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HANNAのファンタジー気分

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February 13, 2013
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 これも娘のおすすめ本です。全米で大人気の傑作少年小説、一度聞いたら忘れない題名『穴』! なるほど、一気に読ませるムダのないストーリー展開で、まるでジグソーパズルが完成する時のように、前半のさまざまなできごとが後半でぴたぴたぴたっと組み合わさって、物語が完成します。

 現代のアメリカが舞台なのですが、この「ぴたぴたぴたっ」という点が、現実を超えたファンタジーだという気がします。
 たとえば、主人公が無実の罪で放りこまれた矯正キャンプで、真犯人と偶然同じ班になること。
 そこから脱走して、砂漠化した大地を水もなく歩く主人公が、偶然、日陰になる古い船(砂漠化する前は湖だったので)を見つけるところ。
 その船の下から、先祖に関わりのある人物がつくったジャムが掘り出され、渇きで死にそうな彼の命を救うところ。
 ほかにも、偶然の(いや運命で決まっていたかのような?)一致や、「ちょうどそのとき…

というような同時性が、たくさん出てきます。いわば、奇蹟の連続。
 しかし、物語が非常にうまく語られていくため、それらの奇蹟がちっともわざとらしくなく、主人公の絶望的な境遇を救う「希望」あるいは「予言の成就」にさえ思えるのです。

 アメリカには(ネイティブアメリカンを除くと)神話や伝説を最下層にもつような歴史の重さがありません。にもかかわらず、この物語には時間的な厚みが醸し出すファンタジー性があります。
 主人公の先祖はラトヴィアからの移民で、ラトヴィアの魔女(『ライラの冒険』シリーズにも出てきましたっけ)の呪いとともにアメリカに渡ってきました。そして、お定まりの夢の開拓時代。矯正キャンプのある荒れ地は、当時「グリーンレイク」という緑あふれる美しい土地だったのです。しかし、夢のアメリカはまた、人種差別の地でもあり、悲劇のヒロイン、キャサリン(ケイト)の呪いで、湖は干上がります。古い呪い、新しい呪い。夢のアメリカの現実。
 余談ですが、このあたりで、私はスピルバーグが移民時代のご先祖を念頭につくったアニメ「アメリカ物語」の続編「ファイベル西へ行く」を思い出しました。西部開拓を夢見てファイベル一家がたどりついたのは、「グリーンリバー」と名付けられた土地でしたが、実はそこは赤茶けて乾ききった荒野でした。

 アメリカには、そんな名前のそんな土地がたくさんあるのでしょうね。しかし、『穴』では、干上がった大地は先祖の「お宝」を隠していました。
 主人公が掘って掘って見つけたのが、まずキャサリンの口紅の容器(これは現代のものとほぼ同じでした)、次に万能薬としてのタマネギ(アメリカで品種改良され多く栽培された野菜。殺菌効果があり、中世ヨーロッパでは薬草だったそうです)、そして先祖の財産がつまったスーツケース。古代や中世の宝ではないですが、だんだんと「時代」を感じさせる物になっていっています。

 さらに、主人公の名前にも時の重層感があります。河合隼雄によると、西洋の名前は、親や先祖とまったく同じ名を受け継いでいることがあるが、この襲名による先祖との結びつきが個人のアイデンティティを支えているというのです。
 『穴』の主人公スタンリー・イェルナッツは、先祖からずっと同じ名前を受け継いでいます。しかも姓と名はつづりが裏返しの回文風で、名前そのものが、時をさかのぼったり下ったりして先祖と交流するような、そんな名前なのでした。

 物語の方は、壮絶なサバイバルの末、最後に救いの手がさしのべられて、読者は安堵します。始まりがどんなに不運でも、不幸でも、過酷な運命に勇敢にいどんだ者が、最後に運をつかみ成功する。まさしく、アメリカン・ドリーム。さわやかな読後感です。


 





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Last updated  February 13, 2013 11:51:15 PM
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