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10月もなかばになり、ちまたではハロウィンの飾り付けやお菓子が見かけられるもんですから、恩田陸の『ネクロポリス』を読み返してみました。物語で「ヒガン」(彼岸)と呼ばれる、死者との交流の時期が、(ハロウィンのあとですが)11月の1ヶ月間なのでした。
そもそもこれはもらい物の本でして、タイトル(ネクロポリス=「死者の都」)や表紙が不気味なので、最初は敬遠していました。それに恩田陸は『月の裏側』やいくつかの短編を読んで怖い思いをしたことがあるので・・・ その後いそいで一通り読んだら実はあまり怖くなかったので、今回じっくり読み直した次第です。 ほんとに怖くないです。日常生活にじわりとにじみ出る怖さを描くのがこの作者のオハコだとすると、この物語は作者自身によるそのパロディという感じさえあります。 舞台設定がまず楽しいです。日本とイギリスの古代精神がミックスされて息づく極東の架空の島国「ファーイースト・ヴィクトリア・アイランズ」。そこの特別歴史地区「アナザー・ヒル」で毎年行われる、死者と交流するお祭り「ヒガン」は重要無形文化財。なんだか、笑ってしまいます。 11月にその場所へ行くと、「お盆で地獄の釜のふたが開いて」というように、あの世から還ってきた死者に会えます。彼らは別に足のないおどろおどろしい亡霊ではなく、普通の格好で現れ、近親者と語り合うというのです。 ここには、生者と死者が隣り合わせの世界に存在していてわりと簡単におつきあいしてしまう、古い日本の社会が再現されています。そのくせ、主人公の日本青年をはじめ、日英ミックスのこの国の人々など、登場人物はほとんどが現代的で俗っぽくてわいわいがやがやしているのです。 首つり殺人などちょっと生臭いストーリーも展開していきますが、どこか作り物めいていています。何しろ、神聖な大鳥居(アナザー・ヒルの入り口)に血まみれの死体がぶらさがっていたのに、登場人物である「教授」がそれを見て「茶番劇だ」「ニセモノだ」などと推理して喜んでいるのですから。 作者は、緑豊かな幽玄の地で精霊や迷信や自然神をおそれうやまう、そんな古き良き日本&イギリスの伝統をいくつも取り出してきて楽しく混ぜ合わせ、架空の日英古代テーマパークにふさわしいイベントとして紹介します。 たとえば、ヒガン。お彼岸とお盆とハロウィンなどの絶妙なミックス。 ガッチ。犯人探しや嘘発見のための「盟神探湯(くがたち)」と、ローマの観光名所「真実の口」などのミックス。 ミサーグ。陵(みささぎ=陵墓)+ヨーロッパの先史時代の墳丘墓。 これら短く略され、カタカナ化された言葉は、促音が入ったりガ行の音が強調されたりして、本来の日本語にはなかったゴツゴツ感をかもし出し、それを文化人類学として主人公の青年が大まじめに学ぶ場面など、なんだか滑稽なんです。 なつかしいようなアナクロニズムと、それを自らギャグにしたようなユーモアとの合体。どこかと似ているぞ、と思ったら。 私の大好きな、アイルランドではありませんか。 場所こそファーイースト(極東)になっているけれど、この物語の舞台は幻想国化されたアイルランドなのではあるまいか。そんな気がしてなりません。 だって、螺旋状になったアナザー・ヒルは、ケルトの聖なる螺旋や、円形土塁(ラース)の古代集落&聖地にそっくりです。アイルランドではラースや丘の下には妖精の国があって時々丘の上にも現れるのですが、アナザー・ヒルにも精霊がおり、下層には異世界や超古代の世界が重なっているのです。 また、物語全体を通して唯一、俗っぽさがなく現代人離れした「ラインマン」は、先住民族出身で黒いフードつきマントを羽織り、まるで魔法使いだなと思っていたら、下巻で「ドルイドだ」と言われていました。 さらに、パブで語り合い黒ビール(ギネスビール?)やホットウイスキーを飲むこの国の人々は、アイルランド人的特徴をいちいち備えています。 底知れぬ澱のような伝統と因習が空気に染み込んでいる。古い木造建築と石造りの建物が地面から生えているように風景の一部となり、奇妙な調和を見せている首都・・・〔=ダブリン?〕 ・・・そこに住む人々は・・・一種グロテスクにすら思える奇妙な明るさがあるのだ。その自虐的で皮肉なユーモア・・・〔ジョイスやスイフトなどアイルランド文学の特徴?〕 --恩田陸『ネクロポリス』(〔 〕内はHANNAの連想) それから、小泉八雲(ラフカディオ・ハーン、日本に帰化したアイルランド系作家)のことが思い浮かびます。ご存じ、『怪談 kwaidan』の作者です。『ネクロポリス』の主人公はアナザー・ヒルで「百物語」を行うさい、「耳なし芳一」を語ろうとしますが、これは『怪談』に収録された有名な話ですよね。 かくて、日英ごちゃまぜオカルトアイテムや超常現象に出会いつつ、次第に明るく酩酊していく主人公の青年とともに、私は存分にテーマパーク的ワンダーランドであるアナザー・ヒルを楽しんで読み進みました。 最も根元的な恐ろしさを見せる、超古代の三本足の鳥人間さえ、「八咫烏」だと言われると、そうくるか!と思いましたし、何だか「崖の上のポニョ」がちょっと不気味な魚人間になる、あれみたいだなと思ったりしました。 奇妙に浮かれた調子で物語は進み、殺人犯も判明し、主人公は最後に悪ノリの天罰なのか、高熱で寝こむとあります。それもまた、作者が自分で自分の悪ノリを自虐的に戒めているようで、アイルランド的、なんですね。 私は恩田陸の作品は少ししか知らないので、恩田陸にこんな一面があるのか、それともこれこそがこの作者の本質なのか、よく分かりません。ともあれ、不気味で楽しいハロウィン・パーティのような物語でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
June 17, 2016 10:44:18 PM
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