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2023.09.24
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カテゴリ:許冠文&Mr.Boo!
 「Mr.Boo! マイケル・ホイ(許冠文)祭」第21夜の今宵は93年に公開された「搶錢夫妻」を御紹介。邦題は「いつも心の中に(いつも心のなかに)」。これは英題の「Always on My Mind」が元で、原題は “金銭強奪夫婦” という香港らしいタイトルだが、どちらも内容をよく表している。
 マイケルは出品人と主演のみで、監督は張之亮(ジェイコブ・チャン)。彼の作品の多くは所謂 “文藝片” と呼ばれる感情表現やキャラクター造詣、物語の展開に重点が置かれる非商業映画であるため、今作も香港映画特有のおバカさはなく、シンプルに心温まる物語だ。
 私はこの作品を観るたびにマイケルの演技に号泣させられてしまう…。

 マイケル演じる蔣有為はCCNのニュースキャスター。有為の妻で専業主婦の蕭芳芳(ジョセフィン・シャオ)演じる蔣燕との間には3人の子供がいる。陳少霞演じる長女・蔣家詩魯文傑(サイモン・ロー)演じる米国帰りでギター好きの彼氏・阿当(Adam)と結婚すると言い、鄧一君演じる長男・蔣家聰はゲーム好きで気が多く、女の子にフラれて死にそうに落ち込んだかと思えばすぐさま別の女の子と仲良くなったりと忙しく、左詩蓓演じる次女・蔣家敏は小学校に入学したばかり。
 ある時、有為は本番中に腹痛が起こったものの代理を立てて放送は事なきを得たが、Joe Junior(祖尊尼亞)演じる局長からは常々給与分の仕事をしていないと解雇予告される。そして元々仕事がしたかった燕は次女の手が離れたのを機に児童ダンス教室で働くことに。
 ある日検診を受けた有為は癌の疑いがあると医師に告げられる。そのことを家族に告げるも、いつも大げさに言うからと相手にされない。翌々日精密検査を受けたところ、腸の癌と告げられる。レントゲン写真を持って他病院で友人のふりをして尋ねてもやはり同じことを言われ、余命3ヶ月と宣告される。帰宅して燕に告げようとするが、娘の結婚に息子の留学、家のリフォームに車の買換…とお金がいっぱい掛かると愚痴る燕を前に有為は本当のことが言えず敢えて明るく振舞い、燕から検査結果を尋ねられたが単なる脅しだったと嘘をついた。
 夜中、現場手当欲しさに遊園地で起こっている事件の現場中継に出掛けた有為は、犯人グループと警察隊の銃撃戦に巻き込まれそうになる。カメラマンが落としたカメラを拾ってお化け屋敷に逃げ込んだはいいが、お化けに驚いてカメラを落としてしまう。そこへ犯人の一人がやって来て、有為はお化けのフリをして誤魔化そうとしたがバレたため、犯人を殴打した。やがて警察隊は犯人グループを逮捕して報道陣のインタビューに答えていたが、犯人の一人を捕まえたのが有為であることは警察の面子に関わることだからと黙っていた。その後、有為は臨場感たっぷりの現場レポートと落としたカメラに偶然残っていた犯人殴打の映像を自己責任で放送し、報道局フロアの連中からは拍手で迎えられたものの、局長からはあれがニュースか!とクビにされてしまう。
 後日、局長らは有為の自宅を訪れ、中継が大好評だったこと、そして死の前の言葉は説得力があるので有為の病気を公表したうえで好きにやればいいから戻ってくれと頼む。遺される家族のために少しでも多く稼ぎたかった有為はこの案を承諾。局長らから夫が癌だと聞いて庭で号泣している燕に、癌は嘘だ、視聴率が上がれば給与も上がるから3ヶ月間癌のフリをするだけだと言い聞かせ、燕はその言葉を信じた。
