カテゴリ:Heavenly Rock Town
「悪魔になれっていうのがルーファスとの取引だったの?」
ルーファスは天を構成する諸諸の神々の一人である堕天使・ルシファーの孫にして、この町の支配者だ。悪魔になるということは、やがてリッキーもルーファスのように仄かに身体が光ったり、空を飛んだり、人の心を覗けるようになったりするのだろうか?いやいや、そんなことよりも――。 「どういうこと?リッキー、ここからいなくなるの…?」 「……いや、その逆だよ、キオ。悪魔になるっていうのは嘘だけど、ルーファスが申し出た取引っていうのはね、ずっとここにいて彼の片腕になってほしいということだった。俺は生まれ変わってもう一度帆船で海に出たいからって断ったけど、じゃあその願いは叶えてやるからずっと支えてくれって」 「ずっと……。だったらリッキーだけ転生せずにずっとここに留まるってこと!?」 「ああ、結局彼に押し切られてさ、今はまだ使いをやっているルーファスが正式な天の一員になるまでいてほしいそうだが、どうやら何百年も先らしい。数百年後の話なんて全くピンとこないけどね。まぁ彼にしてみれば片腕なんて誰でもよかったんだよ。俺がたまたま一番近くにいたもんだから頼まれただけで」 とリッキーは謙遜したものの、ルーファスがリッキーにどれほど厚い信頼を寄せているかは、二人の交わす言動から十分見て取れた。 「君やベンがやがて地上に戻ることになっても、俺だけここに留まって君達の転生を祝福して見送ることになる。だけど逆じゃなくてよかったと思うんだ。俺にとっては君を残して先に転生する方が辛い」 ここは刺激がなくて退屈な世界だ、なんていつも言ってたのに。もし私だけがリッキーやベンがいなくなった後もここに留まり続けなければならないなんてことになったら、どんなにつまらないことか。寂しさのあまり、この崖からダイブしてしまうかもしれない。去る者より残る者の方が辛いに決まっている。それが分かっていてリッキーは残る方を選んだ。逆じゃなくてよかったなんて微笑みながら言わないで、私なんかのために。 「いずれ君と離れることになっても俺は――今迄もこれから先も、どんな時でもキオのことを想っているよ」 以前私の心がビーチャに傾いた時、寝たふりをしていた私の背中に優しく語り掛けてくれた言葉をリッキーは再び口にした。あの時とは違い、今度は私の瞳を見ながら真剣な面持ちで。 「私もリッキーのことをずっと…。初めて会った時からずっとずっと想い続けてる。だけど…」 「だけど?」 「だけど…あの…リッキーはその…女性には興味が…」 私は俯きながら蚊の鳴くような声で、この五年間ずっと胸に秘めていた二つの思いを初めて打ち明けた。 「んー…確かに俺は女性に興味がないけどさ」と、リッキーは苦笑しながらも 「君のことは心から大切にしたいと思ってる。ただこれが異性に対する恋愛感情なのかどうかは、正直なところ自分でもまだ曖昧で、答えが出るかは分からない。だけどね、俺はいつの日かきっと君を――」 まさかの突風がリッキーの言葉を巻き上げ、空が飲み込んだ。彼は何と言ったのだろう。聞き返したかったが、リッキーはもうこの話題を続ける気はないようだった。 「そろそろ帰ろうか」 「そうね、アパートメントで留守番している三人にリジーの近況を報告してあげなきゃ」 先に立ち上がったリッキーが私の手を取り軽く引っ張ってくれたおかげで、楽に起き上がれた。私達はそのまま手をつないでデッドの家へと歩き出した。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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