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2013.12.31
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カテゴリ:Heavenly Rock Town
ルーファスが隠れ家と称している地下部屋に入るのも今回で3度目だ。書斎机に細く長い脚を投げ出し、革張り椅子の背凭れにどっしりと寄りかかって腰掛けていたのは、いつもと変わらぬ姿のルーファスであった。
「ベン、キオ、お二人をお待ちしてました。今回の問題解決には貴方達の力もお借りしたそうで、私からも礼を言います」
「いや、確かにキオは手助けしたけど俺は何もしてねえから礼なんかいいよ」
「私も大したことはしてないので御礼なんて結構です」
 ルーファスの謝意を無下に否んだベンに釣られ、つい私も断ってしまった。しかし彼は私達の非礼に気を悪くする風でもなく、ただ微笑みながら頷いただけだった。
「貴方達も御承知のとおり、この町は私が支配しています。ですが支配者である私が町の運営に直接係わることはありません。私の存意は全てリッキーに伝え、それを彼が判断して要人に伝達します。この町で彼は私に次ぐ実力者と言えましょう、何せ支配者代行ですからね」
 私とベンが腰掛けているソファの横で、俯き加減に直立しているリッキーの表情が心做しか曇って見えた。
「今回の件は町の混乱に乗じてリッキーを失脚させ、彼の持つ権力を自らの手中に収めようとした町長が陰で操っていました。町長に唆されてメインフレームに不正侵入した人物こそ、キオが知らせてくれたジミー・マクシェインだったのです」
「まさかジミーが関与してたなんて、キオに言われるまで全く思い付きもしなかったよ。有難う、キオ」
 リッキーはどこか寂しげな、複雑な笑顔を私に向けた。彼は今日一日、どれほど胸の痛む、苦しい思いをしたのだろう。
「ここの長官がいきなり町長に辞職勧告を突きつけたって話を耳にしたけど、そういうことだったのか」
「リッキーに逆らう者は私に刃向かうも同じですから。町長は地獄に落とそうかと思いましたが、リッキーが余りに強く反対したため止むを得ず罷免ということで手を打ちました。マクシェインも当然解雇です」
「じゃあリジーもグルだったってことだろうけどよ、何で彼女はあんなにペラペラとヒントになるようなことをリッキーに話したんだ?」
「彼女は町長が陰で糸を引いていたことを知らなかったんだよ。ジミーが実力で伸し上ろうとしていると思って応援してたまでで。だから堂々と俺に宣戦布告したり体を張って情報収集しようとしたりしてね、彼女は一途な女性なのさ。まぁ彼女のことは今回の問題解決に大いに役立ってくれたんで、ルーファスやシーとも話し合って不問に付すことにしたよ」
 体を張ってということは、もしかするとリッキーは彼女にハニートラップでも仕掛けられたのだろうか?そりゃ彼女の色気を以てしても落ちるわけないよね、悲しいことにリッキーは女性に興味ないもの。
 ベンは更に端末機の一斉停止について質問し、ルーファスとリッキーがそれに答えていたが、コンピューターに疎い私には何のことやらまるで理解出来なかった。

 彼等の話が一段落してから、私は恐る恐るルーファスにディアベルと名乗った件について尋ねてみた。すると…。
「以前、霊界に誘導した男性から言われたのです、“君はKyros Christianに似てるね” と。誰かに似ているなどと言われたのは初めてでしたので非常に興味が湧いて調べてみたところ、その人物はゲイポルノアクターでした。私はすっかりその人物が気に入りまして、彼の名前を拝借することにしました。ただ悪魔の私がクリスチャンというのは流石にマズいので、姓はディアベル(Diavel。エミリア・ロマーニャ語ボローニャ方言で「悪魔」という意味)に変え、ここの長官である時には人間らしくカイロス・ディアベルと名乗ることにしてます。いずれ彼をこの町へ迎え入れる日が今から待ち遠しくて」
「げッ、マジかよ!?」
 リッキーが笑いを堪えながら大きく頷く。なッ…ゲイポルノアクター!? まさかルーファスも!? いやいやいや、悪魔がゲイとかあるわけないよね。この話は聞かなかったことにしよう。ベンも隣で完全に呆れ返っているようだし。
「その話は置いといてですね、最後に何故リッキーが悪魔と取引しているなどという噂が広まったかということについて、お二人だけには話しておきましょう」
 何と、あの噂にはちゃんと根拠があったのか。私はルーファスとリッキーの顔を交互に見た。リッキーは私達の視線から逃れるようにそっとソファから離れた。
「私がリッキーに取引の申出をしたのは一度きりなのですが、その時偶然にも資料を持って来させていたマクシェインが扉の外にいて、私達の会話の断片――取引という言葉――を耳にし、悪巧みか何かと勘違いしたのです。…あ、ちょっと失礼」
 ルーファスは机上の電話機を引き寄せ、いきなりどこかに電話し始めた。
「ジャニス、コーヒーを頼みます。ええ、一応4人分で。店の方はもう閉めてくれて結構ですから。長時間働かせて申し訳なかったですね」
 いつもながら悪魔とは思えぬ丁寧な口調である。彼は私にさえ敬語を使う。流石ルシファーの孫だけあって、一応高貴な家柄なのだろう、おそらく。ただ私もベンもこの部屋に来る前、既に彼女の店でコーヒーを飲んだばかりだ。
「私が申し出た取引というのはですね、リッキーの願いを聞き入れる代わりに…」
「ルーファス!悪いがやはりその話を今ここではしないでくれないか。いつか必ず俺から二人に伝えるから。すまない」
「そうですか、分かりました」
 私達にも言えない何かがあるらしい。ルーファスからの取引条件とは一体何だったのだろう?
「お前が言いたくなけりゃ無理して言わなくてもいいぜ。で、願いは叶ったのか?」
 ベンはくるりと振り向き、背後にいるリッキーに声を掛けた。
「それは今回の件が無事解決してからということで…」
「そうなのです。今から御約束どおり、リッキーの願いを叶えて差し上げましょう」
 そう言い終わるや否やルーファスは革張り椅子からフワリと舞い上がり、リッキーの元へ着地した。そして次の瞬間には既にリッキーはルーファスの腕の中で意識を失っているようであった。余りに突然の出来事で、ベンも私も何が起こったのかさっぱり分からない。
「おい、リッキーに何をした?」
「御心配には及びません。彼は夢の世界に行っているだけです」
「夢の世界?」
「はい。今頃は彼が愛してやまなかった帆船で大海原を疾走していることでしょう」
 ルーファスは軽々とリッキーを抱き上げると、そっとソファに横たわらせた。私とベンが腰掛けているこのソファは緩やかな曲線を描いており、リッキーが横になるスペースは十二分にある。ルーファスはリッキーの頭元に静かに腰を下ろすと、優しい手付きで彼の髪を撫で始めた。
 そういえばリッキーは地上にいた頃セイルボートを所持し、自宅裏の湖で楽しんでいたと本人から聞いたことがある。その帆船で世界各地を回ってみたかったなんて言ってたっけ。彼らしい願いだ。社内の連中もまさかリッキーと悪魔の取引内容がボートで海原を駆け巡ることだなんて思うまい。
 あどけなさの残る美しいリッキーの寝顔を、ルーファスが愛おしそうに見詰めている。それはまるで母親が我が子を見守るかのような、慈愛のこもった眼差しであった。





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Last updated  2023.07.04 21:02:11
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