Pastime Paradise

　「Mr.Boo! マイケル・ホイ（許冠文）祭」第19夜の今宵は92年に公開された「神算」を御紹介。邦題は「マジック・タッチ」。
　マイケルが「歡樂叮噹」以来6年ぶりに監督を務めているが、マイケルの監督並びにリッキー（許冠英）との共演は今作で最後である。マイケル監督作はひょっとしたら今後もあるかもしれないが、リッキーは11年11月8日に65歳にして心臓発作で逝去してしまった。余りに早い弟の死にマイケルはインタビュー中でも度々涙ぐんでいたが、このマイケル祭でリッキーのおとぼけ演技をもう見られなくなるのは本当に寂しい。
　今作で活躍するのは香港四天王の一人・黎明（レオン・ライ）で、意外とマイケルとの息もピッタリだ。

　マイケル演じる許懷谷は「摸骨神算」の看板を掲げる骨相占い師。祖父は清朝最後の皇帝・溥儀を、父は中国建国の父・毛沢東の骨相を占った著名な占い師であったが、懷谷にその才はなかった。占いに訪れた陳喜蓮演じる何太（何夫人）は、ビルの入口でリッキー演じる管理人の阿發に呼び止められ、身分証の提示やあれこれ質問されてから通された。阿發がその内容を素早く懷谷にFAXで送信し、懷谷はそれを見ながら言い当たフリをする。すっかり信じた何太は高額の料金で夫の浮気問題を占ってもらう。どんな女性に気を付けるべきかと尋ねられた懷谷は、たまたま雑誌の表紙の梅艷芳が目に入ったので名前に “芳”（フォン）が付く女性に注意するよう忠告する。
　何太は早速夫である陳欣健（フィリップ・チャン）演じる何局長の勤務先である香港税務局（IRD）へ乗り込み、愛人問題を責め立てた。その後、何局長は黎明（レオン・ライ）演じるダメ局員・邱浩基に妻が置いていった懷谷の名詞を渡し、税務調査するよう命じる。くだらない仕事だと乗り気でない基は懷谷の店に出向き、阿發に呼び止められたがデタラメに答えた。対面した懷谷が嘘ばかりのFAX内容にしどろもどろになりながら、高額の料金で占い始めたところで基はIRDの調査官だと明かし、過去7年分の納税調査して未払いがないか確認すると言う。慌てた懷谷は普段は占いで金を取らず、ポン引きで稼いでいると誤魔化す。懷谷と一緒に暮らし、店の手伝いをしている10代の娘・劉小慧演じる許若蘭は商売女に、懷谷の義弟である阿發もホストのふりをするが、基の目は誤魔化せず、明日から毎日ここに来て客と収入の徹底調査をすると言われてしまう。
　早速占いの予約をキャンセルし、暫く予約電話も受けないことにした懷谷。飛込客が来ないようにと店の看板を外していると、男達に連れて行かれる女の子を目撃する。女の子を助けようと現場に駆け付けた懷谷は、助けた女の子から勘違いで頭を強打されてしまう。
　病院で目覚めた懷谷は看護婦の手を握った途端、看護婦がショックを受けてお化けに追いかけられると言い出す。見舞いに来ていた若蘭と基には懷谷の言ったことが理解出来なかったが、直後本当に看護婦はショックを受けてお化け（の格好で見舞いに来た阿發）を見て倒れた。退院後、病院の件は妙だと言う基に、懷谷は父と祖父には本当に未来を見通す力があったが自分にはなかったものの、あの日頭をガツンと殴られて未来を見通す力が目覚めたのかもしれないとのこと。そして懷谷は基の未来も言い当てる。半信半疑の基から再度占うように言われた懷谷は、基がIRD長官になっていると嘘をついて煽てたが、その後頭を打った懷谷はまたしても基の未来をピタリと言い当てた。
　一方、IRDは少し前に脱税疑惑のある方剛演じる洪森の事務所を家宅捜索した際に、証拠となる帳簿を探すのに100万ドルの金の仏像を破壊したものの、結局帳簿は見つからず、連日新聞で糾弾されていた。基は自身の出世のために、懷谷は自分を見逃してもらうために、洪森の骨相を見て帳簿を探そうということに。何局長にその旨を伝えたが、相手にされなかった。
　競馬場やサウナで無理やり骨相を見ようと触れてくる懷谷のことを、洪森はホモだと勘違いしていたものの、サウナ客が懷谷を見て九龍の良く当たる占い師だと噂しているのを耳にする。しかし懷谷は何度洪森に触れても魚影しか見えなかった。後日、洪森が手下を連れて懷谷の店に乗り込んできたが、基が盗んできた洪森の個人情報を阿發がFAXしたおかげでズバリ言い当てることが出来た。信用した洪森は懷谷と基を自宅に招待され、そこでも事前に隠しておいた指輪を懷谷が偶然見つけてしまう。すっかり感心した洪森は自身の養殖場で行われる麻薬取引に二人を誘う。懷谷は断ろうとするが、基は以前懷谷が占った際に長官になると言ったから自分には未来がある、つまりは死なないと言うことだ、と。懷谷は煽てるために出任せを言っただけだと分かってはいたが、結局基と共に危険な取引に参加することに。基は再び何局長に伝えたが、すぐに追い返された。
　魚に隠した麻薬を取引中に撃ち合いになり、洪森と懷谷と基以外の人間は死んだ。そしてふとしたことで基がIRDの調査官だとバレてしまい、洪森は二人に銃を向ける。懷谷が足を撃たれ、絶体絶命のピンチに陥ったその時、何局長と吳家麗（キャリー・ン）演じる警察上層部にして何局長の愛人である方芳芳（フォン・フォンフォン）が船で駆け付けてきて――。