 キャスターに復帰して癌を公表した有為はスバズバ私見を述べて大人気となり、自殺しそうな少女を助けたり、警察署長から公式の謝罪も受けた。そのうえ張之亮(ジェイコブ・チャン)監督の映画に出演したり、CM出演やらで大忙し。妻との時間もあまり作れなくなった有為は燕にマネージャーを頼み、子供達との時間もなかなか取れなくなった。多忙なあまり夫婦間がギクシャクし始めた頃、10万ドルの高額ギャラで有為の命日イブ・パーティー開催の依頼が入る。家族揃っての出演予定だったが、有為に結婚を反対されている家詩は阿当と来ている澳門に掛かってきた電話を拒否し、TVでその様子を観ていた。乾杯のスピーチを任された有為は様々な思いが交錯して何も言えず、黙って杯を空けたのだった。
 後日、帰宅した家詩は探し物をしていて偶然有為のレントゲン写真を見つけてしまう。家詩と阿当のフォトウェデイング会場に有為も燕に連れられてやって来た。父娘のツーショット写真撮影で家詩は上手く笑えず、結婚をやめた方がいいかと何度も有為に尋ねる。バカなことを、幸せになれと言う有為に家詩はレントゲン写真を見たと明かす。
 有為の仕事場に家詩と阿当が白人男性を連れて駆け付けてきた。彼は阿当の大学の癌専門医で、手術を受ければ助かるかもしれない、今だと手術の成功率は5割だが先延ばしにするほど確立が下がる、と家詩が泣いて縋るので、取材出発前で急いでいた有為は今夜必ず返事をすると言い残して車に乗り込んだ。家敏の小学校に出向き、パパは遠い所に行くかもしれないと娘を抱いて優しく、それとなく別れを告げる有為。
 初出勤時のスーツを着、燕と二人きりの朝食を取った有為は生放送5分前にスタジオに入り、遅刻だから給与カットだと言う局長に辞表を提出。そして挑んだ生放送で有為は、先程辞表を提出したこと、上層部が視聴率稼ぎに病気を大々的に宣伝して有名になったが、自分では癌という事実を受け入れられられずに来たと語りだした。その放送を美容院で視聴していた燕は店を飛び出して急いで局に向かう。有為は尚もメディアの報道を鵜呑みにせず、自分でよく考えるべきだと説き、今自分の人生で最も大事なことは妻との約束だと言い残してピンマイクを置いて席を立った。後輩キャスターに別れの挨拶をし、スタジオに集まった社員達からの拍手で見送られた有為は、真実を知り駆け付けてきて涙を流す燕に笑うようにと言いながら二人でスタジオを後にした。
 浜辺で有為は前から燕が行きたがっていたカリブ海行客船のチケットを2枚渡し、どちらか一人が行けなくなれば払戻は可能であり、何なら途中で誰か拾ってもいいと言うが、燕は手術をやめて今から一緒に行こうと泣き縋る。有為はそんな号泣する妻を優しく抱き寄せ、二人は抱き合って暫し別れを惜しむのであった。
 有為と燕が手術先の病院に到着すると待ち構えていた報道陣から無数のフラッシュを浴び、他病院からの手術の誘いや保険会社からの生命保険の勧誘を受ける。それらを撥ね付けて控室に入ると、子供達が待っていた。手術が始まり、有為の手術状況が放送される中、待合室で待機する燕に医師から有為が託した手紙が渡される。“皆を愛してる” と――。

 日本版はここまでで、最後に主題曲 “Always on My Mind” に乗せて蔣一家の思い出写真の数々が流れて終わるのだが、有為の手術が無事成功して病室に戻っているシーンを見た記憶があるので、そちらは本国版かな?

