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カテゴリ:気になる絵本
久しぶりに読み聞かせ絵本の紹介です。といっても1分で読めてしまう小さな本。
アハハと笑っておしまいなんですが、しかし、「えっ」と立ち止まって考えてみると、ちょっとシュールで怖い・・・ 以下ネタバレ注意。 男の子が風船ガムをかんでいます。プーとふくらますと、彼の顔と同じぐらい大きく丸くなって、ネコの顔になります。 次のページでは、向かい合った男の子とネコの顔の風船ガムが、どちらも「プー」。よく見ると、最初っから、男の子の首から下は描かれていなくて、ふくらんだガムとおんなじ。 次のページでは、おそろしいことに、ネコが「スー」と男の子を吸いこんで、ぱくっと口に入れてしまいます。今や、男の子の方がガムで、ネコがそれをかんでいます。 荘子に、「知らず周の夢に胡蝶と為れるか、胡蝶の夢に周と為れるか」という有名なくだりがありますが、ネコが男の子のガムか、男の子がネコのガムか、この物語ではごく自然に現実が夢(ファンタジー)と入れかわっているのです。 さて、ネコが再び(?)ガムをプーとふくらますと、男の子の顔が(ガムとして)再び現れます。今度は二人が互いに「プーブー」「プーブー」と相手(ガム)をふくらまそうとせめぎあいます。そりゃ、負けたらガムになってしぼんで相手に食べられてしまうのですから、必死です。起承転結の「転」部分ですね。 現実とファンタジーが時に同等のパワーでせめぎあう・・・そんな心理状態を表していると思うと、ハラハラします。もしファンタジーが勝つと、男の子の存在はそちらに吸収されて現実ではなくなってしまいます! で、緊張が極に達したところで、パァーン! 風船ガムが破裂します。そのページには絵がありません。いったいどちらが破裂したのでしょうか! 結末は最後のページにあります。割れたガムの残骸が顔中にはりついてしまって、ひどいご面相になっている男の子。ああよかった、本来のガムの方が割れた、つまりファンタジーは消えて現実に戻ったのですね。 非日常的な冒険のあとはしっかりと現実に戻ってきてああよかった、と終わるのが小さな子ども向けの絵本や物語の鉄則だそうですが、これはファンタジーの鉄則でもあります。トールキン的にいうなら「There and Back Again(行きて帰りし物語)」の基本を、この短い絵本がちゃんと押さえているので、安心して読み終えることができます。 それにしても、非現実世界で、当人にとってすごすぎる心理的冒険をして帰ってくると、その重みが現実界にもひずみをもたらすことがあります。たとえば、宮沢賢治の『注文の多い料理店』の二人の紳士は、山奥で山猫に食われそうになった冒険のあと、東京に帰ってもお湯に入っても、くしゃくゃになった顔が元に戻りませんでした。 この絵本でも、最後のページで、男の子の顔にべったりとガムがくっついてしまい、はがすのに苦労しそうな有様になっているのは、ねこガムとの死闘の余波だと思われます。たぶんきっとガムははがれるでしょうし、その後の彼の顔は元に戻るでしょうが・・・ この場面では男の子は頭だけでなくちゃんと手足も描かれています。ズボンのポケットにはまだ何枚かガムが入っています。そのうちまた、食べるのでしょうか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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