ハーバード経済日誌(その31)
授業あれこれ2私が取ったジム・ハインズのミクロ経済のコースは、API101というコース番号が付いている。101というのは入門コースに付けられる番号だ。かつてジョン・F・ケネディ大統領は、新聞記者から「なぜ減税をするのか」と質問され、こう答えた。「経済を刺激するためだ。君たちは経済101を覚えてないのか(To stimulate the economy. Don’t you remember your Economics 101?)」101は必修科目である場合が多く、ケネディ・スクールでもミッドキャリアの学生かそれに準ずる学生以外は必修科目になっていた。大勢の学生が取ることになるので、AからEまで5クラスに分けられた。Aは微分を使うクラス、Eは主に都市計画やデザインを将来専攻する学生のためのクラス、そのほかは微分を使わないクラスで、それぞれ別々の教授が教える。私はミッドキャリアなので、101を取る必要はなかったが、何しろ経済学を大学レベルで履修したことがなかった(教養課程では一度だけ取った)ので、好奇心も手伝って取ることにした。しかも半ば無謀にも、微分を使うAコースを選んだ。そして何を隠そう、私が取った5コースのうちいちばん苦戦したのが、このミクロ経済だった。経済部の記者なら、マクロ経済のことは経験的にわかるが、ミクロ経済となるとほとんど遭遇することもない(つまりあまり現実的でない)事象だからだ。微分などの細かい計算方法や法則も、私はすっかり忘れていた。授業は月曜と水曜の八時半から一〇時までの週二回。金曜日には経済の博士課程を取っている助手の学生によるレビュー(復習)のクラスがあった。このレビューのクラスは大変役に立ち、その週でやった難しいところを解説してくれる。なるべく「落ちこぼれ」が出ないように救済するシステムともいえる。さすがに授業料を二万ドルも払っただけあって、学生に対するケアが行き届いているな、と思ったりもした。この救済システムは統計やマクロ経済、国際金融のコースにもあり、金曜日はレビューのクラスが目白押しとなっていた。私も大いに「救済」されたことは言うまでもない。