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カテゴリ:近ごろのファンタジー
これまた娘のおすすめです。スピルバーグが映画化する予定など、話題作ですからタイトルだけは知っていました。
少女が寝る前に思いつき、お母さんと練り上げたお話だそうで、まずその点で英国ファンタジーの伝統を踏襲しています。 先だっての『ミーズル』シリーズと同様、舞台設定や展開は子どもの大好きなポイントを押さえ、古典的なおとぎ話・ファンタジーの骨組みをふまえつつ、現代的な味付けとハイテンポな展開で読者を魅了しています。こういうのが、最近のパターンのようですね。 『ミーズル』では鉄道模型や遊園地だったのが、この『ライオンボーイ』では移動サーカス団です。それも、シルク・ド・ソレイユ級の派手さと、ボリショイ・サーカス級の動物芸をあわせ持つ真っ赤な蒸気船。そこで行われる「世界一華麗なるショー」に、主人公チャーリーはまぎれこむのですが、あまりに魅力的に描かれているので、チャーリーならずとも一度ほんとうに観てみたい。 邦訳本には、なんと天野喜孝が表紙絵と挿絵を描いていて、さすがにこれが見事! 躍動感あふれるライオン、幻想的な衣装、そしてバックにはノスタルジックなパリの街! そう、この物語は現代的であると同時に、レトロなのです。石油枯渇で自動車が走らなくなった近未来という設定ですが、始まりの舞台であるイギリスの川辺の田舎町や、フランスへ渡ってセーヌ川沿いの風景、さらにパリの街、オリエント急行など、現在(否、ここ何十年)と変わらぬ昔ながらの雰囲気。 さらに、サーカスが超レトロ。前宣伝にパレードをするほか、本番ではリングにおがくずがまいてあってその匂いがするし、曲馬やピエロ、檻を上下左右にかけめぐるライオンなど、昔観たなつかしいものばかり。きわめつきが、「カライオピ」と訳されている蒸気オルガン。遊園地やサーカス、大道芸などに使われることのある、あれです。 ドラムのようにリズムを刻み、バイオリンみたいに物悲しい音を響かせる。・・・(中略)・・・耳を傾けていると、やりたかったのにできなかったすべてのことが思い出されるような気がする。・・・ずっと昔、はるか彼方から呼びかけているような音楽・・・。 ――ジズ・コーダー『ライオンボーイ』枝廣淳子訳 主人公は実はネコ語が話せるので、サーカスのライオン(ネコ科!)の脱出計画を練ることになります。ここで私はどうしても、『ドリトル先生のサーカス』を思い出さずにはおれませんでした。 作者たちの念頭にもきっとあったに違いありません。ネコ語についての説明の中で、ロフティングの名がちゃんと挙がっています。『ドリトル先生のサーカス』には、古典的移動サーカスのわくわく感はもとより、物言う馬の芸当(足し算をしたり、美人に花をあげたりするところは、『ライオンボーイ』の学者ブタが同じことをしていますね)や、オットセイの脱走、ライオンの短期間の脱走、さらにそのライオンをアフリカに帰してやる話まで、全部あるのです。 主人公が孤立無援で旅していくとき、行く先々のネコたちが彼らなりのネットワークで助けてくれるところも、ドリトル先生を彷彿とさせます。 「古典的」児童文学に似ているということは、物語が子どもの心をとらえる“正統”な構造を持っていると私は解釈したいです。つまり、安心して物語に入りこみ、冒険ができるということです。 とはいえ、『ライオンボーイ』では、主人公を少年にし、物語の軸を、両親を求める旅にした点で、また異なったストーリーが展開します。 アレルギーを治す世界的な発明をしたばかりに、ノーベル賞をもらうどころか、自由を奪われ悪徳企業に洗脳されそうになる両親。巨大企業の悪を裁く力を持たない政府。大人社会のゆがみが、純粋なチャーリー少年の目を通して、暴き出されます。 そのような現代の先進工業国的社会悪に対抗するには、たとえばガーナ人であるチャーリーの父の歌や、ネコたちのネットワーク、あるいは最後の方に出てくる世俗を超越した王様などの力を結集しなければならないのでしょう。アレルギー治療の新発見を金銭的にしか評価できない「組織」の人間どもに比べ、日頃の仲違いも棚に上げて協力してくれるネコたちの、なんと真摯なことでしょう。 物語は、まだまだ序の口!というところで終わり、すぐにでも2巻が読みたくなります。『ハリーポッター』以降最高に成功した「シングルマザー」の小説、というレビューもありますが、私の好みとしては、ハリーポッター以上のすべり出しだと思います。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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