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2013.12.21
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カテゴリ:Heavenly Rock Town
「ところでキオは何故そんなにリッキーを心配するんだ?ただそこに勤めてるってだけでよ」
 夕食を終え、出掛ける仕度を始めた私にボヤンが訝しそうな目を向けた。そうだ、ボヤンはリッキーの置かれている立場や状況を知らないんだ!
「えッ!? あ…だってそれは…」
「野暮なこと言うなって、ボヤン。女ってのはだな、四六時中愛する男のことで頭がいっぱいなのさ。何時如何なる時も傍にいたいんだよ、なぁキオ」
 しどろもどろになった私に代わってベンが答えてくれたはいいが、こちらも返答に困ってしまう。
「う…うん、そう、そんな感じかな。ははは…」 曖昧に笑って誤魔化した。
「ふーん。悪いが俺はこれから人と会う約束があるんで付き合えねえよ」
「OK、ボヤン。じゃあ俺が一飯の恩に報いてキオに付き合うとするか。あんな危なっかしい所に一人で行かせたなんて後でリッキーに知れたら、俺達が怒られるからな」
 そう言ってベンが大袈裟に肩を竦めてみせた。
 ボヤンが食事の礼を言って部屋を後にし、ベンも自室にジャケットを取りに戻ったため束の間一人になった私が再びテレビに目を遣ると、情報管理センターからの中継で幹部による会見が始まろうとしていた。リッキーも出るのかしら?
「おい、行くぞ」
 ベンが勢いよく部屋に入ってきた。
「ごめん、ちょっと待って。今から会見があるみたいなの。リッキーも出るかも…」
「なに悠長なこと言ってんだ。そのリッキーからたった今電話があってよ、リジーと一緒にこっちに来て欲しいって」
「リジーと一緒にってどういうこと!? 彼は大丈夫なの?」
「おそらくな。リジーには今から迎えの車を遣るからそれに乗って情報センターまで来るよう、既に伝えてるんだと。俺達が同乗するのは彼女の見張りってことらしい。ま、詳しいことは知らねえけど、とにかく行くぜ」
 テレビでは既に幹部による会見が始まっており、カイロス・ディアベル(Kyros Diavel)なる最高責任者らしき人物と、リッキーに以前紹介された情報資源部のシーの二人が今回のトラブルについて淡々と報告している。あれ?このディアベルって人の顔、どこかで見覚えがあるような気がするんだけど…。おそらく彼も嘗てはそこそこ有名なミュージシャンか何かだったのだろう。
 会見が気になるものの今はそれどころではなく、私はすぐさまテレビを消してベンの後を追った。
 エントランス前に停車しているブラックキャブの後部座席には、憮然とした面持ちのリジーが先に座って待っている。もしかして運転手はボーナだったりして、と運転席をチラリと覗いてみると、ボーナではなかったがやはりCCBで何度か見かけたポール・ハックマン(Paul Hackman)であった。カナダのHR/HMバンド、Helix(ヘリックス)のギタリストだったポールは、92年7月に38歳にして自動車事故によりこの町にやって来た。ポールとボーナはタクシー、コージーがバス、そしてラズルが貨物車のドライバー。よりによって車で命を落とした者ばかりが運転手の職に就いているこの町って…。
 私がポールに軽く挨拶してからリジーの隣に座ると、ベンも私と反対側のドアからリジーを二人で挟むようにして彼女の横に座った。
「センターの奴が大至急お前らを連れてくるようにだとさ。しっかり足を踏ん張っとけよ」
 ポールのブラックキャブはまるでレーシングカーのように猛烈な勢いで街を疾走し、彼からの事前アドバイスは何の役にも立たなかった。

 情報管理センタービルの周囲は猶も喧騒が続いていた。ポールはそんな群集に突っ込んで彼等を蹴散らすと、車をセンタービル正面入口に横付けした。
「なんて無茶な運転なのかしら」
 今までずっと沈黙していたリジーが、車から下りる際に呆気にとられたように呟いていた。全くもって同感である。
 素早く回転ドアをくぐってビルの中に入ると、受付嬢のどすこいさん…じゃなかったキャスがどすどすと駆け寄ってきた。
「貴方達のことはリッキーから聞いてるわ。彼の所に案内するから付いて来てちょうだい」
 私達三人はキャスの後に続いて1階フロアを突き進み、エレベーターに乗り込んだ。
「えーと…貴方、何て名前だったっけ?」
「高崎です。高崎樹央」
「そうそう、キオだったわね。で、ハンサムな貴方がベンでしょ、リッキーから聞いてるわよ。貴方達二人は3階の喫茶室でコーヒーでも飲みながら待っててほしいって。キオは前に一度行ってるから分かるでしょ」
 以前リッキーに頼まれて本を配達しに来た時、キャスに案内されて喫茶室で待ったことがある。ジャニス・ジョプリンが淹れてくれるコーヒーが絶妙に美味しい店だ。
「ジャニスの店ね」
「ええ、そう。二人はここで降りてあの店で待っててちょうだい。でもって貴方、リジーさんは私と一緒に最上階の会議室まで行くわよ。じゃあね、お二人さん」
 3階で下ろされたベンと私は、会議室と聞いて若干不安げな表情を浮かべているリジーと、暢気にベンに手を振っているキャスを乗せて上昇していくエレベーターを暫し見送ってから、ちょっぴり古めかしい小さな喫茶室へと向かった。
 喫茶室ではジャニスが相変らず暇そうに音楽を聴きながらぼんやりしている。私達は彼女にコーヒーを注文し、空いている席に腰を下ろした。
「そういえばさっきリッキーが電話で、今回の件はキオの手柄だって褒めてたぜ。お前、何かしたのか?」
「手柄ってほどじゃないけど…」
 私は今日の出来事を詳しくベンに語った。朝、リジーがジミーという男性と一緒に歩いている所を見掛けたこと。昼休みにリッキーに差し入れを持って “Wilburys Grill & Bar” という店に行った時、偶然ジミーも同じ店にいたのでそのことをリッキーに伝えたこと。すると何かに気付いたリッキーが一緒に来ていた仕事仲間と慌てて職場に戻ったこと――。
「ふーん。やっぱりあの女もグルだったんだな。ってことは端からリッキーを探るためにここに越してきたのか。ロブのヤツ、このことを知ったら相当ショックだろうなあ」
 人の心の痛みが分かるベンは、話を聞いて真っ先にロブの心配をした。私の生まれた前年にベンがリリースした唯一のソロアルバム「The Lace」は母から借りて何度か聴いたが、曲の長閑やかさを意外に思ったものだった。だけどこの町に来てベンと近しくなってみると意外でも何でもなく、あのアルバムには彼の人柄が如実に反映されているように思う。
「いや、でも何か腑に落ちねえよなあ。普通は何か企んでたりしたら、あんなにペラペラ喋ったりしないだろ」
「確かにそうよね。彼女、そんなに悪い人でもなさそうだし」
「ま、その辺りは俺達には関係のない話だな。今頃リッキー達がしっかり聴取してんだろう」

helix.jpg Paul Wayne Hackman (1953 – July 5, 1992)
kyros-d.jpg Kyros Diavel …?あれッ?この写真の人ってもしや…!? ショック





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Last updated  2023.07.04 20:47:09
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