カストロが愛した女スパイ154
▼録音テープ2 マクドナルドは「特殊部隊」の話には興味を示さず、質問の焦点をダラスに向けた。「彼(スタージス)とは、ダラスの件について話したのですか?」「ダラスへ行ったときの話です。それから、同じく五九年から私が知っている、ニューヨークのフランク・ネルソンという男から別の脅迫がありました。"お前はダラスの件をぶちまけやがったな。どうしてそんなことをしたんだ?"って」ネルソンは、CIAやFBI、マフィアと関係がある武器商人だ。カストロ暗殺計画にも携わった。ロレンツは1959年に、カストロ転覆計画を練っていたCIAのエージェントからネルソンを紹介された。ロレンツの口ぶりから、おそらくケネディ暗殺事件にも絡んでいたとみられる。 「その会話もテープに録音しましたか?」 「はい」 「それもまだ持っていますか?」 「はい。同じテープには別の会話も入っています。スペイン語を話す女が電話を掛けてきて、"お前はもう終わりだよ"と私に告げました」 「ロレンツさん。今年(78年)の三月、正確に言うと三月二十八日、あなたは我々のスタッフの一人であるフォンジと電話で話をしましたね」 「はい」 「その中で、あなたはニューヨークの福祉局との間で問題あると話しましたね」 「その通りです」 「それで、あなたの娘が学校を辞めなければならなくなるとの趣旨のことを言いましたね?」 「その通りです」 「ハーレムで配達人として働くために」 「その通りです」 「ニューヨーク市の福祉局とはどのような問題があったのですか?」 「もう何もありません」 「でも、そのときは問題があったのでしょう?」 「問題はありません。私に問題があったのです」 「今年三月の時点で、あなたは生活保護を受けていましたか?」 「はい、受けていました。同時にフランクは、私の息子の父親であるエドワード・リーヴァイ(編注:自伝では、マークの父親はエドではなくルイスになっている。エドワード・リーヴァイとエドが同一人物かどうかも不明)の命を脅かしていました。彼らは私の命も取ると脅しました。私は生活保護、合法的な生活保護を受けていました」 「まだ生活保護を受けているのですか?」 「いいえ、受けていません」 「職に就いているのですか?」 「今は就いていません」 「七八年三月、つまり今から二カ月前ですが、以来、職に就きましたか?」 「いいえ。だけど今は金持ちのボーイフレンドがいます」 「あなたは、我々のスタッフであるフォンジ氏から今年五月一日に電話がかかってきて話をしましたね。そのとき、あなたはバハマにいた」 「その通りです」 「あなたは休暇でバハマにいたのですか?」 「いいえ、私は逃げていました」 「だれから逃げていたのですか?」 「私は再び命を狙われていたのです」 「だれから命を狙われていたのですか?」 「ニューヨークのシェリー・アベンド氏です。彼は私と娘に対し肉体的な危害を与えると脅しました。そして私はそのテープも持っています」自伝に登場するシェリー・アベンドは、ロレンツの長年の友人で、ニューヨーク州北部に放牧場をもっている。保護拘束が受けられるよう弁護士を紹介した人物でもある。その長年の友人が危害を与えようとしているというのだから、一体ロレンツの仲間は誰で、敵は誰なのか、非常に混乱する証言である。 「そのテープを持っているのですか?」 「はい」これらの一連の質疑応答でわかるのは、ロレンツらはマイアミで保護拘束を受けた後、ニューヨークに戻り、再び危険が迫ったので、今度はバハマで身を隠していたということだ。そして、金持ちのボーイフレンドができて、多くの人間から命を狙われていた。ロレンツにとっては、“いつもの話”が続いていたわけだ。(続く)