Pastime Paradise

　「Mr.Boo! マイケル・ホイ（許冠文）祭」第14夜の今宵は、86年に公開されたマイケルの監督・脚本・主演作第7弾「歡樂叮噹」を御紹介。日本では「新Mr.Boo! お熱いのがお好き」という邦題でビデオ化された。
　邦題から分かるとおり、この作品は59年に米国で公開されたビリー・ワイルダー（Billy Wilder）監督の「お熱いのがお好き（Some Like It Hot）」をマイケル流にリメイクしたもの。
　15年前、本家米国版に出演していたマリリン・モンロー（Marilyn Monroe）の命日に「お熱いのがお好き」と題してこのマイケル映画を取り上げたことがあるのだが、誰も覚えちゃいないと思うので再度紹介したい。

　マイケル演じる發と黎小田（マイケル・ライ）演じる達は共に売れないギタリストで同居している。ある朝、部屋でボヤ騒ぎを起こしてしまい、家賃を滞納している二人は駆け付けた大家さんから逃れるため、窓から脱出。飲食店で従業員に色目を使って金を借りようとするも、変態と間違われて散々な目に。
　ナイトクラブで演奏している最中もTVで競馬実況をこっそり見ながらギターを弾いていて、つい応援に熱が入りギターのペースが速くなりすぎて演奏がどんどんスピードアップ。ステージで歌っていた歌手（演じているのは梅艷芳（アニタ・ムイ）！）が激怒し、二人はクラブから放り出されてしまった。
　達がアルバイトで携わっているバンドが演奏する金冠大酒樓（Golden Crown Restaurant）に發も連れて行った際、黃韻詩演じるバンドのマネージャー・李姐が東南アジアツアーが迫っているため、自殺したリードギターの穴埋めを早急に探すよう達に命じているのを發が耳にし、自分を入れてくれと頼むがバンドはガールズバンドだった。
　その夜、二人は發が懇意にしている女の一人、錢慧儀演じるMoneyの家を訪れるも、ベッドには街の顔役の息子であるリッキー（許冠英）演じる豬肉榮個仔がいた。何とか男を追いだしたが、すぐに仲間を連れて来たため、發は窓から逃げて足場の竹にしがみ付いていた。しかし眼下で行われていた麻薬取引＆殺害現場を目撃してしまい、竹から落下した發は袁祥仁（ユエン・チョンヤン）演じる油炸蟹（鉄の手）一味に気付かれてしまう。盲人に成りすまして逃れようとするがバレてしまい、教会に逃げ込むも駆け付けた警察に包囲される。追ってきた油炸蟹達は牧師に変装して先に教会を脱出、後から逃げようとした發は包囲網からの脱出には成功するが、油炸蟹の手下である王青演じる片目の男に命を狙われ、警察に助けを求めようにも大量殺人犯として指名手配されていたのだった。
　ガールズバンドの東南アジアツアーに同行する達は新たな女性ギタリストとして、声色を変えて女装した發である噹噹を連れていくことに。李姐は怪しむも、バンドのヴォーカルである鍾楚紅（チェリー・チャン）演じる叮叮が助け舟を出してくれたおかげで、噹噹も何とか乗船できた。發はキュートな叮叮に一目惚れするが、彼女は金持ちにしか興味がないからやめておけ、と達に忠告される。
　客船内で噹噹は叮叮と同室を申し出るも李姐と同じ部屋になり、荷物を持って移動しているところで董驃（トン・ピョウ）演じる鱷魚大王（ワニ王）の馬力沙と出会う。世界の99％のワニを持っているという大金持ちのボンボンである馬力沙は噹噹に好意を寄せる。
　叮叮とは噹噹として仲良くなったものの男として叮叮の気を引きたい發、男とは知らず噹噹に結婚を迫る馬力沙、發を追って乗船して執拗に狙う片目の男。男と煙草が大嫌いな李姐は噹噹を男だと見抜き、食っていくために見逃してくれと頼む發にメンバーとして残りたいなら叮叮は諦めろと迫る。
　タイに到着し、叮叮が寺に願掛けに行くと聞いた噹噹は金持ちボンボン・馬力沙の振りをして寺へ行き、偶然を装って叮叮に声を掛ける。Johnny Maと名乗るその男性がワニ王の息子だと信じた叮叮は結婚に持ち込むべく、今夜会おうと誘う。馬力沙からも誘われた噹噹は11時に会う約束をし、叮叮には12時に会おうと伝言があったと伝える。その夜、噹噹は馬力沙の船に乗り、貸切ったクラブで踊って酔い潰れた馬力沙をクラブに残し、彼のポケットから鍵の束を拝借。そして約束の12時、Johnny Maとして叮叮と会い、馬力沙の船や別荘を拝借して叮叮と一夜を過ごした。
　叮叮と別れた後、油炸蟹らが追いかけて来たことに気付いた發は、すぐさま荷物をまとめて逃げようとする。達に叮叮へ彼を忘れるよう説得してくれと伝言し、馬力沙からもらった高価なネックレスを叮叮に渡すよう伝えているところに叮叮がやって来た。何も知らず夢見心地の叮叮に対し、急いで噹噹に成りすました發はJohnny Maからの伝言だと言って別れを伝える。ガメようとしていた達が發に促されてネックレスを叮叮に渡すと、彼女は泣き出してしまった。
　噹噹のまま逃げ出した發は油炸蟹らに見つかってしまい、慌てて逃亡。しかし屋外ステージ上で悲しげに歌う叮叮を目にした發は噹噹の姿でステージに上がると歌い終わった叮叮にそっと口付けし、「忘れろと言ったろ」と發の声音で一言。追っ手に見つかった發は「忘れるんだ」と言いながら再び逃げ出すが、叮叮は發がJohnny Ma――いや、好きだった男性だと気付いて後を追う。置いていかないで、と桟橋を走って追いかけてくる叮叮に、危険だから君を巻き込みたくないと船を運転しながら發は拒むが、なおも追ってくる叮叮を遂に船に乗せ、後悔するぞと抱き寄せる。船には馬力沙も乗っていたが、彼の手引きで別荘に逃げ込み、油炸蟹と片目男はワニの大群にやられてしまう。發と叮叮にもワニが迫るが、何とか危機を脱出。發と叮叮はめでたく恋仲となったが、噹噹の婚約者である馬力沙に事実を打ち明けなければならない。
　帰りの船で噹噹は自分が如何に酷い女であるかを力説するも、馬力沙は全く意に介さない。最後にはカツラを外して「俺は男だ」と白状するが、「誰にでも秘密はある」と馬力沙はニンマリ。これには流石の發もお手上げなのであった。

