2443102 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

Pastime Paradise

Pastime Paradise

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2013.06.01
XML
カテゴリ:Heavenly Rock Town
「おッ、いい飲みっぷりじゃねえか。もっとガンガンいこうぜ。スティーヴ、キオにオーブロだ!」
「ヌグネの方がいいっつってんだろ!なぁ、キオ」
「うるさい!ビールといったらキリンに決まってるでしょ!スティーヴ、一番搾り置いてない?」
 口当たりの良さにつられてグイグイとカクテルの杯を重ねた私は、すっかり酔いが回ってしまっていた(が勿論、当人に自覚はなかった)。
「一番搾りってこれかい?ハイ、KIRIN ICHIBAN」
「そうそう、コレよコレ。有難うスティーヴ。私の実家から車で1時間くらいの所にキリンビールの工場があってね、小学生の時に皆で見学に行ったりしたんだ。あの頃はまだ子供だったから、ビールの匂いで頭痛くなっちゃって」
「今だったらたらふく飲んで帰れたのに、そりゃ残念だったなぁ。…お、ヤツが来たぜ。おーい!」
 店に入ってきたばかりの男性にブルーノが声を掛けると、その男性もこちらに気付いたらしく、無愛想な表情でヨロヨロと近付いて来た。
「よぉ、ラズル。何だオマエ、もう酔っ払ってんのか?彼女はキオ、日本人だ。ここに連れて来たのは今日が初めてだから、宜しく頼むよ」
「……」
 ラズルと呼ばれた、見るからに陰鬱そうなその男は、私に一瞥をくれると無言で私の隣の席に崩れるように腰を下ろし、カウンターに突っ伏した。
「あ、あの…」
「いつもこんな調子だから気にすんな。コイツはラズル、フィンランドのバンドでドラムを叩いてたんだけど、30年ぐらい前にアイツの運転する車で…えっと誰だっけな…まぁソイツの車で事故ってこっちに来たんだ」
「へぇ、ブルーノがノルウェー人でボーナはスウェーデン人、で彼が…ラズルがフィンランド人。北欧つながりね」
ヴィンス・ニール(Vince Neil)だ、Motley Crue(モトリー・クルー)の。それから、俺は英国人だぜ」
 いきなりラズルが突っ伏したまま答えた。私達の会話は一応聞こえているらしい。
 ラズル(Razzle)ことニコラス・チャールズ・ディングレイ(Nicholas Charles Dingley)はフィンランドで結成されたハード・ロック・バンド、Hanoi Rocks(ハノイ・ロックス)の2代目ドラマーだった。84年12月、全米進出の矢先にヴィンスの飲酒運転が起こした事故により、24歳でこの世界にやって来たという。
「ほらよ、ラズル、置いとくぞ。キオ、コイツは普段からこうなんだ」
 スティーヴはラズルの頭の横にワイルドターキーのストレートが入ったグラスを置くと、他の客の相手をしに行った。ブルーノとボーナは何やら二人で盛り上がっている。私は一番搾りを飲みながら、チラチラと横目でラズルを観察していた。
 暫くして急にラズルはむくっと頭を上げると、ターキーを呷り始めた。そして無表情のまま私の方に暗い目を向けた。
「…行ったことあるぜ、日本」
「えッ!? あ、そうなの?で、どうだった日本は?」
 突然話し掛けられて若干動揺したものの、既に酔いが回って気が大きくなっている私が偉そうに質問すると、ラズルはさも興味無さ気に「ああ…」とだけ答え、再び突っ伏してしまった。悪い人ではなさそうだが、何とも掴みどころのない人である。

 手洗いから戻る途中、ファルコに声を掛けられた。
「やぁキオ、今日はリッキーと一緒じゃないのか?」
「うん、私達のアパートに越してきたブルーノに連れてきてもらったんだ。だってこの店って交通事故者しかダメなんでしょ?」
「そういやそうだった。すっかり忘れてたよ、ははは」
 以前、仕事中に会った時には髪をカッチリ整えて随分とダンディな雰囲気を漂わせていたファルコであったが、今日はサラリと自然に前髪を下ろしているせいか、かなり若々しい感じがする。意外と――などと言っては失礼だが、爽やかな二枚目青年風だ。
「キミが今日から仲間入りした蝶々さんかい?」
 ファルコと一緒に飲んでいる男が私に目を向けた。どこかで見覚えのある顔だが、思い出せない。だがまぁ、取り敢えず挨拶ぐらいはしておこう。
「ええ、蝶々夫人の高崎樹央です。ファルコには以前仕事で…いや、仕事というか何というか…でお世話になって」
「俺はコリン・フルックス。コージーでいいよ」
 ん?コージー?…ああッ!何だか見たことのある顔だと思ったら、コージー・パウエルだ!数々のHR/HMバンドを渡り歩いた、伝説の渡り鳥さんだ! 
 コージー・パウエル(Cozy Powell)ことコリン・フルックス(Colin Flooks)といえば、70~90年代に掛けて数多の有名ロックバンドに在籍した “渡り鳥” として名を馳せた英国人ドラマーである。The Jeff Beck Group(ジェフ・ベック・グループ)、Rainbow(レインボー)、Michael Schenker Group(マイケル・シェンカー・グループ)、Whitesnake(ホワイトスネイク)、Black Sabbath(ブラック・サバス)、The Brian May Band(ブライアン・メイ・バンド)等々、在籍したバンドや共演したミュージシャンを逐一挙げていけばキリがないほどだ。
 そんなコージーの渡り鳥生活にピリオドを打ったのが、98年4月に自らが起こした自動車事故だった。コージーは50歳にしてこの町の住人となった。

hanoirocks.jpg Nicholas Charles Dingley (December 2, 1960 – December 9, 1984) ラズル
cozypowell.jpg Colin Flooks (December 29, 1947 – April 5, 1998) コージー・パウエル
 おまけ
falco2.jpg 爽やかな二枚目青年風ファルコ(^^;





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2023.06.25 18:34:17
コメント(0) | コメントを書く
[Heavenly Rock Town] カテゴリの最新記事


PR

Free Space

Recent Posts

Category

Keyword Search

▼キーワード検索

Headline News


© Rakuten Group, Inc.
X