 この作品を許氏影業有限公司(Hui's Film Production)と共に製作した電影人製作有限公司(United Filmmakers Organisation。略してUFO)は90年代初頭に曾志偉(エリック・ツァン)、陳可辛(ピーター・チャン)、張之亮(ジェイコブ・チャン)、阮世生(ジェームズ・ユエン)が設立した会社である。なので出品人(製作総指揮)をマイケルと曾志偉が務めており、監督は張之亮、脚本を阮世生が担当、そして何故か主題曲を監督やプロデューサーとして知られる陳可辛が歌っている。

 医師から癌の疑い有りと診断された際、診察室の卓上カレンダーの写真は張國榮(レスリー・チャン)だった。そして腸の癌で余命約3ヶ月と言われた有為は卓上カレンダーを手に取り、「劉德華(アンディ・ラウ)の今月は無事」、1枚捲り「郭富城(アーロン・クオック)の来月も」、また1枚捲り「張學友(ジャッキー・チュン)の月に悪化」、そして更に1枚捲って出てきた黎明(レオン・ライ)の写真に押し黙ってしまう――というシーンがある。
 これは黎明と共演した「神算」の記事で触れた香港四天王を笑いのネタにしている。黎明、普通にイケメンながらどこかもっさりしているが、「神算」での演技はなかなかよかった。
 そういえば、阿当と結婚すると言う家詩に「ギター一本で成功した奴はいない」と反対する有為に、「サム・ホイがいる」と答えるシーンが。サム・ホイといえば勿論、ホイ兄弟の四男で “歌神” と呼ばれる香港音楽界のスーパースター・許冠傑(サミュエル・ホイ)のことである。

 「丐世英雄」でマイケル演じる馬偉の部下・阿羊役だった雷宇揚(サイモン・ルイ)が、今作でも有為の後輩キャスター役を演じている。
 でもって局長役のJoe Junior(祖尊尼亞)は香港生まれのポルトガル人だが、「半斤八兩」で石堅(シー・キエン)演じる九叔率いる強盗団に路地裏で脅されて追いはぎされる役や、「摩登保鑣」にも賭客の役で出演している。

 マイケルの可笑しくも悲しくて切ない演技に胸を打たれるが、妻役の蕭芳芳(ジョセフィン・シャオ)も素晴らしい。
 彼女は50年代半ばから子役として活動し、70年代にはTV番組で演じたキャラクター・林亞珍が人気を博して、林亞珍の映画もいくつか作られた。その内、82年公開の「八彩林亞珍」にはリッキー(許冠英)も出演している。その後数々の映画賞で最佳女主角獎(最優秀主演女優賞)を獲得、97年には英国女王からMBE(大英帝国勲章)を授与されている。そんな香港が誇る大女優である蕭芳芳とマイケルが組んだ作品なのだから、素晴らしいのは当然だ。
 
 94年4月に開催された第13屆香港電影金像獎では最佳電影(最優秀作品賞)、阮世生が最佳編劇(最優秀脚本賞)、蕭芳芳が最佳女主角にノミネートされたが、いずれも受賞には至らなかった。

 これまでのマイケル作品で恐妻に頭が上がらない役はいくつかあったが、こういう家族愛がテーマの作品は今作が初めてなので、マイケルの良き夫・良き父親ぶりが窺えて本当に嬉しい。

   

 搶錢夫妻 Always on My Mind 1993年12月22日(香港)
 邦題 : いつも心の中に(いつも心のなかに) 日本公開 : 1994年11月9日
 出品人 : 許冠文曾志偉 監製 : 鍾珍 導演 : 張之亮 編劇 : 阮世生
 制片商 : 許氏影業有限公司(Hui's Film Production)、電影人製作有限公司(United Filmmakers Organisation)
 演員 : 許冠文蕭芳芳陳少霞鄧一君左詩蓓魯文傑雷宇揚劉玉翠Joe Junior
 音樂 : 陳永良 主題曲 : 陳可辛
 語言 : 粵語(広東語)
 票房 : HK$ 18,739,620(1993年第12位)





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Last updated  2023.09.24 19:52:02
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