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2020.08.14
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カテゴリ:Heavenly Rock Town
ひょんなことから私が天国と地獄の間に存在するとても小さな死者の街【​Heavenly Rock Town​】で暮らすようになって、早くも10年の歳月が流れた。町の住人の多くが在世中にロックミュージシャンとして活躍していた方々ということで、連れてこられて暫くは世界的有名人達との暮らしに日々胸を躍らせていたが、そんなミーハー気分もいつしかとっくに抜け、彼らが嘗てはスーパースターだったということなど全く気に留めることなく生活している。
 初めての死後世界。右も左も分からなかった私に常に寄り添い、面倒を見てくれたのが、リッキー(Ricky Wilson / The B-52's)だった。この町の支配者――堕天使・ルシファー(Lucifer)の孫にして未熟な悪魔である――ルーファス(Rufus)に私の世話役として指名されたリッキーは、最長5年間という世話役の任期いっぱいまで、後見してくれた。
 私とリッキーが隣同士で暮らしていた3階建てのアパートには、ベン(Benjamin Orr / The Cars)、ボヤン(Bojan Pecar / Ekatarina Velika)、ロブ(Rob Fisher / Naked Eyes)がいて、5人で和気藹々と暮らしていた。温和で心優しい住人達との日々は夢のように幸せで、半永久的に続くとばかり思っていたのだが、一昨年末、ベンに初の世話役話が来て、嫌がるベンをリッキーが説得して承諾させたため、泣く泣くベンが引っ越した。続いてロブが恋人と同居するために出て行き、昨年夏にはボヤンも気分転換に越していった。更にはリッキーまでもタウンハウスを斡旋され(この街に30年以上暮らしていると、タウンハウスへの転住を勧められるらしい)、いよいよ一人ぼっちになってしまうのか…と悄気返っていたら
「もし良ければキオも一緒に来るかい?俺一人だとあのタウンハウスは広すぎるし」
と、リッキーからまさかの同居話を持ちかけられ、二つ返事でOKしたのが半年前の話。それっていよいよ同棲ってこと!? なんて舞い上がったものの、いざ引っ越してみるとリッキーが言ったとおりの広々とした家で、1階は前のアパートの1フロアくらいありそうなリビングとキッチン、2階には3つの部屋、各階にバストイレが設置され、確かに一人では持て余す家なのであった。同棲ではなく完全に同居であり、私とリッキーは兄妹的な関係のまま、一つ屋根の下で仲良く暮らしている。