　あらすじには出さなかったが、方剛演じる洪森の手下でありながら最後に裏切った弁護士・Williamを演じた黃子華（ダヨ・ウォン）。香港のスタンダップ・コメディの祖と言われる彼は90年代から活躍した人気コメディアンで、今作が映画初出演にして初脚本。
　そして香港四天王と呼ばれる張學友（ジャッキー・チュン）、劉徳華（アンディ・ラウ）、郭富城（アーロン・クオック）、黎明（レオン・ライ）の4人の中で、日本の新御三家でいうと野口五郎さん的ポジションだった（あくまで個人的な思い込み）黎明が、ここまでマイケルと相性が良いとは！今までのマイケル作品にこういう清潔感があってぽわんとした二枚目キャラはいなかったせいか、とても新鮮であり、二人の関係がまるで親子のようで見ていて微笑ましい。
　主題曲 “兩心知” を歌っているのは歌手でもある黎明で、この曲はASKAの “はじまりはいつも雨” を広東語でカバーしたもの。黎明のソフトな歌声がよく合っている。

　「神探朱古力」「新半斤八兩」では監督を務め、「智勇三寶」でも主人公コンビの上司を演じた陳欣健（フィリップ・チャン）が、今作も邱浩基の上司である何局長役で出演。
　おまけに「合家歡」で小便器で手や林檎を洗うマイケル演じる海南島出身の雁歸南を見て移民を即決した男を演じた楊凡が、競馬場でチラリと出演している。そういえば「合家歡」に出演していたおばちゃん、許芬も今作では邱浩基の母親役を好演。

　マイケルが演じた許懷谷という役名は、サム（許冠傑）の次男である許懷谷（スコット・ホイ）と同じ名前だという。ちょっとほっこり。

　92年3月14日、マイケルはシカゴ美術館フィルムセンター（Film Centre of the Art Institute of Chicago）でイリノイ州知事から優秀映画アーティスト（The Distinguished Film Artist）として表彰されたそうな。おめでとう

　　　

　神算　The Magic Touch　1992年1月24日（香港）
　邦題 ： マジック・タッチ　
　出品人 ： 許冠文　監製 ： 許冠文　導演 ： 許冠文　編劇 ： 許冠文、黃子華
　制片商 ： 許氏影業有限公司（Hui's Film Production）
　演員 ： 許冠文、黎明、許冠英、劉小慧、方剛、黃子華、陳欣健、吳家麗、楊凡
　音樂 ： 劉以達　主題曲 ： 黎明
　語言 ： 粵語（広東語）
　票房 ： HK$ 36,399,307（1992年第7位）