新聞記者の日常と憂鬱(浦和支局編32)
▼タクシー運転手殺人事件1今思い出してもおぞましい事件である。最初は強盗事件であった。1985年10月4日午前0時40分ごろ、埼玉県八潮市の路上で東京の個人タクシー運転手のタクシーに乗っていた乗客の若い男が突然、「ここで止めろ」と停車を命じて、運転手の顔を素手で殴った。運転手は危険を感じて車外に逃げたところ、男はそのままタクシーを奪い逃走した。タクシーは30分後、約三キロ離れた東京都台東区で見つかったが、売上金8000円が入ったセカンドバッグが盗まれていた。このぐらいの事件なら20行未満のベタ記事である。おそらく読者の目に留まるか留まらないかぐらいのニュースであっただろう。しかしこの事件から間もなく、とうとう殺人事件が発生するのだ。発生場所は、今度は東京であった。10月30日、東京都八王子市のゴルフ場脇に停めてあった個人タクシーの車内で運転手が殺されていた。本社社会部の担当である。次に埼玉でも同様な強盗殺人事件が発生した。年の瀬も迫る12月16日午前6時50分ごろ、浦和市の住宅街の路上で停まっていたタクシーの中で運転手が血まみれになって死んでいるのを通行人が見つけ、110番した。浦和署が調べたところ、運転手の首には数ヶ所刃物で刺した跡があり、売上金も見当たらなかった。このため同署は強盗殺人事件と断定、捜査本部を設置した。タクシーは助手席側が半ドアになっており、殺された運転手のブレザーが車外に落ちていた。おそらく金目の物がないか物色した後、捨てたのであろう。付近の住民は同日未明に2,3回クラクションがなるのを聞いている。新聞配達員が同日午前四時半すぎに現場近くを通った時には、既にタクシーは現場に停まっていたという。このタクシー会社は東京都墨田区にある会社で、殺された運転手は同日午前2時で勤務を終え、その後は明けで休みの勤務であったという。タクシー運転手を狙った卑劣な強盗殺人事件は、年を越して1986年1月8日にも発生する。場所は私の住んでいた川口市であった。(続く)