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カテゴリ:近ごろのファンタジー
『空色勾玉(そらいろまがたま)』など日本古代を舞台にした作品で今や和製ファンタジー作家の代表となった感のある荻原規子。先日も朝日新聞の古事記についての記事に登場していました。
私がひそやかに勝手に先輩!とあおぐ作家さんでもあります。 その荻原規子さんの未収録モノを集めたみたいな『〈勾玉〉の世界』を入手しました。「守り人」シリーズの上橋菜穂子との対談や、『これは王国のかぎ』の主人公上田ひろみのブラスバンド部物語の短編3つ、そして何より『空色勾玉』の番外短編「潮もかなひぬ」が載っていて、わりとお得な一冊だと思います。 さてこの「潮もかなひぬ」なんですが、輝(かぐ)の支配に対して反旗を翻す闇(くら)の一族がいよいよ戦さへ出発するその前夜の物語。一族の巫女になったヒロイン狭也(さや)、侍女奈津女(なつめ)とその夫柾(まさき)などの心境を細やかに描いています。 特に、奈津女と柾の愛情は現代風でういういしく、古代の物語なのにその雰囲気をこわさぬままこんなに今風にかけるのだなあというところが、さすがだと思いました。 「大好きよ、あたしの柾。・・・あなたがいるから、あたしがいるのよ。闇の氏族の命運を、あたしたちの代が決することに、いっしょに立ち向かいましょう。こんな時代に生まれたことも、あなたがいるから喜べるのよ」 --「潮もかなひぬ」 な~んて、少女漫画顔負けのセリフもすなおに書かれています。作者、気持ちがとっても純粋で若いです。 読者として親近感を持てるのは、『空色勾玉』本編でもそうですが、冒頭に引用されている和歌が、学校で習うようなとても有名なものであること。あ、これ知ってる!と思うとなんだか嬉しいです。 この番外編のタイトル「潮もかなひぬ」も、万葉集の代表的女性歌人、額田王の代表作「熱田津(にきたつ)に 船乗せむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」です。 ただし、ここにちょっとうがって見てしまう私がいるんです。あまりに有名なこの歌は、朝鮮半島へ出兵する軍勢を鼓舞するために詠んだとはっきり分かっているもので、背景的にも気持ち的にも、物語とはちょっと違うような気がするんですね。 それをこの物語の冒頭に掲げちゃって、そのうえ結末にあたる鳥彦のセリフにも入れちゃって、いいのかなあ。 『空色勾玉』では時系列的にこの番外編に続く「第四章 乱」の冒頭に、「海ゆかば 水漬く屍(かばね)・・・」という歌が掲げられており、作者はこれが戦時中の海軍の軍歌として有名だったことを、出版の後まで知らなかった、とどこかのインタビューで語っています。 イヤ、知らなかったのは仕方ないとして、でも、私でも知っていたんですけど、この軍歌。もちろん、元の歌は古代に作られ続日本紀におさめられた歌で、それを軍国主義の歌にしたてたのが勝手といえば勝手なんでしょうが、それを、天皇家誕生前夜を舞台にした『空色勾玉』に引用されると、読者としては受け取るイメージが複雑です。 初めて読んだ時には、軍国主義を払拭して原点の古代の歌に立ち戻るべきという思想?をここに見るべきなのか、とか、よけいなことを考えてしまいました。 有名な文学作品の引用って、むずかしいです。有名な史実や歴史上の人物を創作で扱うことも、ほんとにむずかしいと思います。 私もずーっと前、『海鳴りの石』を出したころ、出版社の方に、「架空の人でなく、たとえば卑弥呼を主人公にした歴史ファンタジーとか書いてみれば?」などと言われたことがあるのです。とても魅力的な提案でしたが、よく考えると卑弥呼だなんて、トンデモナイ。日本古代史上もっとも人気のあるヒロインともいえる人物を、我流で勝手に創作するなんて、そんな大それたことはとてもできませんという気がします。 話がそれました。とりあえず、久しぶりに荻原規子の日本史ワールドに触れて、とても楽しかったです。今は現代学園モノ(『RDGレッドデータガール』シリーズ)が進行中のようですが、私はどうもこの学園モノというのが苦手なため、読んでいないのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 14, 2011 11:51:31 PM
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