来た彼の柔和な声は、1983年にリリースされた『Song for a Future Generation』の中での短い自己紹介パート、“Hi, my name is Ricky and I'm a Pisces. I love computers and hot tamales.” というフレーズを思い起こさせた。 あれから20数年経っているというのに、少しも変わっていない。というより、声も話し方も全く同じだった。
 この男性は紛れもなく1985年、日本で初めてAIDS患者が確認されたのと同じ年に早くも32歳の若さでAIDSにより他界したThe B-52'sのギタリスト、リッキー・ウィルソン(Ricky Wilson)その人であった。二枚目好きな母はドラムスのキース・ストリックランド(Keith Strickland)がお気に入りだったが、私は可愛らしい顔立ちをしているリッキーに憧れていた。
 母の古ぼけたVHSテープにほんの少しだけ録画されている何本かのMV、昔の音楽雑誌、そしてPCにアップロードされている動画や写真などでしか見ることの出来なかった憧れのリッキーが今、ここにいる。私が生まれる2年前には既に世を去っていて、実際にこの目で見ることなど永遠に不可能だと、どう足掻いても叶うはずのない夢だと諦めていたリッキーが今ここに、目の前にいる。嗚呼、これは夢?それとも幻?どっちでもいいけどお願い、覚めないで!
 みっちゃんや両親には悪いけど、ひょっとすると死んでよかったかもしれない――。
「は…初めまして。高崎樹央です…」
 慌てて立ち上がり、極度の緊張から消え入るようなか細い声で挨拶した私に、リッキーはにっこり笑って右手を差し出してきた。恐る恐る握ったリッキーの右手は温かく、思っていた以上に大きくて柔らかで、普通の生身の人間の手の感触と何一つ変わらなかった。 

ricky80.jpg  ricky28.jpg  ricky96.jpg

「この町には何人もの世話役がいますが、キオには君が最適です。また頼むよ、リッキー」
「OK、ルーファス。彼女のことは俺が責任を持ってサポートするするから大丈夫」
 ルーファスの幾分砕けた調子の物言いを意外に感じつつ、二人がどういう間柄なのか少しだけ気になった。それにしても出逢えただけで奇跡とも言えるリッキーが、責任を持ってサポートしてくれるだなんて、死んでもいいくらいに嬉しかった。いや、もう死んでるんだっけ。
 ルーファスは革張り椅子に、リッキーと私は並んでソファに腰を下ろした。そこへリッキーのコーヒーを持って、再びあの白人女性が入って来た。
「有難う、何度も悪いねジャニス」
 コーヒーを注いですぐさま立ち去ろうとしている女性に、リッキーが労いの言葉を掛けた。
 ん?ジャニス?もしや40年程前にドラッグで死んだというこの女性、かの有名なジャニス・ジョプリン(Janis Joplin)では!? 60年代の洋楽はビートルズ(The Beatles)くらいしか聴かないが、ジャニス・ジョプリンの名前は知っているし、写真も見たことがある。道理でどこかで見覚えのある顔だ、と一人で納得しながら、またしても私は彼女の後姿をただぼんやりと見送っただけだった。





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Last updated  2023.06.20 03:12:54
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