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HANNAのファンタジー気分

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February 24, 2013
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 娘は今までファンタジー特に洋ものは大の苦手と公言していたのですが、最近、突然はまり始め、この『盗神伝1 ハミアテスの約束』もおすすめ品だそうです。

 アメリカ産の長編異世界ファンタジー。ただし作者がギリシャ旅行した時にできた話とあり、舞台となる土地はオリーブ林など、地中海の古代文明風です(銃も出てきますがね)。あまりアメリカっぽさはありません。

 読者をどんどん引っ張っていくとても巧みな展開で、何しろ1人称で語る主人公の少年(盗人!)ジェンは、冒頭から牢屋に入っています。そこへ、隣国の王権にかかわる神々の秘宝を盗むなら自由にしようという、提案。お決まりの冒険への旅立ち。しかし、ジェンは囚人として見張られ、さげすまれながらの旅です。

 旅の合間に、舞台となる世界の歴史を物語る神話が少しずつ語られて、長旅の描写が冗長になるのを防いでいます。
 このあたりから(いや、実は注意深く読めばもっと最初の方から)、どうもジェンはただの盗人ではないという気がしてきます。見かけ通りの貧しい盗人なら語れるはずのない神話を知っているし、時々出る家族の話も思わせぶりで気になります。行儀は悪く反抗的で口汚いけれど、それはとても素直な感情表現で、もとから虐げられた育ち方をしたのではない、まっとうな雰囲気が次第ににじみ出てきます。
 母が隣国エディス人だと話すあたりで、隣国のスパイだろうかと思いました。けれど、それにしては無神経で正直な言動が多すぎます。

 隠しきれない彼の素性の良さを感じ取って、同行する者のうち、大人二人(王の助言者メイガスと兵士ポル)は少しずつ彼を認め始めるし、素直な少年ソフォス(実は王の甥)はかなり初めからジェンに友情を示します。また、年長の青年アンビアデスはジェンに疑念と嫉妬を抱くようになります。

 秘宝の探索の進行とともに、ジェンや彼をめぐる人間関係が少しずつ浮かび上がってくるところも、読者を飽きさせず急がせず、ちょうどいいペースで最後の謎解きへとひっぱっていきます。

 そうして、どきどきする宝探し、消えた宝石、敵国に捕らえられ、脱出し、裏切りあり、また捕らえられ・・・と、終盤は矢継ぎ早に事件が起こり、目が離せません。結局、思わぬ所から宝が出てくるし、ジェンの素性はやっぱり高貴な若様だったのね、と決着します。良くできた展開と語り手ジェンのとぼけぶりに、読者もふり回されてしまったわけです。

 ただ。こんなふうに主人公が1人称で「おれは」と語る物語を読まされた読者は、結局「おれ」が最初っから素性を読者にも明かさないまま白々しく話を進めていたことにあとで気づき、むっとするかもしれません。
 読者をも最後までだましていたのなら、最後でいいから一言「おれ」の釈明がほしいところです。つまり何か理由があって(あるいは単なる「おれ」のひねくれた冗談としてでもよい)、この物語では「おれ」の素性を最後まで明かさず語り進めたのだということ。
 なぜなら、ふつうは、「おれ」が語る話ならば読者にだけは「おれ」の素性は最初から明らかにされて当然だからです。

 さて、物語はまだまだ次巻へと続くようで、邦訳されているだけでも5巻、原書ではさらに新しいシリーズもあるようです。小気味よい反抗的な少年ジェンが成長してどうなっていくか、気になるところではあります。 
 





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Last updated  February 25, 2013 12:06:27 AM
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