カテゴリ:Heavenly Rock Town
「貴方は今からリッキー・ウィルソンを世話役としてこの【Heavenly Rock Town】で生活していくことになりますが、異存はありませんか?」
ルーファスは明澄な水浅葱色の瞳で私の顔をじっと見据え、最後の意思確認をしてきた。相手の顔をじっと見詰めるのが彼の癖なのかもしれない。 今日から一人、右も左も分からぬこの町で暮らしていく…。倉橋君の無事を祈りながら一人寂しくここでで第二の人生を歩んでいこうと、つい先程決心はしたもののやはり心細く、怖かった。どうしてこんなことになってしまったのだろう?この先、私はどうなってしまうのだろう?そもそも死んだはずの私が今、こうして生きているのは何故?一体全体何なの、これって!? 憧れのリッキー本人に出会えたことは確かに嬉しい。だがそれよりも、考える程に抑圧されていた怒りや不安、悲しみといったマイナス感情ばかりが急激に込み上げ、混乱した私は俯いたまま押黙った。そしてチラリと視界に入ったルーファスが腹立たしい迄に無表情だったことで心折れ、遂に涙を堪えきれなくなってしまった。ポタポタと零れ落ちた涙がジーンズの膝に染みた。 「大丈夫かい?身の回りの急な変化に戸惑うのも無理ないさ」 急に隣で泣き出した私を到頭見るに見兼ねたのか、リッキーがそっと背に触れた。掌の温もりと彼の優しさが背中からじんわりと伝わってくる。 「心配しないで、キオ、どんなことがあっても俺は君を全力で守り抜くと約束する。それにね、君は一人じゃない。俺や…俺の仲間ともこれからはずっと一緒だよ」 発する人間によっては歯が浮くような台詞であったが、リッキーの一言一言には真心が籠っていた。こんな一般人の、それもたった今会ったばかりの見ず知らずの日本人女性を、例えそれが彼に与えられた役目とはいえ全力で守ると言い切ってくれたリッキーの優しさに報いるためにも、この町で彼や彼の仲間達と共に暮らしていこう…と私は再び決心した。有難うリッキー、もう迷わない。みっちゃん、私も頑張るよ――。 「有難うリッキー。リッキーの言葉で決心が付きました。これから御世話になります」 涙を拭きながらリッキーに向かって頭を下げると、彼はにっこり微笑み、軽く頷いてくれた。続いて、正面から私達のやり取りを面白そうに眺めていたルーファスの方に向き直り 「御迷惑をお掛けしてすみません。ちょっと感情的になってしまいました。リッキーのサポートを受けながらこの町で暮らしていくことに異存はありません。宜しくお願いします」 ともう一度、今度は深く頭を下げた。 「分かりました。では貴方が【Heavenly Rock Town】の住人になることを、天に代わって私が今ここで承認します」 ルーファスのこの言葉で私の第二の人生というか今後の生活が確定した。ケ・セラ・セラ なるようになる。昔、こんな歌詞の古いCMソングを母がよく口ずさんでいたっけ。Que sera sera Whatever will be will be ―― なるようになる、か…。 この町では全住民の個人情報や金銭収支などが個別番号によって一元管理されているらしく、早速私にも『HRT-319908823』番が付与された。これから私の全ての情報がこの番号に詰め込まれていくという。 「この世界のルールにより、貴方の体内にも既に地上で言うところのナノチップのような物を埋め込んでありますが、これは単に情報を管理するための物であり、決して個人行動の監視や感情・思考の操作・支配等は致しませんので御安心下さい」 などとSFドラマによくある台詞のようなことをルーファスは事も無げに口にしたが、私ももう別段驚きはしなかった。不老、チップ埋込、キャッシュレス社会…。この世界を一言で言い表すとすれば、近未来風パラレルワールドといったところだろうか。まさか死後の世界がこんなにも奇妙且つ進んでいる所だなんて、生きている間には想像も付かなかった。 誘導の務めを終えたルーファスは最後に私を呼び寄せ、 「この先また町の何処かで会う機会があるかもしれませんが、貴方とはこれで一旦お別れです。キオ、貴方がこの町で幸せな毎日を送ることを願っています」 と優雅な所作で私の左手を取り、甲に軽く、羽根のように軽く接吻して別れを告げた。 嗚呼、この謎の発光青年とももうお別れなのね、何だか寂しいけど…。けど、やはり正体が知りたい!ねぇルーファス、あなたは一体何者? ルーファスに尋ねてみるべきか否か少しの間逡巡したものの、好奇心を抑えきれなくなった私は最後に勇気を振り絞り、恐る恐る尋ねてみた。 「あの、ルーファス…最後に教えてください。貴方は一体どういう方なのですか?」 私の発した愚問にルーファスとリッキーは顔を見合わせて暫し笑っていたが、リッキーが回答を促すような悪戯っぽい視線をルーファスに送ってくれたこともあって、ルーファスは渋々ながらも答えてくれた。自分は天を構成する諸諸の神々の一人である堕天使・ルシファー(Lucifer)の孫にして、この町の支配者――というよりは総括責任者である、と。 この突拍子もない答えには流石に私も絶句した。堕天使の孫?支配者?ええぇ…何それ!? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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