ハーバード経済日誌(その75)
グリーンスパンは何をするのか?さて、これまでの基本的な経済事象を踏まえたうえで、ドミンゲスのコースで実際に出された中間試験を解いてみよう(今回は英語の勉強も兼ねて、原文を書きます)。1) On October 20, 1987 (the day after the stock market crash), Fed Chairman Greenspan issued an extraordinary public statement, “the Federal Reserve, consistent with its responsibilities as the nation’s central bank, affirmed today its readiness to serve as a source of liquidity to support the economic and financial system.”(a) What are the policy tools that the Fed has at its disposal, to follow through with this “liquidity”assurance?(b) How, specifically, can the Fed go about implementing its policy tools?(c) How would you expect these actions to influence the dollar exchange rate (assuming no changes in foreign monetary policy)?(a)の前半部分は簡単だ。国際金融論2で述べた公開市場操作、金利政策、準備預金という三つの政策手段(tools)を書けばいい。問題は後半の「流動性の確保を完遂するため」と訳せる部分。前日株価が下落したのを受けての発表だったことに留意しなければならない。一番恐ろしいのは、先行き不安からパニックになること。銀行など市中に潤沢に資金がないと、不測の事態に対応できなくなる。そうした不安を払拭するためにも、資金が十分に市場に出回っているようにしなければならない。そのためにグリーンスパンができることは、マネーサプライを増やすことだ。そのマネーサプライを増やすには、買いオペをする、金利を下げる(あるいは貸し出しを増やす)、準備率を下げる、の三つの政策を実施すればいい。(b)は三つの政策を具体的に論じればいい。買いオペとは実際に何を実施し、実施するとどうなるのか、金利を下げる(あるいは貸し出しを増やす)とどうなるのか、準備率を変動させるとどうなるかを説明する。(c)の解答も流動性がポイントだ。グリーンスパンは「流動性確保」のため、マネーサプライを増やす方針を打ち出した。つまり金融緩和策だ。国際金融論5で書いたように、マネーサプライの増加は、流動性効果により短期的には金利を下げる。金利が下がると、アメリカ・ドル建て財産(ドル預金など)は、他国の通貨建て財産に比べて魅力が薄れる(リターンが少なくなるから)。するとドルに対する需要は減り、ドルが他国通貨に対して安くなる。ただし、マネーサプライの増加により物価が上がったり、所得が上がったりすれば、金利は上昇に転じる。また今回の場合、グリーンスパンは株価暴落を受けて緊急避難的にマネーサプライを増加するわけだから、金利が多少下がったとしても為替に対する影響は少ないとみられる。