 COVID-19の蔓延により、こちらの世界に人々が押し寄せている――と、キャスターのブライアン(Brian Epstein)が伝えている。地上は今、何だか大変なことが起こっているらしい。ここに越してきてからというもの、ずっとリッキーの帰りが遅いのはこの感染症のせいかもしれないなぁ、と合点がいったところで、私はTV画面から目を離してゴロンとソファに寝転んだ。だだっ広いリビングにたった一人でいると、寂しさが倍増する気がする。元の手狭なアパート暮らしが懐かしくも恋しい。40数年前に世界最高のパーティーバンドを地上に生み、またこちらの世界に来てからも、この町の中枢機関である情報管理センターのNo.2であるリッキーには相応しい住居ではあるが、元々一介の女子大生に過ぎなかったアジア人の小娘にとって、この家は余りにも分不相応すぎる。リッキーと一緒に暮らせるのは確かに嬉しいけど、本当に甘えてよかったのかな…。嗚呼、シンデレラは王子様と結婚して、いきなりの宮殿暮らしにすぐさま順応できたのかしらん!?
 ガチャリとドアの開閉の音が聞こえ、私は上体を起こしてリッキーを待った。
「おかえりなさい、リッキー。今日も遅くまでお疲れ様」
「ただいま。夕飯はもう済ませたかい?」
「ううん、まだ。リッキーは?」
「俺もまだ。ちょうどよかった、ウィルベリーズでベジバーガーと野菜のグリルをテイクアウトしてきたんだ。一緒にどう?」
「ありがとう、お腹ペコペコだったの」
 嗚呼、何たる幸せな甘いやり取り。リッキーは持ち帰った夕飯入りの紙袋をダイニングテーブルに置くと、着替えのため2階の自室に向かった。『俺はいつの日かきっと――』なんてシャイなリッキーが語ってくれたのは、何年前のことだっただろう。あれは幻聴だったのだろうか?この数年間で私達の関係は何も変わっていない。まぁ、それでもいっか。相変わらずリッキーの傍にいられるのだから。
 ウィルベリーズというのはリッキーの勤務先の近くにある「Wilburys Grill & Bar」という店で、88年12月に心筋梗塞でこちらの世界へ来たロイ(Roy Orbison)と、01年11月に脳腫瘍、肺癌、喉頭癌の合併症でやってきたジョージ(George Harrison / The Beatles)が共同で経営している。二人は嘗て共にTraveling Wilburys(トラヴェリング・ウィルベリーズ)という覆面バンドのメンバーであった。17年10月には同じく覆面バンドの一員だったトム(Tom Petty / Tom Petty and the Heartbreakers)が、鎮痛剤の過剰摂取が原因でこの世界にやって来ており、先頃公共事業労働を終えて(新たにこの街に来た者は全員2年ないし3年の間は公共事業に就くことが定められている)これまたウィルベリーズで働いている。
「さっきニュースで地上の感染症の話をしてたけど、こっちにも人が押し寄せてくるって」
「この町には然程影響ないけど、こちらの世界全体でみればまぁ増えてるかな」
 リッキーはグリルされた野菜をビールで胃に流し込みながら、素気なく答えた。仕事の話は家庭に持ち込まないタイプである。尤も彼の仕事は町の重要機密に関わることだし、何より生前から口が堅く、自分の病気を最期まで親友以外に打ち明けずにこの世界に来たくらいだ。
「噂は耳にしてるだろうけど、その新たな住人のためにロックフェスを開催したいっていう要望が多いみたいで、町長が大乗り気でOKしちゃったものだからミュージシャン連中がざわついてる」
 4期20年の長きに亘り町長を務めていたプレスリー(Elvis Presley)は6年前にリッキーを陥れようとして失脚し、新町長にビル・ヘイリー(Bill Haley)が選ばれたのだが、やはりカリスマ性に欠けるとの理由から前回の選挙でプレスリーが返り咲いた。支配者・ルーファスはプレスリー町長の再選に猛反対したらしいが、町民の意を伝えたリッキーが何とか説き伏せたのだとか。嗚呼、あの町長ならフェスなんて大歓迎だろう。なんなら、自分のワンマンリサイタルすら開催しかねない。
「いいなぁ、ロックフェス。私も見たい。だってこっちには凄く豪華なミュージシャンがいっぱいいるもん。マイケル(Michael Jackson)とプリンス(Prince)夢の共演とか、ジョン(John Lennon)とジョージ(George Harrison)のハーフビートルズとか…あ、ジョージは3ウィルベリーズもいいかも…。他にもフレディ(Freddie Mercury / Queen)とかボウイ(David Bowie)とかピート(Pete Burns / Dead or Alive)とかジョージ・マイケル(George Michael / Wham!)とか…」
「ストップ、キオ。一人ずつ挙げてたらキリがないよ。何だか出演希望者が殺到してるらしくてね、人選に苦慮してるみたいだよ」
「そういえばイアン店長(Ian Curtis / Joy Division)も今日、そのフェスの話をしてたわ。店長はあまり乗り気じゃなかったみたいだけど。いっそのことスティーヴン・キング(Stephen King)の『You Know They Got a Hell of a Band(いかしたバンドのいる町で)』みたいに、ここでも毎夜毎夜コンサートして皆がステージに立てるようにすればいいんじゃない?確かあの話に出てくる町も “Rock and Roll Heaven” だったっけ。この町とほぼ同じ環境だし」
「それは勘弁してくれよ。毎晩プレスリー・オンステージなんか開かれてごらん、俺は真っ先に他の町へ移住するね」

 Thomas Earl Petty (October 20, 1950 – October 2, 2017)
 Prince Rogers Nelson (June 7, 1958 – April 21, 2016)
 David Robert Jones (January 8, 1947 – January 10, 2016) デヴィッド・ボウイ
 Georgios Kyriacos Panayiotou (June 25, 1963 – December 25, 2016) ジョージ・マイケル
 Peter Jozzeppi Burns (August 5, 1959 – October 23, 2016)





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Last updated  2023.08.03 15:12:01
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