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2024.06.24
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カテゴリ:池田可軒さん
 帰国した池田筑後守(可軒さん)は使節団の副使・河津伊豆守、目付・河田相模守と連名で、建議書(佛國行帰府上申)を提出した。
 この中にある建議5項目についても各項目ごとにそれぞれ詳しく記述してあるのだが、メインの建議書だけでも結構なボリュームなので、今回は建議5項目の詳細は割愛する。
 可軒さんは一体どのような思いでこの建議書を書き上げたのだろうか…。

  建 議 書
  三名趣意柄申上候
  佛國巴里府より、一と先、歸府仕候、趣意柄申上候、書付
 私共義神奈川港鎖閉、其他、諸事談判の爲御條約濟各國へ、爲御使、被差遣候に付ては、佛國へ、最初、罷越候義は、道路、自然の順のみにも無之、井戸ヶ谷殺傷、長州發砲等、同國へ被爲對候ては、種々の事件、差重候間、自來、御不都合不相成樣、談判仕候義は勿論、鎖港の義も、御國在留、同國ミニストルには、英國荷蘭等、外國のもの共違ひ御都合可取計樣子も相見え、且、同國に於ては、全世界上にて、英國とも、並稱被候位の國柄、殊に、當時、國帝第三世ナポレオン事は、自今、歐洲各國、皇帝の内、口利にも御座候間、同國に於て、談判取纏り候得ば、外各國にて異議は有之間敷と存候、旁以て、同國を目當といたし、罷越、先づ井戸ヶ谷一條より、談判相始候、殺傷被致候、士官家族、扶助金として、金參萬五千弗、持越候御用金の内より相渡し、尚、長州の事件に押移り、兼て相伺候趣も御座候間、御處置可被及次第は、内談にて相我盡し、夫是談示仕候處、彼方にて下の關通航並に償金の義申立て、下關通航の義は、元より相當の所望に御座候間、夫々御處置の次第申約し候共、償金の廉は、尤之筋にも不相聞候間、シーボルトへ承合候處、最初、砲撃を請候後、態々、軍艦差遣し、國籍に對候丈之報告致候得共、所謂、争端をひらき候爲め、軍艦差遣候故、右入費も償候は、西洋各國の通法に有之、既に於ても先代ナポレオン各國へ兵を向候に付、近來迄、年賦償金差出居候、例も有之趣相聞き、強て無謂筋にも、相聞き、不申、就而、勘辨仕候處、鎖港の義、談判仕候に、彼方、氣配相損し、御國政府、御懇親の御趣意、徹底不仕候ては、迚も相纏り兼候義に可有之と存候間、曲而、差遣し可申積にて、談判仕候内、右員數相違いたし、前後不都合の事共御座候得共、後段の談判を、大切と心得候間、程能會釋、右所望通り約束仕り、追々、鎖港の談示に押移候處、先般、兩都御開事延期之義に就き、御使、被差遣候節約束三ヶ條、今以て御取引延引いたし御違約も同樣に相當り候間、其節、御談判申上候通、右談判引戻し、即今、軍艦差向け、兩都两港共、直樣御開被成候様御談判申上積に而、已に英蘭政府とも、打合相居候へば、右は御國御迷惑に可相成と存候間、當時、御開相成候、三港とも、其代りとして、無税の商賣、御許相成度段、意外の難題申懸け、一體、無税商賣と申候義は、西洋各國、何れにも其例無之、僅々獨逸連合洲中、軍堡等一兩國御座候得共、右は因よりフレースターテンと相唱え、國主も無之 國民寄合持の國柄に而、比例には相成不申、對待の國にては、何れも比例無之趣、御國においては、内地商民、運上無御座候上は、尚更御不都合之筋に有之、最も即今、御國、一廉の御都合をも、取計候筋に候はゞ、亦、格別の義に候へども、左も無之而は、右樣の次第に至り候事者、難得其意、筋に付、精々、談判を盡し罷在候内、既に手切にもおよび可申、勢も相見え、鎖港談判等は、中々に受取可申樣子無之候共、遠海の處、能々御使をも被遣、御和親御保續の爲め、一時御國内、人心鎭定の御趣意、首尾詳悉、御懇親の御意味合を主張し、極力、論辯及び候處、彼方に於ても、和親の御交誼に對し、懇親の意を以て、條約妨害致し候、凶徒御鎭定被成兼候はゞ、何樣にも國内の軍賦を以て、御加勢も可申上旨申立て、此方より申談候、御懇親の廉とは、意味行違候へども、話は同盟の結交の誼に對し、右加勢御受不被爲在候而は、矢張、御懇親の趣意に戻り候樣相成候義に而、彼方に於て、假令、野心を挾み、情實難計候共、言辭の處、無此上懇親の筋に相當り、世界列國へ聞得も有之、御趣の意不模通候とも、あながち彼方の國へも難申、且、井戸ヶ谷、長州一條とも己に熟談および、