ザ・イヤー・オブ・1981(その187)
ベケット作『ゴドーを待ちながら』のロンドン観劇ツアーの話でしたね。 おそらくウェイク先生は、リーディング・ウィークがある比較的楽な週を選んで、私のために日曜日のチケットを取ってくれたのだと思います。ダーウィン・カレッジそばの駐車場で待ち合わせて、ウェイク先生の車でロンドンに向かいました。学生は私一人で、ウェイク先生の奥様も一緒でした。 ロンドンの劇場まで送ってくれるとは、何という幸せ。ヒッチハイクばかりやっていた私にとっては、王様になった気分です。ケント大学があるカンタベリーからロンドンまでは電車で1時間半ほどですが、車でも同じくらいで到着できます。ほとんどドア・トゥー・ドアの分だけ、楽で便利ですね。ドイツの留学生マイケルも車を持っており、結構あちこち出歩いていました。一回だけ乗せてもらったことがあります。この時、外国での車の旅もいいなと思ったことをおぼろげながら覚えています。 さて、ウェイク先生の運転で無事ロンドンの中心街に着きました。劇場はオールド・ヴィック。私が前年にピーター・オトゥールの『マクベス』を見た劇場と同じですね。南の玄関口であるウォータールー駅の近くにあります。ウェイク先生は、劇場近くの路地裏に入ると、駐車スペースを見つけて、驚いたことにそこに駐車しました。 ロンドンのような大都会の真ん中で路上駐車していいのかなと思って尋ねると、道路脇に黄色線が引いていないところは基本的に公共駐車スペース(近くに料金メーターがある)で、しかも夜間と日曜日は無料になるのだと教えてくれました。日本では逆に土日の駐車料金が高くなりますから、真逆の発想です。 時は流れて、31年後の2012年5月19日。エディンバラの中心街にあるカレドニアン・ホテルに泊まった時のことです。車をどこに駐車しようかと思案していると、ホテルのベルボーイさんが妙案を教えてくれます。非常に安全な場所に公共駐車場があり、夕方の5時から朝の9時までは無料だから、それを使えばいいというのですね。 その日は、ちょうど土曜日で翌日は日曜日で無料。このシステムを使います。ただし平日は最長2時間までしか駐車できない場所でもありました。ホテルに着いたのは午後2時半でしたから、今からだと午後4時半までに駐車場を一回出なければいけないんですね。 そこでどうしたかというと、午後4時半に一度戻ってきて、車をちょっとだけ移動するんですね。たとえば隣のスペースとかに。その上で午後4時半から午後5時までの分と翌々日(21日の月曜日)の午前9時から午前10時までの料金を事前に払ってしまえばいいというんですね。そうすれば41時間をわずか8ポンドほどで駐車できるわけです。 このことを教えてくれたベルボーイさんは、私がその駐車場の場所をわかりづらそうにしていると、「じゃあ、私がそこまで運転してあげる」と言います。助かりました。実は私は田舎道の運転は好きですが、都心の運転が苦手なんですね。ベルボーイさんは私たちを乗せて、駐車場まで運転してくれると、料金メーターのあるところまで連れて行ってくれました。 その駐車場はホテルからも程近い閑静な住宅地の中にあり、駐車スペースもたくさんありました。やはり地元で暮らす人はいろいろ役に立つ情報を持っていますね。ベルボーイさんにチップをはずんだのは言うまでもありません(笑)。 そしてこの時、31年前にウェイク先生にロンドンまで車で送迎してもらって、ベケットの『ゴドーを待ちながら』を見たことを思い出したわけです。31年の時を隔てて、ロンドンとエディンバラの私が共鳴したことになります。 人生とは、こうした共鳴現象の連続みたいなものなのです。(続く)