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2013.05.20
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カテゴリ:Heavenly Rock Town
歓迎会の翌々日、ブルーノは約束どおり私の勤務先まで迎えに来た。店長のイアン(Ian Curtis / Joy Division)が “あれ?今日の迎えはリッキーやベンじゃないんだ?” とでも言いたげな顔をしているので、私は軽く二人を引き合わせた。
「イアン、彼は先日私達のアパートに越してきたブルーノよ。ノルウェーのロック・バンド、Raga Rockersのギタリストだったんだって。ブルーノ、彼はここの店長のイアン。Joy Divisionのヴォーカルで…」
「勿論Joy Divisionは知ってるさ。よろしく、イアン。今から彼女をCCBに連れて行きたいんだけど、いいかな?」
「やあ、ブルーノ。CCBってCar Crashか?そういえばキオもそうだったな…。キオ、後は俺がやるから、今日はもう上がっていいよ。ゆっくり楽しんでおいで」

bbc.jpg bbc.jpg bbc - コピー.jpg

 ブルーノに案内されて歩くこと暫し、辿りついた先の洒落た建物は見慣れた町中にあった。
「あら?ここってベンが働いている自動車工場の近くじゃない、今迄全然気付かなかったわ」
「車で事故った奴が集まるバーだから、いつもリッキーやベンと一緒じゃ縁もなかっただろう」
 英国放送協会(British Broadcasting Corporation)のロゴの、BとCの位置をそっくりそのまま入替えただけのシンプルな壁面サインが、青白い照明の中にひっそりと浮かんでいた。
「この看板、何か見覚えがあると思ったら…これってBBCのロゴをパクっちゃってない?」
「あはは、この店のマスターは二人共英国人だからOKだろ?さ、入ろうぜ!」
 重厚な木製のドアを開けて薄暗い店内に足を踏み入れてみると、まだ19時過ぎだというのにほとんど全てのテーブルが客で埋まっている。とりあえず私達はカウンターに腰掛けた。ブルーノがカウンター内で客と談笑している二人の男性に目を遣りながら
「ここのマスターってのがあの二人さ。キオも知ってると思うけど、T. Rex(T・レックス)のマーク・ボラン(Marc Bolan)とスティーヴ・カーリー(Steve Currie)。奴ら二人共…」
 と小声で教えてくれているところへ一人の男性がフラフラと寄って来て、いきなり私達の肩に手を回してきた。私の肩に置かれている男性の右手が掴んでいるビール瓶には、何やら青いラベルに白い動物が2匹並んで描かれており、7,2%と書かれた数字が目立っている。
「よォ、ブルーノ。隣の中国女は見かけねえ顔だな、新参者か?」
「おいおいボーナ、彼女は日本人でキオっていうんだ。今日が初めてだから、これから皆に紹介するつもりさ」
 ボーナと呼ばれた男は物珍しそうに私をジロジロと見つめ、手に持っているビールを一気に口に流し込むと空になった瓶をカウンターに置いた。
「そうか、俺はボーナだ。キオ、あんたもビール飲むか?これは俺の国のビールで、オーブロ(Abro)のSjukommatvaanっていうんだ」
 ボーナことビヨン・エリクソン(Bjorn "Bona" Eriksson)はスウェーデンのパンク・ロック・バンド、Rude Kids(ルード・キッズ)のヴォーカルを務めていたが、83年1月に24歳でこの町へ来た。
「そんな不味いビール、スウェーデン人以外飲まねぇって。お前、ヌグネ(Nogne O)飲めよ、俺も頼むから。キオは何かカクテルでも飲む?スクリュー・ドライバーでいいかな?あとは何か軽くつまむモンと」
「う、うん」
「俺はオーブロだ!」
 そこへこの店の主人であるT. Rexの二人、マークとスティーヴが近付いて来た。
「お前ら、またビールでモメてんのか?ノルウェーのもスウェーデンのも味なんか変わんねぇだろ。…ん?こちらのお嬢さんは今日が初めて?」
 と言いながら私に好奇の眼差しを向けているのは、81年4月に33歳でこの街へやって来た、T. Rexのベーシストであったスティーヴ・カーリーだ。
「ああ紹介するよ、彼女はキオ、日本人だ。3年半前にここにいる奴ら同様、事故ってこっちへ来たそうだ。俺が仮住まいしているアパートに住んでて、今日初めて連れて来たんだ。宜しく頼むぜ。で、俺等はいつものヌグネとオーブロ、キオにはスクリュー・ドライバーと何かつまみを」
「高崎樹央です、宜しくお願いします」
 私はこの店のマスター達に挨拶がてら軽く会釈した。二人とも一瞬驚いたようであったが、先に笑い出したのはマークだった。T. Rexでギターとヴォーカルを担当していたマーク・ボランことマーク・フェルド(Mark Feld)がこの町へ来たのは77年9月のことで、30歳の誕生日の2週間前だったという。
「OK、ブルーノ、流石に日本人は礼儀正しいな。蝶々さんは今夜から我々の仲間だ、歓迎するぜ、キオ」
 蝶々さんとは、日本を舞台にしたプッチーニのオペラ「蝶々夫人(Madama Butterfly)」の主人公のことらしい。同じ日本人女性ということで、そう呼んだのだろう。
 スティーヴが氷の入ったタンブラーにウォッカとオレンジジュースを注いでステアしている横で、マークはカウンターの下あたりからマイクを取り出すと、突如店内放送を始めた。
「あー、ブルーノの紹介で今日から仲間が一人加わることになった。蝶々夫人・キオだ」
 すっかりマダム・バタフライにされてしまった私が一応テーブル客に向かってぺこりと頭を下げて挨拶すると、店内に口笛や歓呼が響いた。気のいい連中ばかりのようだ。ひときわ盛大に口笛を鳴らしている人物に目を向けると、以前この町の紹介文を寄稿した際に世話になったファルコ(Falco)だった。
 知り合いを見つけて俄然心強くなった私は、スティーヴから受け取ったスクリュー・ドライバーをぐいっと一気に飲み干してしまった。

marcbolan.jpg Mark Feld (September 30, 1947 – September 16, 1977) マーク・ボラン
trex.jpg Steve Currie (May 19, 1947 – April 28, 1981)
rudekids.jpg Björn "Böna" Eriksson (July 9, 1958 – January 25, 1983)





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Last updated  2023.06.25 18:29:07
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