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HANNAのファンタジー気分

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ファンタジーと児童書大好きな
HANNAのプチ書評日記。

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ファンタジーを語りたい!

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天までひびけ! ぼくの太鼓


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海鳴りの石』全4巻もよろしく!
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  僕の親父はファンタジー作家。新作に取りかかったが、しょっぱなから
行きづまって、ぷいと旅に出かけてしまった。主人公も登場させないうちに
スランプとは……だが、寝ていた僕の頭の中に、その主人公が突然、現れ
た。「君、力を貸してくれ」。かくて僕は親父の物語の世界に入りこみ……
  心おどるファンタジーの世界をあなたに!
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更新! 11月の詩「晩秋」hilban2
 
 
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September 28, 2024
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 宮崎駿「君たちはどう生きるか」(観てないんですが)の下敷きになった物語、そして作者がアイルランド人!というので、読んでみました、ジョン・コナリー『失われたものたちの本』
 異世界に行って主人公が成長する王道ファンタジーですが、全編暗めで生々しく残虐なシーンも多いです。最近はやりのダークやホラー、私はかなり苦手なんですが、(以前にも書いたとおり)成長期には”死”や血みどろのイメージがつきものなので、ここは耐えて読み進みます。

 主人公デイヴィッドは12歳で、このブログでは何度も注目してきたプレ思春期。この時期には孤独に陥ったり死の恐怖を味わったり、また鮮烈な生の喜びや友情を知ったりします。大人になるためのイニシエーションですね。
 けれど舞台は第二次大戦の空襲下のロンドン、母は病死し父は再婚、継母に子供ができ、家は引っ越す――という試練ずくめの状況で、孤立無援のデイヴィッドは、失神したり本の囁きを聴いたりするようになります。
 やがて彼の見る夢や幻、そして自室にも、「ねじくれ男」が侵入してきます。

 マザー・グースに「There was a crooked man」(ねじくれ男)というのがありますが、私は外見がくねくねの滑稽な男を歌ったものと思っていました。ところがこの物語に出てくるねじくれ男は、心がねじくれて嘘つきで、子供をさらう、恐ろしいキャラクターです。「トリックスター」とも呼ばれますが本来のそれより邪悪なタイプ。それもそのはず、(→ネタバレ)じつは彼こそがラスボスなのです。

 デイヴィッドは、亡き母の声を聞いてさまよい出た庭に爆撃機が墜落してきた拍子に、異界へトリップします。そこはおとぎ話の景色や登場人物が、奇妙で醜悪にねじくれて登場してくる世界でした。狼と交わった赤ずきんから生まれた人狼、肥満した暴君のような白雪姫と共産主義かぶれの小人たち、魔女である眠り姫の住む殺人的な茨の城などなど。

 河合隼雄によると、もともとのおとぎ話に残虐な要素がある(たとえば、赤ずきんと祖母は狼に食われておしまい)のは、

  …人生における戦慄をあらためて体験せしめる。
  …子どもが成人になるためのイニシエーション(通過儀礼)において…[中略]畏怖と恐怖の感情を持って体験した死と再生のプロセスは、彼らの「実存条件の根本的変革」をもたらすのである。――河合隼雄『昔話の深層』

 ということだそうです。この物語ではその戦慄や恐怖をおとぎ話以上にリアルに描き、デイヴィッドや読者の前に突きつけてきます。リアルすぎて悪夢のようです;

  竈のあまりの熱さに老婆の体に付いた脂肪が溶け、娘が吐き気を覚えるほどの悪臭を放った。老婆は皮膚から肉が剥がれても、肉から骨が剥がれても暴れ続け…  ――ジョン・コナリー『失われたものたちの本』より、「ヘンゼルとグレーテル」の異聞と思われる話

 あるいは、動物がかわいらしく擬人化されて服を着、言葉を話す絵本や童話がよくありますが、この物語では代わりに、派手な衣装を着たおぞましくリアルな人狼や、残酷な女狩人によってスプラッタの末つなぎ合わされた人頭獣身の生き物などが登場します。
 特に人狼はとっても不快で恐ろしいです。私はふとスティーブン・キング&ピーター・ストラウプ『タリスマン』に出てくる凶悪な狼人間エルロイを思い出しました。この本も12歳の主人公ジャックが重病の母を救うために体験する冒険譚ですが、不快感や苦痛が真に迫りすぎて読むのがつらい感じでした。
 『失われたものたちの本』でも、デイヴィッドのほかに、彼が読んだ古い童話本の所有者だったジョナサン少年も、欄外にダークな別バージョンを書きこんだり、赤ずきんの狼の挿絵を塗りつぶしたりしています。じつは、彼の恐れた悪夢の狼が、異世界に人狼となって出現したのでした。

 特に男の子の(と私は感じますが)プレ思春期の不安定な心の中では、幼年時代にキレイにデフォルメされて親しんだあれこれが、本来の暴力的で赤裸々な姿を現してきて、混乱や恐怖や嫌悪をひきおこすのでしょう。
 この物語には性的な描写もけっこうあって、デイヴィッドは生理的に嫌悪したりします。こういう描写は子どもの読者に対してどうなんだろう?とも思えますが、作者はあえて、例えば父母が寝室で何をしているか悟った時の、12歳の子どもの心理をリアルに描いているのでしょう。

 そうして、恐怖と苦痛と血みどろの死に満ちた道のりを、泣いたり吐いたりしながらたどるうちに、少年は少しずつ成長し自立していきます。そして精神的にある一線を越えた時、彼は少年ではなく大人になるのです;

  デイヴィッドの怒りが恐怖を飲み込み、逃げだしたい気持ちを吹き飛ばしました。その瞬間、彼は少年から男に代わり、大人へと続く道が本当に始まったのでした。――同前書

 少年が大人になる時、それはたとえば映画「太陽の帝国」(スピルバーグ)のジム少年(日本軍占領下の上海で両親とはぐれサバイバル体験をする)や、「銀河鉄道999」(松本零士)のラストで「♪地平線に/消える瞳には/いつしかまぶしい/男の光」と歌われた鉄郎なんかも、そうでした。

 ともあれ、壮絶な苦難を経て、デイヴィッドは体も精神も強くなるだけでなく、異世界のことわりを理解し納得して、敵に打ち勝ちます。苦難はあまりに大きく人生の悲しみを知って痛手は負いますが、そのぶん人生を理解して思いやりのある大人になるのです。
 うん、納得のいく大団円・後日譚まできっちり説明してくれて、ほっと読み終えることができました。スプラッタに耐えたご褒美を、私ももらった感じです。





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Last updated  October 6, 2024 11:14:52 PM
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