唯此事に至り不直の名義被爲請彌以御手切に相成候、而は一體の御趣意も、全く畫餠に歸可申は申迄も無之、却而彼方の股中に陥り、詰り、鎖港の義は扨置、兩都兩港開市の期限迄、彼方見込通相促し候も、同樣の勢に相成る可、且つ西洋各國の形勢、何れも御國に垂涎仕候、只管事端を尋ね、兵端相開度存寄は有之候共、遠海の地、萬里の懸軍、持久の計行屆兼候處、斟酌致し、且互に利を爭候上は、申合方行屆申間敷と、各懸念いたし居候樣子に、自然蘇士地狹堀割出來、歐洲各國の軍艦、喜望峯を不相廻、直接東洋罷達し候樣相成候はゞ、海路も三分の二を减じ候樣、可相成、將御國に於ても、各國えも爲對御信義相立兼候事共差重り、各國の忿怒を生じ候樣之、機會ためらひ居は其期に至り候はば、不期して、連衡合同致し可申候間、其節彌、東略の志を逞いたし度遠望有之哉之候義相見え候折柄、御國方今の御模樣、返顧仕候得者、公武合體の義、先頃御上洛の御一擧に而、彌以御首尾相懸候事と、被存候共、今以、人心折合にも至り兼、内地民心、一和不仕候上、海陸軍備も、未だ充實不相成候而、五洲萬國御敵に被爲、引受候事者碫卵の勢、全國の安危存亡、如何有之哉、乍恐、御無算の至りにも可有之被存候。右樣中外の形勢、參互勘辯仕候へば、唯今内何れとも萬國に相勝れ候、御目立の御工夫第一に、御盡力被爲在、御國内反復し者は、幾重にも御力勢御座候而、政府の御威權、確に相立、外國より可申上詞柄無之、將指すべき衅端無之樣、御仕向相成候而、懷綏の御趣意を以て、御條約の明文御違背無之、確固と御遵奉被爲在、海陸二軍共充實の御備早々相立候運に、相成候樣仕度、將西洋各國の動靜相探り候處、互に隙を伺ひ併合の慮有之、目今の樣にては、歐洲各國三五年を出でずして、可及大亂兆も相見え候間、御國内御鎭壓被爲、計内治御行屆に相成候上は、各國分裂の虚に乗じ、如何樣とも御畫策可有之、然る處今破約に陥入候へば、各國合同致し、却而歐洲は無異に歸し、御國の災害に罷成候義は、必然の勢有之、夫是の處、篤に勘辨熟慮仕候共、今更申上候は恐入候得共、一體御國内不折合より政府の思し召に無之候とも、不得己鎖港可被及との義は、無據御伺柄とは乍申、佛國に於て御國へ對し、懇親相立候廉、此方申談候處は、前申上通、意味行違居候處を以て、西洋各國の所見推考仕候へは、却而侮慢を長し、覬覦を來し可申筋合にて、強而此方より申談候は、結局御國政不行屆を露し候義に相當り、自威權を貶候筋にて、乍恐御國辱の端にも可有之、將右の義を以て、御條約御違背の廉に押据へ、何樣の難題可申立も難計、事體 無據塲合、手切に至り候はゞ、大切の國事を誤り候事と、苦心仕り、尚政府御誠實の趣を主といたし、折曲申聞候。無税貿易の議、強而及斷右鎖港談判承引仕り候議有之候共、請求の趣尚勘辨も可致旨申談候處、鎖港の義は幾應談判を遂げ候得共、兼而英國其外不承知の義に付、堅く及斷候共、御國政府御懇親の段は、御使にて了解、既に此程同皇帝にも於御國軍艦御入用の趣、被承及、御國へ對し、格別懇親の意を表し、得證として自國海軍隊の内より、軍艦譲渡可申旨同國帝意裏より出し趣申聞候。三港無税の談示も確との口上は無之候共、先此方鎖港の談判に、引分れの談判と相成、至極折合宜敷候間、右を汐と致し、談判取纏方、調印仕候事に有之、尤も各國とも、鎖港の御同意申上上候はゞ、其節再談可仕樣、申聞候共、右は全く、各國とも同意仕間敷を見込、程能く申上候事に而、固より以て、難信筋に有之、全體佛國の義は、前申上候通り、鎖港一條に付而は、稍手心義御座候處、既に右樣の次第に御座候上は、此上英國え罷越候とも、最初同國より御國え差越候、ミニストルアールコツクと、上海表に於いて、面會の砌、一と通趣意柄申聞候處、既に兩都兩港をも、模樣により直樣御開可相願仕之心組に御座候上は、御談の趣、迚も本國政府に於て、快くは存申間敷旨申聞、右等參勘仕候共、幾重に申談候共、承引仕間敷は、眼前の義に有之、佛英兩國、已に如此御座候上は、外國々とても、固より同樣の義に可有之、將一兩國御同意申上候者御座候共、兩強大國不承知の上は、御趣意通りは貫徹可仕樣も無之は申迄も無之義、加之、英國に於ては、當春、長崎表に於て、同國人に切懸候ものも有之、急速御詮議、御行屆不被爲仕候哉にも相聞、旁々佛國同樣御談判穏に、引分れ可申哉か難計、自然此方談判の廉を以て、御條約御違背などゝの名義に引附け、彼是差結び、彌兵機を以て相迫り候場合に至り候へば、無御據義とは乍申、私共談判不行屆より、双方之不都合引起候樣に而、如何にも恐入候義、將重御國書等も有之、一々右に對し、侮慢の振舞御座候節は、私共萬死、無償之罪は申迄も無之、御國體 