　最後の「Well, nobody's perfect.（完璧な人はいない）」という台詞（ここでは「誰にでも秘密はある」）は本家「Some Like It Hot」でジャック・レモン（Jack Lemmon）演じるダフネ（Daphne）が最後にカツラを取って男だとバラした際の、ジョー・E・ブラウン（Joe E. Brown）演じる大富豪のオズグッド・フィールディング3世（Osgood Fielding III）の有名な台詞である。本家を見ていなくても十分楽しめるが、見ているとより楽しめるというか感心してしまう。
　興行的には振るわなかったが、マイケルの女装も意外と綺麗だなぁ…なんて思ってしまうのは私だけ？　恋愛モノが観客には受けなかったとマイケルは言うが、まぁ初監督作を世に出してから十数年が経ち、笑いがパターン化してしまったというのもあるだろう。

　前監督作「鐵板燒」に引き続きマイケルと共演している黎小田（マイケル・ライ）は元々は子役であったが70年代半ばからは作曲家、プロデューサーとして活躍。　
　タイのホテル屋外のステージで叮叮が情感たっぷりに歌う “喚回快樂的我” や、客船のステージで叮叮と噹噹が歌う “戀愛多一次” も彼の作曲・編曲である。ちなみに “喚回快樂的我” はマイケルが作詞している（※）。そしてどちらも歌っているのは叮叮を演じた鍾楚紅（チェリー・チャン）ではなく、樂壇大姐大（音楽業界の大姐さん）であった歌后（歌姫）・梅艷芳（アニタ・ムイ）だ。この作品ではクラブ歌手役でチラっと出演しているのみだが、歌手としてのみならず演技も達者なため映画にも数多く出演していて評価も高い。
　※ 映画で流れるサビの部分の歌詞はというと…
　♪是你的歡笑面　改變從前的我　為你唱出愛歌　是你那份純真愛　喚回快樂的我～
（その笑顔が私を変える　あなたのために歌うわ　あなたの愛が欲しいの　本当の私に戻りたいから）→からの發の口付け＆「忘れろと言ったろ」の台詞に繋がるわけですな。　
　
　この作品はとにかく鍾楚紅がキュートで、彼女の演技に同性でも胸がきゅんとなってしまうが、鍾楚紅がヒロインを演じた87年公開の張婉婷（メイベル・チャン）監督による名作恋愛映画「秋天的童話（誰かがあなたを愛してる）」、鍾楚紅の相手役には当初マイケルにオファーがあったという。マイケルが断ったため、結局周潤發（チョウ・ユンファ）が主人公・船頭尺役を演じて台湾の金馬獎で最佳男主角（最優秀主演男優賞）を受賞したが、マイケルのガチ恋愛モノも見てみたかったなぁ。叮叮にそっと口付けして噹噹が男だとバラすシーン、本当に格好いいもの

　最後はワニに食われてしまう可哀想なボス・油炸蟹（鉄の手）を演じる袁祥仁（ユエン・チョンヤン）は俳優・武術指導で活躍されている方で、袁小田（ユエン・シャオティエン）の息子さんである。袁小田といえば、マイケルの映画デビュー作「大軍閥」に出演されてたっけ。

　　　

　歡樂叮噹　Happy Ding Dong　1986年3月21日（香港）
　邦題 ： 新Mr.Boo! お熱いのがお好き　
　監製 ： 鄒文懷　導演 ： 許冠文　編劇 ： 許冠文
　制片商 ： 嘉峰電影有限公司（Paragon Films）、許氏影業有限公司（Hui's Film Production）
　發行商 ： 嘉禾電影有限公司（Golden Harvest）
　演員 ： 許冠文、鍾楚紅、黎小田、董驃、黃韻詩、袁祥仁、王青、曹達華、梅艷芳、許冠英
　音樂 ： 黎小田
　語言 ： 粵語（広東語）
　票房 ： HK$ 13,707,075（1986年第15位）