カテゴリ:Heavenly Rock Town
音楽が持つ力は、とてつもなく大きい。世界中の人々を熱狂させ、心を一つにさせる。85年7月に開催されたライヴエイドでは、英国のウェンブリー・スタジアムに72,000人、米国のJFKスタジアムに89,000人の観客を動員し、およそ150か国で推定19億人もの人々が生放送を視聴したという。85年当時の世界の総人口は約48億人、ということは世界人口のほぼ40%がリアルタイムで視聴したことになる。この災禍に人々がロックフェスを求めるのも、当然のことかもしれない。幸いにも死後世界には疾病というものが存在しないので三密を避ける必要もなく、演者と観客が一体となってバカ騒ぎが出来る。感染症でこちらに来た新たな住人のため、というのは建前で、本当のところは穏やかすぎて退屈なこの世界の住人達の暇潰し、或いは甦生のためのイベントなのかもしれない。
かつては新曲を書いてレコーディングをし、ニューアルバムがリリースされるや、プロモーションをし、ツアーを回り、そしてまた新曲を…という過酷なサイクルを繰り返すうちに、売れる曲作りに対する過度のプレッシャーや、ツアー生活のストレスなどにより酒やドラッグに溺れ、命を落としてしまったミュージシャン達。驕奢淫逸の果てにこちらの世界に来たような人も大勢いる。今はこの町で呑気に暮らしてはいるものの、脚光や歓声をもう一度だけでも浴びたい気持ちは分かるような気がする。いや、それより何より、彼らは元々音楽が好きでミュージシャンになった人達であり、別に酒浸りやジャンキーになりたくてなったわけではないだろう。今回のロックフェスで彼らは再びミュージシャンとしての矜持を取り戻そうとしているのかな、と元一般人の私には感じられる。 「俺んとこはオリジナルメンバーが揃ってるから出てくれ、だと。リッキー、お前は一人だろ?適当に仲間集めて出るのか?」 「いや、俺は出ない」 「なんで?久々にお前のあのバカなリフを聴けると思ったのに。“Rock Lobster” のバカリフ、聴きてぇなぁ」 「それって褒めてるわけ?いやまぁ、仮にメンバーを集められたとしてもだよ、あの曲を歌いこなせるヴォーカルっていないと思うんだ。ジョーイ、歌ってくれる?」 「……すまん、俺無理だわ。あ、ラックスなんかいけそうじゃね!? そういやアイツも一人だし」 「確かに彼なら面白くなりそうだけど、遠慮しとくよ。ラックスはフレッド(Fred Schneider / The B-52sのvo.)の代りになりうるけど、俺にアイビーの代りは務まらないもん。だけどラックスといえばさ、俺達が初めてMax'sでギグした時にステージを観てくれてて、シングルリリースするなら “Rock Lobster” がいいんじゃないかって薦めてくれたんだ」 今日はRamones(ラモーンズ)のヴォーカルだったジョーイ・ラモーン(Joey Ramone)が遊びに来てくれていて、リビングでリッキーと話に花を咲かせている。初めてジョーイと会った時はそのデカさ(6ft 6in =198cm!)に圧倒されたが、意外と穏やかな人である。彼は01年4月にリンパ腺癌でこちらにやって来た。70年代後半のパンク・ムーブメントに多大な影響を与え、96年に解散はしたものの今なお愛され続けているラモーンズは、ヴォーカルのジョーイを始め、ギターのジョニー(Johnny Ramone / 2004年9月 前立腺癌)、ベースのディー・ディー(Dee Dee Ramone / 2002年6月 ヘロインのオーバードース)、ドラムスのトミー(Tommy Ramone / 2014年7月 胆管癌)と、オリジナルメンバーの4人全員が早々とこちらの世界に来てしまっている。 ラモーンズは74年からCBGBやMax's Kansas CityといったNYの伝説的なクラブで演奏し、常連となっていた。The B-52'sが初めてMax'sで演奏したのは77年12月のことであり、翌年にはCBGBでも演奏している。そして二人の会話に出てきたラックスとは、The Cramps(クランプス)のヴォーカルであるラックス・インテリア(Lux Interior)で、彼は09年2月に大動脈解離によりこちらへ来た。クランプスはラックスと、彼の妻でギターのポイズン・アイビー(Poison Ivy)が中心となって76年に結成されたサイコビリーの元祖的バンドで、これまたラモーンズやB'sと同時期にCBGBやMax'sで演奏していた。 「そういやあ、この前アンディ・ギルが道路工事しててよ。アイツ、半年前に来たんだってな」 「肺炎か何かだったらしいけど、いま地上で流行ってる感染症によるものかもしれないって」 「へえ、じゃあアンディは今回、観客側なのか?」 「どうなんだろう?昔、Gang of Four(ギャング・オブ・フォー)とラモーンズとB-52'sって、フェスで一緒だったことあったよね」 「あったあった。ありゃ確か……」 「82年のUSフェスじゃなかったっけ?」 「よく覚えてんなあ」 その3組が同じステージに立ったのはリッキーの記憶どおり、82年9月3日のUSフェスティバル初日だった。英国のポストパンク・バンドであるギャング・オブ・フォーのギター兼ヴォーカルだったアンディ・ギル(Andy Gill)は二人の話にも出てきたが今年2月、呼吸器疾患によりこの町へ来た。昨年11月に中国ツアーを行っているため、ひょっとするとそこでCovid-19に感染し、初期の犠牲者になったのでは?という疑いもあるらしい。 ジョーイとリッキーの会話が当分尽きそうにないので、私はそっと退席して自分の部屋に引上げた。リッキーがあんなに楽しそうにお喋りしている姿を見るのは、久しぶりな気がする。観客にとっては勿論のこと、出演者にとってもCBGBやMax'sは様々な思い出の詰まった伝説のクラブだったのかもしれない。 70年代末のジョーイとリッキー♪ Jeffrey Ross Hyman (May 19, 1951 – April 15, 2001) ジョーイ・ラモーン John William Cummings (October 8, 1948 – September 15, 2004) ジョニー・ラモーン Douglas Glenn Colvin (September 18, 1951 – June 5, 2002) ディー・ディー・ラモーン Thomas Erdelyi (January 29, 1949 – July 11, 2014) トミー・ラモーン Erick Lee Purkhiser (October 21, 1946 – February 4, 2009) ラックス・インテリア Andrew James Dalrymple Gill (January 1, 1956 – February 1, 2020) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2023.08.03 15:25:31
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