に差響候事、是非共争端御開不相成候而は、難被差置時宜に至候はゞ、得失成敗の義は、前申上候通りの義にて候處、見す見す國家を陥入、加之、隠然背叛之輩、此擧に乗じ、奸計を相設候は必然の義と、深く恐入候間、再三評議を盡し、既に召連候支配向迄も、一同見込承糺し、筑後守、伊豆守内壹人は、本地より引分れ立戻り、一體之次第申し、壹人は、御使相勤候方にも可有之抔と迄、評議相盡候へ共、左候ては第一體裁も不宜、將御使相勤候方は、矢張是迄之御趣意、押立談判仕候義に付、其内案外、行違生可申哉も、難計義に而、是以恐入候筋に奉存候間、兼而奉伺置候通、一同一と先歸府仕、一體の事情逐一申上、鎖港之義を以て、戰爭の端を被爲開候は、無上之御失擧に可有之と存候、見込之處不包申立候方、御爲可然義と評決仕候、尤彌以、御條約御保守相成、交誼永續之御宸基相定候上は、右等之次第、尚亦、各國へ御布告の爲め、御使被差遣候樣、相成可申、其節は再度、可仕積申合、但御使命の趣有之候國々の内、亞米利加、荷蘭之三國者長州一條をも兼、談判可致筈に有之、英國には鹿兒島表之義事濟には候共、一應は申談候積、其爲御國書等も御座候事故、右之國へは別段私共より、政府宛書管差遣し、一と先歸國仕候趣意柄申述べ
(本文之通申遣候處英國公使より本國事務大臣之命を受返書差越候處條約に相違いたし候義は女王と雖とも其詮なく若又之を論ずる共徒に空論に属する外無之旨申越候義に御座候)
外孛漏生、魯西亞、葡萄芽へは、巴里在留之公使迄、斷返し之書差遣し、瑞西國者、御條約濟の廉を以て差遣候筋にて、外國々とは別樣には御座候共、緊急之談判向も差置 御廟議相伺候爲、一と先歸國仕候際に臨み、同國而己も可罷越、無謂も無之候間 是亦、同國巴里在留公使へ斷返しの書管差遣、當五月十七日、巴里引拂、同國馬塞里に於て飛脚便船待合、同二十五日英國飛脚船へ乗船、歸府仕候、一體御自立の御基本相立候には、御國内一和相成候は、尤以其根本に而海陸二軍の御備は勿論、各國御交際にも、格別御注意被爲仕、御信義相立候樣、御覺悟無之候而は、不相成、就而は、彼方事情、御探索相成候而も亦第一義に御座候。私義見込之處にては、第一、辨理公使歐洲各國へ被差置度、第二、歐洲而已に無之、外獨立の邦々は、何れも條約御取結相成、萬一之節伐謀伐交之御方略有之度、第三には海陸二軍之方法、西洋の長所を被爲取候爲め、留學生差遣に相成、修業爲仕度義、第四には、西洋諸洲、新聞社中に御加入相成、彼我之事情相通候仕度義、第五には、御國民、自在外國へ相越え、商賣は勿論、彼方事情も心得候樣仕度義、夫是之次第は、別紙申上候通りに御座候間、篤と御熟覧被下度、私共見込之通、鎖港の義は御見合せ相成、御自立の基本、御定相成方、専ら御從事被爲仕候はゞ、御國體を被爲重し、御國威を不被爲汚義に而、外國より、不信不義の所置御座候節は、何れも其罪を御糺し被遊候事、相叶候筋に付、假令鎖港不被爲仕候とも、尊王の御趣意に取候而は、此上も無之義に而、宸裏をも可被爲安御事と、乍恐奉存候間、京都へは、私共實地目撃の上申上候、前文之次第を以て、誠實に御奉上御座候はゞ、御氷解被爲可被爲在義と奉存候。依而私共佛國在留中、對話書、並に爲取替候約定書、扶助金請取書、原書、譯文、巴里引取之節、外國々在留公使へ差遣候書寫、同返書、並に英、亞、蘭外國事務大臣への書管寫、將私共進退に付、被是嫌疑の爲め播告爲仕候新聞紙案とも相添へ、此段申上候以上。

 ノート 参考文献
・『痴遊雑誌』第1巻第6号(話術倶楽部出版部)昭和10年
  『不二文庫〔三〕幕使池田筑後守の建白書』
・小林久麿雄『幕末外交使節池田筑後守』(恒心社)昭和9年
・尾佐竹 猛『国際法より観たる幕末外交物語』(邦光堂)昭和5年
・田辺太一『幕末外交談』(冨山房)明治31年
・明治文化研究会 [編]『明治文化研究 第2集』(日本評論社)昭和43年
  高橋邦太郎『悲劇の大使――池田筑後守事蹟考』





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Last updated  2024.06.24 23:54:36
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